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第5章 棘城編
第144話 フィドキア満腹作戦
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ある日エルヴィーノは王都イグレシアのダイコン亭に来ていた。
ダイコン亭とは龍人御用達の料理店だ。
もともと安価で美味しい料理を出すゲレミオの傘下の店で、その店主カラミと打ち合わせをしていた。
食事店で打ち合わせなど”誰かの為に”が前提だ。
ただし、今回は多少趣が違う。
美味しい物で満足させるのでは無く腹いっぱいで満足させるのが勝負だったが、横暴な龍人の食欲に対して作戦を練った。
エルフに変化したエルヴィーノは、たかが数人で数日分の売上を食べてくれ、支払は国からなので上得意様なのだ。厨房で店主兼料理長のカラミと話をしていた。
「カラミィ~、あいつを腹いっぱい出来るの?」
「私一人では厳しいです」
「じゃ調理人が何人居ればいいのだ?」
「同等の技術が有る者で三人は欲しいです」
だが、何人居た所でヤツは食べてしまうだろうと内心思っていた。
「よし、今回は2人の対決だから、時間制にしよう」
「時間制ですか?」
「あぁ、そうだなぁ三時間でどうだ?」
「構いませんが」
「制限時間内で出来るだけ多くの量を作って、時間内に食べきれるかだ。時間差は10分でどうだ?」
「それであれば私が確実に勝ちますよ?」
「カラミ。油断は禁物だぞ。奴らの食べっぷりをその目で見て無いからそんな事を言えるんだ」
真顔で問いかけるエルヴィーノを見て心配そうな顔をする。
2人は対フィドキア戦を想定して作戦を立てていた。
「10分の差を有効に使うには早く出来る料理と、食べづらい料理を如何に出すかだ」
最初の10分よりも、最後の30分にどんな料理を出すかが勝利の決め手となると考えた。
「食べづらい料理なんて出したことも無いし、考えたこともないですよ」
カラミが言うのも当然の事で料理は美味しく食べやすいモノだから。
「解ってるよ。要するに、よく噛んで食べなきゃいけないものや、辛い物とか熱い物とかはどうだ?」
「それでしたら何とか出せます」
有り合わせの食材で料理を組み立てるカラミ。
エルヴィーノは気になったのでカラミにお願いしてみた。
「ちょっと味見できるか?」
「はい、今作ります」
厨房での打ち合わせだったので目の前で鍋を振るうカラミ。
まず出してきたのは、見るからに辛そうな料理だった。
「これは、いくつも山を越えた村の料理だと聞いています」
カラミの説明を聞いて一口食べると。
「旨い!」
続けて食べると
「・・・っ!」
強烈な辛さが後から来て口の中を暴れ回っている。
「辛っれぇぇぇぇ!」
唇が腫れ上がっている感覚がある。
「何だこりゃ!」
「だから遠い異国の辛い料理です」
冷たい水を飲みながら作戦を立てる。
「これを山盛りで出せばヤツも手が出ないかもな。因みに辛さは変えれるのか?」
一口目が美味しかったので、もう少し辛さを抑えてもらうつもりで聞いたエルヴィーノだ。
「はい、今のを辛さを基準として倍でも三倍、五倍でも如何様にでもしますよ」
「ヤツとの勝負では最初三倍で最後に五倍だな。俺には今すぐ三分の一の辛さで作ってくれ」
要望の料理を作りながら違う食材を調理しているカラミ。
どんな料理が出てくるか楽しみだ。
「はい、お待たせしました。ピリ辛炒めとジースーの旨煮です」
出された料理を食べてみると、先ほどと同じ味わいで辛さが大分抑えられた感じだ。
これならば女性でも食べれるだろう。
続いて次の料理を食べてみる。
「旨い!」
口の中にまだ入っているがよく煮てある感じで味が染み込んでいる。しかし・・・
「・・・(もぐもぐ)」
「・・・(モグモグ)」
「カラミィ~、これ噛み切れ無いけどぉ」
いくら噛んでも切れないので聞いてみた。
「それは10本の干した物と、肉の下拵えの時に取っている筋を集めて美味しく煮込んだ物です。だから噛み切るのでは無く飲み込んでください」
言われた通りに飲み込んだ。
面倒な食べ物だが味は良い。
ずいぶん噛んでいたが全部食べるのはキツそうだし、きっと顎がつらくなるだろう。
「よし、これも使おう!カラミ、コレを辛くしたらどうだ?」
「良いですねぇ」
「他には何が出来る?」
「辛い、食べにくいと来ましたから、次は熱いですか?」
そう言って調理を始めたカラミ。
そして、バジュュッ!っと何かが弾ける大きな音がした。
水蒸気が立ち込み何をしたのかは解らないが香ばしい香りが厨房を支配した。
「はい、お待たせしました。スッゴく熱いですからね。器も熱いから気を付けてくださいね」
それは余り湯気が出ていないが熱気が伝わってくる。
木のスプーンで食べるらしいが見るからにヤバそうで絶対に火傷しそうだ。
エルヴィーノが料理の前で固まっているとカラミがパンを持ってきた。
「少しパンに付けて食べてみてください」
指示通りパンの先にチョンッと付けてフーフーしながら食べてみた。
「旨い!これは油か?」
「はい、下味を強めにしてタップリの油でスープ状にしてあります」
なるほど、熱を楽しむのか。
熱いままで最後まで楽しめる一品だ。
エルヴィーノは腕組みしながら考えた。
「カラミ、これらは全て遠い地か、異国の料理だな?」
「はい、最後の料理は北の地方料理です」
フムフム
「これらを全部合わせた料理は出来るか?辛くて食べづく熱々の料理だ」
「可能です」
「じゃ三分の一の辛さで作ってみてよ」
調理するカラミを眺めながら待っている。
「出来ました。どうぞ」
最初はパンに付けてフーフーしながら食べる。
「熱っ、辛っ、だけど美味しいぞ。辛いジースーも旨い」
ゆっくりであれば美味しく食べれるので、今度全員に食べさせよう。
料理は決まった。
後は量だ。
それぞれ一度にどのくらい作れるのか。
どのタイミングで、どの順番で出すのか?
「カラミ、作戦会議だ」
その後遅くまで話し合い打倒フィドキアを目指していた。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
カラミとの作戦は準備万端で、後はフィドキアと日程を決めるだけだった。
「フィドキアァ居るだろぉ」
転移して監視室に行くとコラソンも居た。
「対決の準備が出来たのですね」
どうせ見ていたのだろうと思いながら
「あぁ、今回はルールを決めての対決にするからフィドキアの都合を聞こうと思ってさ」
「我はいつでも良いぞ」
そうだろうとは思ったけどね。
「時にモンドリアンさん」
「はい、何でしょう」
「勝負の後は我々も食べて良いのですか?」
「勿論だよ。龍人対ただの料理人の対決の後は健闘を称え合って食事会はどうですか?」
「良いですねぇ、我々と後はルルディを呼びますか?」
「はい、お願いします。」
決められた日時。
平日の午後、子供ならばオヤツの時間から三時間の戦いが始まる。
店には大食漢対料理人と言ってあるが、実際は龍人対料理人の戦いが始まろうとしていた。
エルヴィーノとカラミの作戦はこうだ。
前半は普通に料理して途中から今回考えた料理を少しずつ出して様子を観る。
その後、辛さ硬さ熱さを増していき最後の30分で一気に集中して超辛、激硬、極熱料理を大量に出す戦法だ。
勿論、ラソンの裏技(食べた物を強制的に消化して魔素に変換する魔法)は無しだ。
試合は厨房で行われる。
お互いの姿が見れる様にだ。
二人に再度取り決めを説明し納得の元、勝負が始まった。
開始の合図はコラソンが担当だ。
「それでは両者、始め!」
先ずは10分の間に如何に沢山の料理を出すかだ。
これはカラミが独断で考えたようだ。
通常は具材や出来た料理を皿に取り分ける台に次々と出される料理の数々。
今回は10分の砂時計を使ってタイミングを計るのもコラソンの役目だ。
目の前の料理を観て涎を垂らす黒い人。
コラソンが”みっともない”と言ってあるが、お預け状態なので仕方ないだろう。
エルヴィーノはカラミにも聞こえるように話す。
「後少しで10分経つぞ。フィドキア!始めてくれ」
合図を聞いて食べ出すフィドキアは、今までで一番の食べっぷりだ。
見る見るうちに皿の料理が無くなっていく。
後ろをチラチラと観ていたカラミが作る早さを上げた。
一時間も経たない内に今回用意した料理を出してきた。
まず最初に出したのはジースーの旨煮だ。
見ただけではどの程度堅いのかは解らない。
しかし、・・・フィドキアのスプーンが止まった!
スプーンは止まっているが顎は動いている。
咀嚼しているようだ。
他の皿の倍以上の時間をかけて平らげた。
エルヴィーノはこの時心で(勝てる)と思った。
僅かな時間差で一気に皿の量を増やしたカラミは次の必殺料理を出した。
見ただけで解る。
真っ赤だ。
彼らの大好きな肉が真っ赤に染まっているぅ!
それを口の中に送ると、フィドキアの口が開いた!
まるで人型状態でブレス攻撃をしているが如くだ。
僅か数秒だが意表を付いた攻撃に我を忘れた様だった。
戦いは二つの新メニューを随所に出しながら最後の30分前に差し掛かった。
時間差は10分。
机の上に料理は三皿。
最低でも10皿は確保したい所だ。
カラミの追い込み調理が始まる。
用意していた料理を次々に作り上げるカラミは最後の10分で熱々料理5連発だ!
激辛と激辛堅い料理が具材と味を変え五種類出てくる。
そして机の上には10皿だ。
フィドキアに残り10分と伝えると、追い込みをかけて食べる早さが増したようだ。
堅くて辛い料理を難なく平らげて熱い料理達に挑むフィドキアだ。
スプーンで一掬い飲むと眉間に皺を寄せた。
多分熱いのだろう。
しかし、一瞬躊躇したが早かった。
最初の一皿はスープだけなので直ぐに飲み干し、続く皿は熱くて激辛スープだ。
先ほどと同じ早さだが額からは汗が滴っている。
ラストの三皿は具入りの熱くて激辛の堅い具の入った味の違う三皿だ。
コラソンと俺とカラミはフィドキアの食べっぷりと砂時計を見比べていた。
フィドキアも意識しているようで、チラチラと見ている。
そして残り一皿と砂が後僅かで、熱くて辛く堅い料理を口の中に思いっきり頬張るフィドキア。
最早噛んでいない。
半分は飲み込んで半分は口の中だ。
皿はカラだが口の中いっぱいに詰め込んでいる。
「全部飲み込まないと食べたとは認めない」
ちょっと意地悪したが水と一緒に飲み込んだフィドキアとカラミが一緒に叫んだ。
「時間切れだ」
「食べきったぞ」
フィドキアは口を開けて飲み込んだ事を見せつけた。
決定的にどちらが早いとは言い切れず、エルヴィーノはコラソンと話した。
「ほぼ同時の様だけど、どうしよう?」
「これは引き分けで良いのでは無いでしょうか?」
なるほど、引き分け。
その手が有った。
「二人とも、今回の勝負は引き分けだ。どちらも負けてはいないが勝負はほぼ同時だったので二人とも勝ちだ」
エルヴィーノはにっこりと笑って問いかける。
「貴様の新しい料理。美味だった。今度はもっと味わって食べたい物だ」
フィドキアからの称賛とも言える言葉にカラミも返す。
「私が考えたユックリ食べる料理をあれほど早く食べるとは流石です」
褒めているのか解らないが二人で称え合っている。
「例え引き分けたとしても我を満足させる料理を作ったお前にコレを与えよう」
フィドキアが渡したのは銀色の腕輪だ。
「コレは1日中鍋を振っていても疲れない癒しの腕輪だ」
「そ、そんな魔導具を頂けるのですか?」
「くれるなら貰っておけば良いよ」
「では有りがたく頂戴します」
嬉しそうにするカラミが早速肩に近い腕に付けてみる。
「何だか肩や腕が軽い感じがしますよ」
効果を体感したらコラソンがおねだりしてきた。
「最後に作った料理だが、私も食べてみたいが良いかい?」
「喜んで!」
笑顔で作り出すカラミ。
熱くて辛く堅い具が入った料理を仲良く食べた四人だった。
あとがき
めでたく引き分けでした。
ダイコン亭とは龍人御用達の料理店だ。
もともと安価で美味しい料理を出すゲレミオの傘下の店で、その店主カラミと打ち合わせをしていた。
食事店で打ち合わせなど”誰かの為に”が前提だ。
ただし、今回は多少趣が違う。
美味しい物で満足させるのでは無く腹いっぱいで満足させるのが勝負だったが、横暴な龍人の食欲に対して作戦を練った。
エルフに変化したエルヴィーノは、たかが数人で数日分の売上を食べてくれ、支払は国からなので上得意様なのだ。厨房で店主兼料理長のカラミと話をしていた。
「カラミィ~、あいつを腹いっぱい出来るの?」
「私一人では厳しいです」
「じゃ調理人が何人居ればいいのだ?」
「同等の技術が有る者で三人は欲しいです」
だが、何人居た所でヤツは食べてしまうだろうと内心思っていた。
「よし、今回は2人の対決だから、時間制にしよう」
「時間制ですか?」
「あぁ、そうだなぁ三時間でどうだ?」
「構いませんが」
「制限時間内で出来るだけ多くの量を作って、時間内に食べきれるかだ。時間差は10分でどうだ?」
「それであれば私が確実に勝ちますよ?」
「カラミ。油断は禁物だぞ。奴らの食べっぷりをその目で見て無いからそんな事を言えるんだ」
真顔で問いかけるエルヴィーノを見て心配そうな顔をする。
2人は対フィドキア戦を想定して作戦を立てていた。
「10分の差を有効に使うには早く出来る料理と、食べづらい料理を如何に出すかだ」
最初の10分よりも、最後の30分にどんな料理を出すかが勝利の決め手となると考えた。
「食べづらい料理なんて出したことも無いし、考えたこともないですよ」
カラミが言うのも当然の事で料理は美味しく食べやすいモノだから。
「解ってるよ。要するに、よく噛んで食べなきゃいけないものや、辛い物とか熱い物とかはどうだ?」
「それでしたら何とか出せます」
有り合わせの食材で料理を組み立てるカラミ。
エルヴィーノは気になったのでカラミにお願いしてみた。
「ちょっと味見できるか?」
「はい、今作ります」
厨房での打ち合わせだったので目の前で鍋を振るうカラミ。
まず出してきたのは、見るからに辛そうな料理だった。
「これは、いくつも山を越えた村の料理だと聞いています」
カラミの説明を聞いて一口食べると。
「旨い!」
続けて食べると
「・・・っ!」
強烈な辛さが後から来て口の中を暴れ回っている。
「辛っれぇぇぇぇ!」
唇が腫れ上がっている感覚がある。
「何だこりゃ!」
「だから遠い異国の辛い料理です」
冷たい水を飲みながら作戦を立てる。
「これを山盛りで出せばヤツも手が出ないかもな。因みに辛さは変えれるのか?」
一口目が美味しかったので、もう少し辛さを抑えてもらうつもりで聞いたエルヴィーノだ。
「はい、今のを辛さを基準として倍でも三倍、五倍でも如何様にでもしますよ」
「ヤツとの勝負では最初三倍で最後に五倍だな。俺には今すぐ三分の一の辛さで作ってくれ」
要望の料理を作りながら違う食材を調理しているカラミ。
どんな料理が出てくるか楽しみだ。
「はい、お待たせしました。ピリ辛炒めとジースーの旨煮です」
出された料理を食べてみると、先ほどと同じ味わいで辛さが大分抑えられた感じだ。
これならば女性でも食べれるだろう。
続いて次の料理を食べてみる。
「旨い!」
口の中にまだ入っているがよく煮てある感じで味が染み込んでいる。しかし・・・
「・・・(もぐもぐ)」
「・・・(モグモグ)」
「カラミィ~、これ噛み切れ無いけどぉ」
いくら噛んでも切れないので聞いてみた。
「それは10本の干した物と、肉の下拵えの時に取っている筋を集めて美味しく煮込んだ物です。だから噛み切るのでは無く飲み込んでください」
言われた通りに飲み込んだ。
面倒な食べ物だが味は良い。
ずいぶん噛んでいたが全部食べるのはキツそうだし、きっと顎がつらくなるだろう。
「よし、これも使おう!カラミ、コレを辛くしたらどうだ?」
「良いですねぇ」
「他には何が出来る?」
「辛い、食べにくいと来ましたから、次は熱いですか?」
そう言って調理を始めたカラミ。
そして、バジュュッ!っと何かが弾ける大きな音がした。
水蒸気が立ち込み何をしたのかは解らないが香ばしい香りが厨房を支配した。
「はい、お待たせしました。スッゴく熱いですからね。器も熱いから気を付けてくださいね」
それは余り湯気が出ていないが熱気が伝わってくる。
木のスプーンで食べるらしいが見るからにヤバそうで絶対に火傷しそうだ。
エルヴィーノが料理の前で固まっているとカラミがパンを持ってきた。
「少しパンに付けて食べてみてください」
指示通りパンの先にチョンッと付けてフーフーしながら食べてみた。
「旨い!これは油か?」
「はい、下味を強めにしてタップリの油でスープ状にしてあります」
なるほど、熱を楽しむのか。
熱いままで最後まで楽しめる一品だ。
エルヴィーノは腕組みしながら考えた。
「カラミ、これらは全て遠い地か、異国の料理だな?」
「はい、最後の料理は北の地方料理です」
フムフム
「これらを全部合わせた料理は出来るか?辛くて食べづく熱々の料理だ」
「可能です」
「じゃ三分の一の辛さで作ってみてよ」
調理するカラミを眺めながら待っている。
「出来ました。どうぞ」
最初はパンに付けてフーフーしながら食べる。
「熱っ、辛っ、だけど美味しいぞ。辛いジースーも旨い」
ゆっくりであれば美味しく食べれるので、今度全員に食べさせよう。
料理は決まった。
後は量だ。
それぞれ一度にどのくらい作れるのか。
どのタイミングで、どの順番で出すのか?
「カラミ、作戦会議だ」
その後遅くまで話し合い打倒フィドキアを目指していた。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
カラミとの作戦は準備万端で、後はフィドキアと日程を決めるだけだった。
「フィドキアァ居るだろぉ」
転移して監視室に行くとコラソンも居た。
「対決の準備が出来たのですね」
どうせ見ていたのだろうと思いながら
「あぁ、今回はルールを決めての対決にするからフィドキアの都合を聞こうと思ってさ」
「我はいつでも良いぞ」
そうだろうとは思ったけどね。
「時にモンドリアンさん」
「はい、何でしょう」
「勝負の後は我々も食べて良いのですか?」
「勿論だよ。龍人対ただの料理人の対決の後は健闘を称え合って食事会はどうですか?」
「良いですねぇ、我々と後はルルディを呼びますか?」
「はい、お願いします。」
決められた日時。
平日の午後、子供ならばオヤツの時間から三時間の戦いが始まる。
店には大食漢対料理人と言ってあるが、実際は龍人対料理人の戦いが始まろうとしていた。
エルヴィーノとカラミの作戦はこうだ。
前半は普通に料理して途中から今回考えた料理を少しずつ出して様子を観る。
その後、辛さ硬さ熱さを増していき最後の30分で一気に集中して超辛、激硬、極熱料理を大量に出す戦法だ。
勿論、ラソンの裏技(食べた物を強制的に消化して魔素に変換する魔法)は無しだ。
試合は厨房で行われる。
お互いの姿が見れる様にだ。
二人に再度取り決めを説明し納得の元、勝負が始まった。
開始の合図はコラソンが担当だ。
「それでは両者、始め!」
先ずは10分の間に如何に沢山の料理を出すかだ。
これはカラミが独断で考えたようだ。
通常は具材や出来た料理を皿に取り分ける台に次々と出される料理の数々。
今回は10分の砂時計を使ってタイミングを計るのもコラソンの役目だ。
目の前の料理を観て涎を垂らす黒い人。
コラソンが”みっともない”と言ってあるが、お預け状態なので仕方ないだろう。
エルヴィーノはカラミにも聞こえるように話す。
「後少しで10分経つぞ。フィドキア!始めてくれ」
合図を聞いて食べ出すフィドキアは、今までで一番の食べっぷりだ。
見る見るうちに皿の料理が無くなっていく。
後ろをチラチラと観ていたカラミが作る早さを上げた。
一時間も経たない内に今回用意した料理を出してきた。
まず最初に出したのはジースーの旨煮だ。
見ただけではどの程度堅いのかは解らない。
しかし、・・・フィドキアのスプーンが止まった!
スプーンは止まっているが顎は動いている。
咀嚼しているようだ。
他の皿の倍以上の時間をかけて平らげた。
エルヴィーノはこの時心で(勝てる)と思った。
僅かな時間差で一気に皿の量を増やしたカラミは次の必殺料理を出した。
見ただけで解る。
真っ赤だ。
彼らの大好きな肉が真っ赤に染まっているぅ!
それを口の中に送ると、フィドキアの口が開いた!
まるで人型状態でブレス攻撃をしているが如くだ。
僅か数秒だが意表を付いた攻撃に我を忘れた様だった。
戦いは二つの新メニューを随所に出しながら最後の30分前に差し掛かった。
時間差は10分。
机の上に料理は三皿。
最低でも10皿は確保したい所だ。
カラミの追い込み調理が始まる。
用意していた料理を次々に作り上げるカラミは最後の10分で熱々料理5連発だ!
激辛と激辛堅い料理が具材と味を変え五種類出てくる。
そして机の上には10皿だ。
フィドキアに残り10分と伝えると、追い込みをかけて食べる早さが増したようだ。
堅くて辛い料理を難なく平らげて熱い料理達に挑むフィドキアだ。
スプーンで一掬い飲むと眉間に皺を寄せた。
多分熱いのだろう。
しかし、一瞬躊躇したが早かった。
最初の一皿はスープだけなので直ぐに飲み干し、続く皿は熱くて激辛スープだ。
先ほどと同じ早さだが額からは汗が滴っている。
ラストの三皿は具入りの熱くて激辛の堅い具の入った味の違う三皿だ。
コラソンと俺とカラミはフィドキアの食べっぷりと砂時計を見比べていた。
フィドキアも意識しているようで、チラチラと見ている。
そして残り一皿と砂が後僅かで、熱くて辛く堅い料理を口の中に思いっきり頬張るフィドキア。
最早噛んでいない。
半分は飲み込んで半分は口の中だ。
皿はカラだが口の中いっぱいに詰め込んでいる。
「全部飲み込まないと食べたとは認めない」
ちょっと意地悪したが水と一緒に飲み込んだフィドキアとカラミが一緒に叫んだ。
「時間切れだ」
「食べきったぞ」
フィドキアは口を開けて飲み込んだ事を見せつけた。
決定的にどちらが早いとは言い切れず、エルヴィーノはコラソンと話した。
「ほぼ同時の様だけど、どうしよう?」
「これは引き分けで良いのでは無いでしょうか?」
なるほど、引き分け。
その手が有った。
「二人とも、今回の勝負は引き分けだ。どちらも負けてはいないが勝負はほぼ同時だったので二人とも勝ちだ」
エルヴィーノはにっこりと笑って問いかける。
「貴様の新しい料理。美味だった。今度はもっと味わって食べたい物だ」
フィドキアからの称賛とも言える言葉にカラミも返す。
「私が考えたユックリ食べる料理をあれほど早く食べるとは流石です」
褒めているのか解らないが二人で称え合っている。
「例え引き分けたとしても我を満足させる料理を作ったお前にコレを与えよう」
フィドキアが渡したのは銀色の腕輪だ。
「コレは1日中鍋を振っていても疲れない癒しの腕輪だ」
「そ、そんな魔導具を頂けるのですか?」
「くれるなら貰っておけば良いよ」
「では有りがたく頂戴します」
嬉しそうにするカラミが早速肩に近い腕に付けてみる。
「何だか肩や腕が軽い感じがしますよ」
効果を体感したらコラソンがおねだりしてきた。
「最後に作った料理だが、私も食べてみたいが良いかい?」
「喜んで!」
笑顔で作り出すカラミ。
熱くて辛く堅い具が入った料理を仲良く食べた四人だった。
あとがき
めでたく引き分けでした。
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