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第四章 過去の真実と未来への希望

第88話 ラソンのわがまま

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アルモニア教発祥の地にラソンの像が欲しいと時の教祖からの依頼を監視対象者が伝達して本人に伝えることとなった。

しかし・・・
「私は嫌よ、あんな大きいのフィドキアじゃあるまいし」

それは、つい先日龍人達が全員で力を寄せ合って作った城の背後を利用した巨大な彫像を思い浮かべたラソンだった。

「俺もね、ちょっとどうかなって思ったんだよ」
監視対象者が同意すると、無口な黒いフィドキアが話しかけてきた。
「では等身大で良いだろう。人型と小型の成龍を作ってやれば丸く収まる」
「それだっ」
煩わしいのでフィドキアが人族の為に妥協案を提案した。
監視対象者にラソンも驚いている。
「で、でも」
モジモジして決心しないラソンを無視してバレンティアを呼び出しているフィドキアだ。

転移してきたバレンティアに説明する。
「解かりました。その位簡単ですよ」
どこからとも無く出した大きな石に手を当てると、サラサラと回りが崩れて現れたのはラソンらしき石像だった。
「さぁ出来たよ」
パパッと終わらせたバレンティアに文句を言うラソンだ。
「何よ、これ! 全然似て無いじゃない!」
「「ええっ」」
監視対象者とバレンティアは思わず声が出た。

「やり直しよ」
ラソンの指示通り、別の石を出して作り直す。
「だから全然似て無いって言っているでしょ。私の事を何だと思っているの!?」
明らかに焦っているバレンティアは、じっくりとラソンを見て再度作り直す。
「多少似ているけど表情がダメ! 全然可愛く無い」

バレンティアが困った顔で監視対象者を見るので助けに入る。
「えぇっと、ラソンの気に入った表情とポーズを取ってバレンティアに見せた方が良いと思うよ」
するとラソンは、どこからか出してきた姿見の鏡の前でいろんな恰好をしだした。
「これよ。これで作って」
「顔は?」
ニコッとするラソン。
真剣に眺めるバレンティアが石を出して作った。
「ん~、他のも作ってよ」
何が気に入らないのか解らないが監視対象者とバレンティアはラソンの指示に従った。

都合により監視対象者が戻った後もラソンの納得のいく物はできずバレンティアの苛立ちは積もっていった。

「もういい加減にしてくれよ姉さん!!」
微妙な変化を何度も続けて作り直す工程が、我慢の限度を超えてしまったようだ。
しかし・・・

「何っバレンティアッ、私に何か文句があるのかしらっ!!」

怒りを露わにしてしたバレンティアに逆切れして詰め寄るラソンだ。

「だ、だって姉ちゃん・・・作りすぎじゃないかなぁ・・・」
「貴男が満足する物を作らないからでしょ!!」
「でももう三桁は作ったから、どれか選ぼうよ」
「そう、貴男は不完全で美しくない”わたくしの像”を下界に置いて眷属に拝ませろというのね」
「ち、違うよ姉ちゃん」
「何が違うのよ、小さいころ貴男の面倒を見てたのは誰だったか忘れたのかしら!?」
「そんなぁ・・・子供のころを引き合いに出されても」
「良いわ。もう貴男には頼みません。その代わり今後一切・・・」
「ごめん姉ちゃん。言う通りにするから・・・」

体は大きいが末弟のバレンティアは”二人の姉”が苦手だった。
一言文句を言えば、十倍いや、百倍になって帰ってくるからだ。
その点二人の兄はやさしかった。
論理的に話す面倒な兄と無口な兄は、力を貸してくれる場合が多いからだ。

しょんぼりとしたバレンティアは駄目だしされた石像を整理しては作成の繰り返しを続ける事となる。

夜通し続く作成で転移場所までラソンの石像が沢山並んでいる。
すでに忍耐の限度に近づいたバレンティアは奥の手を使った。

(兄さん、黙ってないで助けてください。お願いします!!)
(しばし待て)

すると監視対象者が現れた。
失敗作の数とバレンティアの表情でその場の雰囲気を理解した。

「一度、紅茶休憩しない? バレンティアも石の補充も有るだろうし、ロリも連れて来るから選んでもらおうよ。あっお土産買って来るから一緒に食べようか」

現状を打破しようとラソンが好きな事を並べてみた。
「そうねぇ、お願いしようかしらぁ~」

監視対象者はバレンティアの耳元で”もう少し待ってて”と伝えペンタガラマに転移した。
ラソンの眷属であるロリに説明し、肉串を買い集め2人で転移すると驚いた。

「ええっ!」
転移室の中にまでラソン像が置いてあり驚くロリを黒い毛布に乗せて一緒に宙を漂いゆっくりと進む。

「凄い数。これ全部失敗作なの?」
「多分ね。どこが気に入らないのか解らないけどさ」
「かなりの出来栄えだけど?」
「だろ? だからバレンティアに悪くてさ」

実物を見る限りどこがダメなのか解らない2人だった。
監視室まで行くと紅茶を飲んでいるフィドキアとバレンティア。
そして相変わらず鏡の前にいるラソンだ。

「あら、ロリ。来てくれたの?」
「はい、ラソン様が決めかねているポーズのお手伝いに来ました」
「助かるわ、やはり女性の意見の方が重要よね」
「お疲れ様。今皿を持ってくるから待ってて」
「やっと来たか」

バレンティアに一声かけて用意する。
ラソンとロリは何やら話し込んでいるので、皿を取りに行き”バレンティアの為”に紅茶を入れて串を出した。
「どうぞ、食べてください」
いつもの様に食べる姿を見ているとフィドキアも手が伸びて来た。

「結局、ラソンは何が気に入らなかったの?」
ロリに言わせると”表情の豊かさや、微妙な角度など”だ。
監視対象者とバレンティアは黙ったまま考え込んでいた。

妥協案として、作った石像でラソンが気に入った部分を切り取り、のちほど合体させる方法をとる。
合体と言っても新しく作るのだが、まずはラソンとロリの好きにさせて見た。
2人の隣で気に入った部分をバレンティアが切り取り、監視対象者が整理していく。
残った部分は分解してバレンティアに吸収されていった。

全てを分けるのにかなり時間が掛ったが、そこから更に選別して一体分の部位にするまで一日かかり、最終的に作ってから更に微調整した。
その微調整の回数は5回。
ロリに進められ、おだてられ、褒められてようやく出来上がった等身大ラソンの石像。

「素敵! 気品があります」
「あぁ、とても上品で素晴らしい出来栄えだ」
ロリと監視対象者が何度も褒め称える事で何とかラソンに納得して頂いた。

実際にその通りだから問題無いのだが、フィドキアが余計な事を言ってくれた。
「次は成龍の石像だな。頑張れよ」
監視対象者はグッと拳を作って我慢したが、視界に入ったバレンティアの手も硬く握られていた。

監視対象者はすかさずバレンティアの弁護をした。
「とりあえず教祖様の要望は石像としか言われてないのでコレを見せて来るよ。成龍状態であればペンタガラマにある像を小さくするのは簡単だろ?」
「そっ、そうだね」
バレンティアは監視対象者の手を取り、硬い握手をしてくれた。
思惑が解ったのだろう。
花の台座に何やら文字が入っているが読めないので聞いてみた。

「これは何て書いてあるの?」
「それはね、理性を司る龍人ラソンって書いてあるの」
「へぇ、だからラソン様って知的に見えたのね」
ご本人からの説明を頂くと感心していたロリだった。

「バレンティアさん! お願いが有るのですが」
「何でしょうか? サンクタ・フェミナ」
龍人からもその呼び名で呼ばれた事に驚いたが思いを告げるロリ。
「この素晴らしいラソン様の像の小さい石像を作っては頂け無いでしょうか?」
手を差し出した高さは約30cm程だった。
「構わないが、細部は荒くなりますよ」
「そんな小さい物をどうするのロリ」

ラソンの問いかけに答えるロリ。
「ハイ、私の部屋でいつも見ていたいのです」
やれやれと言った表情の三人だが釘をさすラソンだ。
「バレンティア、解っていますね!?」
うなずいて小さな石を取り出し集中すると、周りが砂になって中から台座付の小さなラソン像が出て来た。
「キャー可愛い!」
嬉しがるロリにラソンが小さな像に手をかざした。
すると、石像がぼんやりと発光しているかのようになった。
「ラソン様、これは?」
「私の魔素を染み込ませたの」
「それは、どんな効果が有るのですか?」
「強い思念で信じる者に、何かしらの効果が出るわ」
いずれ自分の小さなラソン像も母達に見つかる可能性があるので、等身大石像にも同じ仕様にお願いするロリ。
「等身大の方はして頂け無いのでしょうか?」
「仕方が無いわねぇ」
同様に両手を翳して集中するラソン。
「出来たわよ。どちらも強い思念で祈らなければダメよ。また、どんな効果が出るかは解らないわ」
「ありがとうございます。ラソン様」






Epílogo
もう姉たちの石像は作らないと心に誓うバレンティアだった。
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