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第4章 獣王国編2
第113話 パウリナと結婚式
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今朝は別荘で早くから起こされてバタバタと準備が始まっている。
昨日は花嫁の独身最後の夜だからと”2人の嫁”に気を配って頂き、パウリナと2人っきりの夜を満喫したのだった。
また早朝に身支度をして王都アレグリアのパウリナの部屋に転移したら、それぞれに別れて用意する事になった。
今回も純白の衣装だが聖魔法王国とは違い動物の毛皮がふんだんにあしらってある。
もう一度言おう、純白の毛皮だ。
そんな動物は見た事が無いのだが、もしかしたら魔物の毛皮か?
まぁ、せっかく用意してくれたのだから文句は言わないが。
エルヴィーノの用意は簡単に終わって親族と応接室で待機していたら、かなり遅れてパウリナがやって来た。
こちらも純白の衣装でエルヴィーノとは違う純白の毛皮が使われていた。
ドレスのような衣装の背中から、何だろう鳥の羽みたいなのが放射状に出ている。
意味が解らないが、シルバーの髪にとても良く似合っているから余計な事は言わないでおこう。
「とても綺麗だよ、パウリナ」
「ウン。ありがとう」
真っ赤になったパウリナが照れながら答えた。
「モンドリアン様、パウリナ様、そろそろご用意ください」
パウリナ専属の教育係ロディジャがそのように伝えて、今回の為に用意した王族専用のブエロ・マシルベーゴォ(飛行魔導具)に乗り込む。
獣王国用ブエロ・マシルベーゴォは魔石を使っての運転が可能だ。
それは獣人が魔素の保有量が少ないからで、魔素を送っても操縦出来る2系統動力式だ。
専用車は”前回”よりも大きくなっていた。
前回は2人と操縦者が乗るタイプだったが、今回は操縦者と4人が乗る仕様になっていた。
しかも、後ろに座席は一段高くなっている。
エルヴィーノとパウリナは前の列に座らされて、獣王夫婦が後ろの列に座った。
獣王は普段付けていない王冠と大きな宝玉の付いた杖と真紅のマントを羽織っている。
王妃アンドレアも小さいながら色とりどりの宝石を散りばめたティアラとネックレスを付けて獣王と同じく真紅のマントを羽織っている。
ブエロ・マシルベーゴォがゆっくりと動き出し、一定の高さで進んで行くと(ワァーワァー、キャーキャー)待ち構えていた獣人の観衆が一斉に騒ぎ出す。
観衆の声は、獣王、勇者、姫様と叫ぶ声が判別出来た。
エルヴィーノ達は行きと帰りを終始笑顔でいなければならない。
(あぁ今から顔面神経痛が懸念される)
王城から臨時の教会までは”前回”の2.5倍の距離だ。
これはエルヴィーノの我が儘を飲んでくれたので譲歩したのだが既に後悔していた。
色んな方面に顔を向けて手を振る。
前回と同様で(自分が覚えていなくとも民衆はしっかりと見ている)とリアム殿に教えてもらった事だ。
まだ半分位だが前回と比べて観衆が異常に多い。
前回は上から見おろし手を振っていて、精々建物の窓から手を振る人が居た程度だったが、今回は建物の屋上、屋根、至る所に獣人が犇めいている。
明らかに前回の比では無く、その熱狂ぶりに焦っているのが自分でも分かった。
実況中継も前回を見習って実施されている。
その放送の内容で(ワァーワァー、キャーキャー)が強弱をつけて波の様に聞こえてくる。
(あと少しで仮設教会だが右腕と頬の筋肉が限界だ!)
やっとの思いで辿り着きグッタリしているとパウリナ専属のメイドでビエルナスが心配して声をかけて来た。
「どうしましたか? 大丈夫ですか?」
事情を話すと
「なんだ、それならばクラールで直ぐに回復してください」
「ええっ!」
又やってしまった。
クラール(回復魔法)は傷の手当だとばかり思っていたのだ。
そう、この歳になるまで。
あわててクラールを唱えると腕のダルさが無くなり頬の引き攣りも綺麗に無くなった。
「あっ、なんだ、だったらパレードも楽くだな」
「モンドリアン様はこちらへお越しください」
帰りが楽くになると思い安心したらビエルナスに案内されて裏から祭壇横に向う。
祭壇にはマルソ殿が立って居た。
ふと会場を見渡した瞬間、視界に”2人”が入った。
ドクンッと心臓が飛び跳ねた感じがして嫌な汗が出てしまった。
この瞬間を見られたら又何か言ってきそうだからだ。
すると会場に拍手が起こり出入口に獣王とパウリナが立って居た。
軽やかだった音楽が、厳かな音色に替わり、ゆっくりと歩きだす親子。
遠目からでも涙をぬぐっている”父親”が分かり、”娘”は笑顔で歩いている。
祭壇の前で2人は握手をして別れ、エルヴィーノの横に立つ花嫁。
親族の席に座る父親は号泣していて、奥さんに宥められている。
「新郎のエルヴィーノ・デ・モンドリアンに、新婦のパウリナ・モンドラゴンよ。2人は何時いかなる時も苦楽を共にして生きて行くことを、今ここに誓いますか?」
「「ハイ、誓います」」
「では誓いの口づけを」
神父のマルソ殿に指示されて抱き寄せて口づけする。
いつもの様に舌を絡ませてだ。
外では”前回同様”幸福の鐘が鳴り響いているらしい。
エルヴィーノは”鋭い視線”を感じて離そうとするが、パウリナの両手が首に巻き付いて離れない状態だ。
「んんっ!」
咳払いでマルソ殿も合図をしてきた。
だが、パウリナは力強く抱きしめて一向に止めようとはしない。
パウリナは薄目を開けて会場を見ていたのだ。
その目線は例の”2人”を見ていたらしく、楽しそうに目が微笑んでいた。
小さな声で「いい加減に離れなさい」
”神父様”から指示が出てようやく離れると思ったがまだ離れないパウリナ。
仕方なく腰をポンポンと叩いて、ようやく離れてくれた。
「ロリ姉様より長かったでしょ」
満面の笑みで答えるパウリナに苦笑いするエルヴィーノだ。
やっぱりそんな事じゃないかと思っていた通りだった。
”バタイラ・デ・ラ・モヘール”だと分かったが、どうせ自分にとばっちりが来るのは間違いない。
大きな拍手が会場に響き渡り、続けて戴冠の儀式に移る。
獣王と王妃が”裾にはけ”て裏から回り前回と同様の図式になった。
「それでは引き続き戴冠の儀式を執り行います」
進行係りのロディジャが会場内に説明して、獣王と王妃が壇上に上がり新郎新婦を挟む様に教壇に向って立った。
「ではこれから戴冠を始めます。意義が無ければ、新郎新婦は礼の姿勢を取ってください」
エルヴィーノは左向きでパウリナは右向きに片膝をついて座る。
そしてゆっくりと獣王が王冠を外し、エルヴィーノの頭に乗せた。
アンドレアも同じくティアラをパウリナに被せ、首飾りも付けてあげた。
立ちあがった2人は”両親”から真紅のマントを掛けてもらった瞬間、城内から歓声と喝采が鳴り響く。
「只今無事に戴冠の儀を終えました。新しい獣王と妃の誕生です」
マルソ殿の宣言に場内から割れんばかりの拍手と、外から叫び声が響いて来るのが解った。
会場横に止めてあるブエロ・マシルベーゴォに乗ろうとするとアンドレアから待ってと言われた。
「帰りは彼方達が上段で私達が下段に座ります」
なるほど王様が上に座ると言う事か。
理解して座ると民衆が騒ぎ出す。
帰りも同じ道順だが、来る時よりも気が楽だ。
疲れたらクラールを使えば良いのだから。
少しづつ進む帰り道、手を振って愛想を振りまくエルヴィーノも大分慣れて来ていた。
すると歓声の中から「黒竜王万歳!」なんて声が聞こえて来た。
すると、アチコチから「「「黒竜王万歳!」」」と声がする。
王城に着くころは獣王の声は無く黒竜王としか聞こえてこなかった。
「困ったなぁ、獣王と呼ぶように指示を出そうか?
真面目に悩んでいたら先代から助言を頂いた。
「構わん。この国の民が1つになるのであれば、呼び名などはどうでも良い」
「おお、流石は心の広い先代獣王様」
と言ったが単におおざっぱなだけかな?
無事に式典を終えて、次の準備に取り掛かる。
放送係りに指示は出してあり、昼に今回の戴冠を祝って黒龍の召喚を執り行うと。
ただし、今回は例外中の例外で、攻撃は一切せず上空に顕現するだけで
「今後この国に牙を向ける者には、その巨大な龍が”忌まわしき森”と同じ運命を送るだろう」と放送させた。
※黒龍召喚※
それは決められた時間に召喚すると放送してあり、王都に居る者は例外なく外に出て空を見上げていた。
エルヴィーノとパウリナは”あの時”と同じ場所に居て、元獣王夫婦もあの場所に陣取っていた。
城にはもう二つ塔が有り、そこには選び抜かれた絵師と彫刻家が陣取っていた。
出来るだけ近くで細部を見て覚えさせておく為だ。
それは絵画や彫刻、石像を作る為である。
その時間には民衆も分かるように教会の鐘を鳴らすと、今朝告知してあったので全員がその音を待っていた。
そして三回鐘が鳴った。
エルヴィーノはデスセンディエンテ・インボカシオン・オスクロドラゴンと叫んだら、城の上空に巨大な魔法陣が現れた。
今回は魔法陣が縦になっている。
そして頭から勢いよく飛び出してきた巨大な黒龍は今回も大地に轟く咆哮を上げて巨大な翼を羽ばたかせ、ゆっくりと王城を旋回している。
「パウリナ。あいつの秘密を教えてやろう」
目を輝かせて抱き付くパウリナに
「ヤツの名はフィドキアと言って肉串が大好きなんだ」
「私も大好き!」
「お前の何倍も食べるんだぜ」
「じゃ今度私が作ってあげるね」
すると咆哮を上げて2人の頭上スレスレに飛んできた。
(あいつ聞いてやがったな)
そのまま王城の城壁まで行き、外側を旋回している。
民衆の声がここまで聞こえてくるのが驚いたが、間違い無く獣人族は教会に入ると確信していた。
そろそろ時間切れで戻る頃だと思っていたら何度も咆哮し旋回している。
おかしいと思い腕輪に魔素を送ると咆哮と同時に(腹減ったぞ~)(忘れるなよ、後で喰いに行くぞ~)と伝わって来た。
(ああ、分かったからもう帰れ)と念じると顕現した時と同様の魔法陣が現れて、その中に消えて行った。
民衆からは「「「黒竜王万歳!」」」と大きな声が鳴り響いていた。
最初は手を振っていたが何時までたっても終わらないので下に降りて行った。
結婚戴冠披露宴までは時間があるから”ネル殿”とアンドレアに、召喚の条件で時間を作って会いに行かなければならない事を話し、疑いの眼差しで見るアンドレアからパウリナも連れて行けないのかと聞かれたが、龍人に確認してからと返しておいた。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
着替えて監視室に転移すると。
「遅い!」
「仕方ないだろ」
「どれだけ待ったと思ってるんだ」
「来たから良いじゃねぇか」
いつもの様に掛け合いが始まると
「ハイハイ、じゃ行きますよ」
「ええっ? フィドキアだけじゃないの?」
「フム、結局2人も来る事になったのだ」
(自分だけ行くのはズルいと言いくるめられたのだろう。しかし、手持ちだけで足りるかなぁ。あっエスパシオ・ボルサ(空間バック)にヘソクリがあるか)
そんな事を考えていたが
「良し、俺も変身するぞ」
と言っても金髪碧眼になっただけだが
「じゃ行くぞ、みんな手を繋いでくれ」
そう言って転移するのは王都にある旅の宿エスピナでエルヴィーノ専用の部屋だった。
今後の事もあるので宿の説明をして龍人たちが使っても良い事にした。
「あっそうだ、今度パウリナを連れて来ても良いか?」
「別にかまわんが」
「ええ良いわ」
「是非、会いたいです」
んっ? 1人だけ温度が違うぞ。
「カマラダは何で会いたいの?」
「彼女の目がね、私と似ているでしょ? だから、もしかしてと思ってね」
「あぁなるほどね」
カマラダの説明にラソンが答えた。
「遠い眷族の可能性がある訳よ」
「ええっ! 本当に!」
「まぁ会って見ないと分かりませんがね」
「じゃ次回連れて来るよ」
驚きの告白で何故か浮かれていたエルヴィーノだった。
階段を下りて
「親父さん! この三人は古い馴染みで、俺専用の部屋を使うからヨロシクな。一応誰にも言わないでくれ。昼も夜もだ。知っているのは俺とガルガンダの二人だけだぞ」
一方的に話いと「ああ、分かった」チラッとエルヴィーノを見て、その一言だけでガルガンダは忙しくしていた。
エルヴィーノとリカルドとフォーレ専用の三部屋を除いて満室なのだ。
それはこの宿だけでは無く王都や城壁の外に有る仮設宿も一杯で入りきらない獣人達が野宿している状態だ。
宿を出たエルヴィーノ達四人は、フラフラと匂いに吊られて歩き出す龍人を一纏めにして目についた串焼き屋の前に行く。
「オヤジ! ここにある串を全部もらう!」
「へっ!?」
「全部買う。いくらだ、早くしろ」
オヤジが計算しているうちから手が伸びて食べだす”三匹”は無心で食べていた。
最初の店は半分エスパシオ・ボルサ(空間バック)に入れたが、半分は”三匹”の腹の中に入った。
「よし、次行くぞ」
”三匹”は両手に串を数本持っていて食べながら歩いていた。
別の屋台を見つけて叫ぶ。
「突撃―!」
先ほどと同じ要領で金を払い、両手で食べる”三匹”の隙間からエスパシオ・ボルサに入れて次の店に向う。
道すがら黒龍の話しや、黒龍王の事も耳に飛び込んでくる。
(随分と人気者になりましたねぇフィドキアは)
(本当にあのフィドキアがこんなに慕われているだなんて、世の中も変わったものねぇ)
カマラダとラソンがコソコソ話しをしていた。
その行為を五回繰り返した後
「じゃ戻るか」
「なに! もう帰ると言うのか」
「まだ食べたりないわ」
「同感です」
「あのね、エスパシオ・ボルサに今食べた分と同じだけあるからさ、帰ってから食べよう」
「「「・・・・」」」
何やら相談している。
「分かった”一度”戻ろう」
良かった素直に聞いてくれた。
来た順路と同じく帰り大皿に買った串を大量に出した。
「じゃ約束は果たしたからな」
「待て」
「何だよ」
「明日もう1人の嫁を連れて来るのだろ? では明日も食べに行くぞ!」
「はぁ約束が違う」
「そうでは無い。本来はこの場所に来られるのは限られた者だけだ。お前の嫁として仕方なく招く代わりに明日も食べに行こう。その代りに新しい嫁を連れて行っても構わん」
一方的にフィドキアが話しているが後の2人はうなずいていた。
どれだけ食い意地が張ってんだか知らないけど仕方がない。
その程度で獣人王家の疑惑が晴れるのならば良しとした。
「わかった。明日また来るが時間は俺達の都合に合わせてくれ」
食べながらうなずく”三匹”に「じゃ帰るよ」と言って転移した。
帰ってから、ふっと思った。
「そう言えばあの時”一度戻ろう”と言ったな。さては明日を予測しての行動か! クソッ、ずる賢い龍人達だ」
あとがき
バタイラ・デ・ラ・モヘール=女の戦い(発音が難しい)
ライオネル=ネル殿(リアム殿の呼び方を真似ています)
昨日は花嫁の独身最後の夜だからと”2人の嫁”に気を配って頂き、パウリナと2人っきりの夜を満喫したのだった。
また早朝に身支度をして王都アレグリアのパウリナの部屋に転移したら、それぞれに別れて用意する事になった。
今回も純白の衣装だが聖魔法王国とは違い動物の毛皮がふんだんにあしらってある。
もう一度言おう、純白の毛皮だ。
そんな動物は見た事が無いのだが、もしかしたら魔物の毛皮か?
まぁ、せっかく用意してくれたのだから文句は言わないが。
エルヴィーノの用意は簡単に終わって親族と応接室で待機していたら、かなり遅れてパウリナがやって来た。
こちらも純白の衣装でエルヴィーノとは違う純白の毛皮が使われていた。
ドレスのような衣装の背中から、何だろう鳥の羽みたいなのが放射状に出ている。
意味が解らないが、シルバーの髪にとても良く似合っているから余計な事は言わないでおこう。
「とても綺麗だよ、パウリナ」
「ウン。ありがとう」
真っ赤になったパウリナが照れながら答えた。
「モンドリアン様、パウリナ様、そろそろご用意ください」
パウリナ専属の教育係ロディジャがそのように伝えて、今回の為に用意した王族専用のブエロ・マシルベーゴォ(飛行魔導具)に乗り込む。
獣王国用ブエロ・マシルベーゴォは魔石を使っての運転が可能だ。
それは獣人が魔素の保有量が少ないからで、魔素を送っても操縦出来る2系統動力式だ。
専用車は”前回”よりも大きくなっていた。
前回は2人と操縦者が乗るタイプだったが、今回は操縦者と4人が乗る仕様になっていた。
しかも、後ろに座席は一段高くなっている。
エルヴィーノとパウリナは前の列に座らされて、獣王夫婦が後ろの列に座った。
獣王は普段付けていない王冠と大きな宝玉の付いた杖と真紅のマントを羽織っている。
王妃アンドレアも小さいながら色とりどりの宝石を散りばめたティアラとネックレスを付けて獣王と同じく真紅のマントを羽織っている。
ブエロ・マシルベーゴォがゆっくりと動き出し、一定の高さで進んで行くと(ワァーワァー、キャーキャー)待ち構えていた獣人の観衆が一斉に騒ぎ出す。
観衆の声は、獣王、勇者、姫様と叫ぶ声が判別出来た。
エルヴィーノ達は行きと帰りを終始笑顔でいなければならない。
(あぁ今から顔面神経痛が懸念される)
王城から臨時の教会までは”前回”の2.5倍の距離だ。
これはエルヴィーノの我が儘を飲んでくれたので譲歩したのだが既に後悔していた。
色んな方面に顔を向けて手を振る。
前回と同様で(自分が覚えていなくとも民衆はしっかりと見ている)とリアム殿に教えてもらった事だ。
まだ半分位だが前回と比べて観衆が異常に多い。
前回は上から見おろし手を振っていて、精々建物の窓から手を振る人が居た程度だったが、今回は建物の屋上、屋根、至る所に獣人が犇めいている。
明らかに前回の比では無く、その熱狂ぶりに焦っているのが自分でも分かった。
実況中継も前回を見習って実施されている。
その放送の内容で(ワァーワァー、キャーキャー)が強弱をつけて波の様に聞こえてくる。
(あと少しで仮設教会だが右腕と頬の筋肉が限界だ!)
やっとの思いで辿り着きグッタリしているとパウリナ専属のメイドでビエルナスが心配して声をかけて来た。
「どうしましたか? 大丈夫ですか?」
事情を話すと
「なんだ、それならばクラールで直ぐに回復してください」
「ええっ!」
又やってしまった。
クラール(回復魔法)は傷の手当だとばかり思っていたのだ。
そう、この歳になるまで。
あわててクラールを唱えると腕のダルさが無くなり頬の引き攣りも綺麗に無くなった。
「あっ、なんだ、だったらパレードも楽くだな」
「モンドリアン様はこちらへお越しください」
帰りが楽くになると思い安心したらビエルナスに案内されて裏から祭壇横に向う。
祭壇にはマルソ殿が立って居た。
ふと会場を見渡した瞬間、視界に”2人”が入った。
ドクンッと心臓が飛び跳ねた感じがして嫌な汗が出てしまった。
この瞬間を見られたら又何か言ってきそうだからだ。
すると会場に拍手が起こり出入口に獣王とパウリナが立って居た。
軽やかだった音楽が、厳かな音色に替わり、ゆっくりと歩きだす親子。
遠目からでも涙をぬぐっている”父親”が分かり、”娘”は笑顔で歩いている。
祭壇の前で2人は握手をして別れ、エルヴィーノの横に立つ花嫁。
親族の席に座る父親は号泣していて、奥さんに宥められている。
「新郎のエルヴィーノ・デ・モンドリアンに、新婦のパウリナ・モンドラゴンよ。2人は何時いかなる時も苦楽を共にして生きて行くことを、今ここに誓いますか?」
「「ハイ、誓います」」
「では誓いの口づけを」
神父のマルソ殿に指示されて抱き寄せて口づけする。
いつもの様に舌を絡ませてだ。
外では”前回同様”幸福の鐘が鳴り響いているらしい。
エルヴィーノは”鋭い視線”を感じて離そうとするが、パウリナの両手が首に巻き付いて離れない状態だ。
「んんっ!」
咳払いでマルソ殿も合図をしてきた。
だが、パウリナは力強く抱きしめて一向に止めようとはしない。
パウリナは薄目を開けて会場を見ていたのだ。
その目線は例の”2人”を見ていたらしく、楽しそうに目が微笑んでいた。
小さな声で「いい加減に離れなさい」
”神父様”から指示が出てようやく離れると思ったがまだ離れないパウリナ。
仕方なく腰をポンポンと叩いて、ようやく離れてくれた。
「ロリ姉様より長かったでしょ」
満面の笑みで答えるパウリナに苦笑いするエルヴィーノだ。
やっぱりそんな事じゃないかと思っていた通りだった。
”バタイラ・デ・ラ・モヘール”だと分かったが、どうせ自分にとばっちりが来るのは間違いない。
大きな拍手が会場に響き渡り、続けて戴冠の儀式に移る。
獣王と王妃が”裾にはけ”て裏から回り前回と同様の図式になった。
「それでは引き続き戴冠の儀式を執り行います」
進行係りのロディジャが会場内に説明して、獣王と王妃が壇上に上がり新郎新婦を挟む様に教壇に向って立った。
「ではこれから戴冠を始めます。意義が無ければ、新郎新婦は礼の姿勢を取ってください」
エルヴィーノは左向きでパウリナは右向きに片膝をついて座る。
そしてゆっくりと獣王が王冠を外し、エルヴィーノの頭に乗せた。
アンドレアも同じくティアラをパウリナに被せ、首飾りも付けてあげた。
立ちあがった2人は”両親”から真紅のマントを掛けてもらった瞬間、城内から歓声と喝采が鳴り響く。
「只今無事に戴冠の儀を終えました。新しい獣王と妃の誕生です」
マルソ殿の宣言に場内から割れんばかりの拍手と、外から叫び声が響いて来るのが解った。
会場横に止めてあるブエロ・マシルベーゴォに乗ろうとするとアンドレアから待ってと言われた。
「帰りは彼方達が上段で私達が下段に座ります」
なるほど王様が上に座ると言う事か。
理解して座ると民衆が騒ぎ出す。
帰りも同じ道順だが、来る時よりも気が楽だ。
疲れたらクラールを使えば良いのだから。
少しづつ進む帰り道、手を振って愛想を振りまくエルヴィーノも大分慣れて来ていた。
すると歓声の中から「黒竜王万歳!」なんて声が聞こえて来た。
すると、アチコチから「「「黒竜王万歳!」」」と声がする。
王城に着くころは獣王の声は無く黒竜王としか聞こえてこなかった。
「困ったなぁ、獣王と呼ぶように指示を出そうか?
真面目に悩んでいたら先代から助言を頂いた。
「構わん。この国の民が1つになるのであれば、呼び名などはどうでも良い」
「おお、流石は心の広い先代獣王様」
と言ったが単におおざっぱなだけかな?
無事に式典を終えて、次の準備に取り掛かる。
放送係りに指示は出してあり、昼に今回の戴冠を祝って黒龍の召喚を執り行うと。
ただし、今回は例外中の例外で、攻撃は一切せず上空に顕現するだけで
「今後この国に牙を向ける者には、その巨大な龍が”忌まわしき森”と同じ運命を送るだろう」と放送させた。
※黒龍召喚※
それは決められた時間に召喚すると放送してあり、王都に居る者は例外なく外に出て空を見上げていた。
エルヴィーノとパウリナは”あの時”と同じ場所に居て、元獣王夫婦もあの場所に陣取っていた。
城にはもう二つ塔が有り、そこには選び抜かれた絵師と彫刻家が陣取っていた。
出来るだけ近くで細部を見て覚えさせておく為だ。
それは絵画や彫刻、石像を作る為である。
その時間には民衆も分かるように教会の鐘を鳴らすと、今朝告知してあったので全員がその音を待っていた。
そして三回鐘が鳴った。
エルヴィーノはデスセンディエンテ・インボカシオン・オスクロドラゴンと叫んだら、城の上空に巨大な魔法陣が現れた。
今回は魔法陣が縦になっている。
そして頭から勢いよく飛び出してきた巨大な黒龍は今回も大地に轟く咆哮を上げて巨大な翼を羽ばたかせ、ゆっくりと王城を旋回している。
「パウリナ。あいつの秘密を教えてやろう」
目を輝かせて抱き付くパウリナに
「ヤツの名はフィドキアと言って肉串が大好きなんだ」
「私も大好き!」
「お前の何倍も食べるんだぜ」
「じゃ今度私が作ってあげるね」
すると咆哮を上げて2人の頭上スレスレに飛んできた。
(あいつ聞いてやがったな)
そのまま王城の城壁まで行き、外側を旋回している。
民衆の声がここまで聞こえてくるのが驚いたが、間違い無く獣人族は教会に入ると確信していた。
そろそろ時間切れで戻る頃だと思っていたら何度も咆哮し旋回している。
おかしいと思い腕輪に魔素を送ると咆哮と同時に(腹減ったぞ~)(忘れるなよ、後で喰いに行くぞ~)と伝わって来た。
(ああ、分かったからもう帰れ)と念じると顕現した時と同様の魔法陣が現れて、その中に消えて行った。
民衆からは「「「黒竜王万歳!」」」と大きな声が鳴り響いていた。
最初は手を振っていたが何時までたっても終わらないので下に降りて行った。
結婚戴冠披露宴までは時間があるから”ネル殿”とアンドレアに、召喚の条件で時間を作って会いに行かなければならない事を話し、疑いの眼差しで見るアンドレアからパウリナも連れて行けないのかと聞かれたが、龍人に確認してからと返しておいた。
※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez
着替えて監視室に転移すると。
「遅い!」
「仕方ないだろ」
「どれだけ待ったと思ってるんだ」
「来たから良いじゃねぇか」
いつもの様に掛け合いが始まると
「ハイハイ、じゃ行きますよ」
「ええっ? フィドキアだけじゃないの?」
「フム、結局2人も来る事になったのだ」
(自分だけ行くのはズルいと言いくるめられたのだろう。しかし、手持ちだけで足りるかなぁ。あっエスパシオ・ボルサ(空間バック)にヘソクリがあるか)
そんな事を考えていたが
「良し、俺も変身するぞ」
と言っても金髪碧眼になっただけだが
「じゃ行くぞ、みんな手を繋いでくれ」
そう言って転移するのは王都にある旅の宿エスピナでエルヴィーノ専用の部屋だった。
今後の事もあるので宿の説明をして龍人たちが使っても良い事にした。
「あっそうだ、今度パウリナを連れて来ても良いか?」
「別にかまわんが」
「ええ良いわ」
「是非、会いたいです」
んっ? 1人だけ温度が違うぞ。
「カマラダは何で会いたいの?」
「彼女の目がね、私と似ているでしょ? だから、もしかしてと思ってね」
「あぁなるほどね」
カマラダの説明にラソンが答えた。
「遠い眷族の可能性がある訳よ」
「ええっ! 本当に!」
「まぁ会って見ないと分かりませんがね」
「じゃ次回連れて来るよ」
驚きの告白で何故か浮かれていたエルヴィーノだった。
階段を下りて
「親父さん! この三人は古い馴染みで、俺専用の部屋を使うからヨロシクな。一応誰にも言わないでくれ。昼も夜もだ。知っているのは俺とガルガンダの二人だけだぞ」
一方的に話いと「ああ、分かった」チラッとエルヴィーノを見て、その一言だけでガルガンダは忙しくしていた。
エルヴィーノとリカルドとフォーレ専用の三部屋を除いて満室なのだ。
それはこの宿だけでは無く王都や城壁の外に有る仮設宿も一杯で入りきらない獣人達が野宿している状態だ。
宿を出たエルヴィーノ達四人は、フラフラと匂いに吊られて歩き出す龍人を一纏めにして目についた串焼き屋の前に行く。
「オヤジ! ここにある串を全部もらう!」
「へっ!?」
「全部買う。いくらだ、早くしろ」
オヤジが計算しているうちから手が伸びて食べだす”三匹”は無心で食べていた。
最初の店は半分エスパシオ・ボルサ(空間バック)に入れたが、半分は”三匹”の腹の中に入った。
「よし、次行くぞ」
”三匹”は両手に串を数本持っていて食べながら歩いていた。
別の屋台を見つけて叫ぶ。
「突撃―!」
先ほどと同じ要領で金を払い、両手で食べる”三匹”の隙間からエスパシオ・ボルサに入れて次の店に向う。
道すがら黒龍の話しや、黒龍王の事も耳に飛び込んでくる。
(随分と人気者になりましたねぇフィドキアは)
(本当にあのフィドキアがこんなに慕われているだなんて、世の中も変わったものねぇ)
カマラダとラソンがコソコソ話しをしていた。
その行為を五回繰り返した後
「じゃ戻るか」
「なに! もう帰ると言うのか」
「まだ食べたりないわ」
「同感です」
「あのね、エスパシオ・ボルサに今食べた分と同じだけあるからさ、帰ってから食べよう」
「「「・・・・」」」
何やら相談している。
「分かった”一度”戻ろう」
良かった素直に聞いてくれた。
来た順路と同じく帰り大皿に買った串を大量に出した。
「じゃ約束は果たしたからな」
「待て」
「何だよ」
「明日もう1人の嫁を連れて来るのだろ? では明日も食べに行くぞ!」
「はぁ約束が違う」
「そうでは無い。本来はこの場所に来られるのは限られた者だけだ。お前の嫁として仕方なく招く代わりに明日も食べに行こう。その代りに新しい嫁を連れて行っても構わん」
一方的にフィドキアが話しているが後の2人はうなずいていた。
どれだけ食い意地が張ってんだか知らないけど仕方がない。
その程度で獣人王家の疑惑が晴れるのならば良しとした。
「わかった。明日また来るが時間は俺達の都合に合わせてくれ」
食べながらうなずく”三匹”に「じゃ帰るよ」と言って転移した。
帰ってから、ふっと思った。
「そう言えばあの時”一度戻ろう”と言ったな。さては明日を予測しての行動か! クソッ、ずる賢い龍人達だ」
あとがき
バタイラ・デ・ラ・モヘール=女の戦い(発音が難しい)
ライオネル=ネル殿(リアム殿の呼び方を真似ています)
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