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第3章 魔導要塞の攻防

第51話 ★草原の戦闘

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 それは恐ろしい光景だった。背丈は2メートルほどはあるずんぐりとした体躯の塊が、ゆっくりと歩いてくる。見た目からして、その身体は砂と砂利でできているように見える。だが、手足を持ち、その重量のために一歩一歩地響きを立てながら歩みを進める。

 そのような砂人形が4体、5体、・・・いやさらにもっと、・・・いったい何体やってくるというのだ。隊列を組むでもなくばらばらと草をかき分け、次々と姿を現す。明らかにこちらに向かって歩いてくるようだ。

「こんな島にゴーレム。それもこのような数とは。」

 ジャンヌが震えた声でつぶやく。

「四の五の言っている暇はない。ぼやっとしていれば、目に見えるすべてを同時に相手にする羽目になるぞ。近いものから順に倒さねば先はない!」

 カーネルが檄を飛ばし、聖騎士たちが3人ずつ、3組の横隊隊列を組み、盾を構えた。

「進めぃ!まず盾でぶつかり、そののちに槍を突き立てよ!!」

「アルビナ、火術の用意を!私が2体、あなたが一体。槍撃を確認次第撃ちます。ピラーフレイムの詠唱をなさい!」
「は、はい!」

 最寄りの3体に向けて各隊が盾を構えて体当たりをした。サンドゴーレムはかなりの重量があると思われるが、騎士3人による渾身の体当たりを受け、前身が止まる。

「せぃやぁあああ!」

ズドドド────

 間髪入れず3本の槍が、それぞれのゴーレムに突き立てられた。

「押してから抜けい!」

 カーネルが叫ぶ。騎士たちが呼吸を合わせ、刺さった槍をグイっと押し、一気に引き抜くと、サンドゴーレムは、後方にしりもちをつく形となった。身体に穴が開いたり、えぐれて形の崩れたものもある。

「今よ、ピラーフレイム!」「ピラーフレイム!」

 ボボッ────

「うおっ!」
「おお!」

 騎士たちが思わず感嘆の声を上げる。倒れたゴーレムの身体を包み込むように炎の柱が立ち昇り、その身体を焼いた。炎に包まれたサンドゴーレムは形を失い、砂と礫の小山になった。

「よし、少し進んで陣形を整えよ。まだまだ新手が来るぞ!」
「いや、待て!」

 カーネルが前進の号令をかけたところで、突如セラフィーナがそれを遮った。

「どうした!セラフィーナ?」

 それに答えぬままセラフィーナは小山になったゴーレムの残骸の一つに駆け寄り、足と剣でこれをほじり返している。

「な、何をしているんだ?!モタモタしていたら次が来るぞ!」

 いてもたってもいられずカーネルが怒鳴る。

「あった!」

 声をあげたセラフィーナは、小山に紛れていた白い球体の石を拾い上げた。それはゴーレムを統御していた魔石だ。

オーラパサード!

 剣に闘気を込めて斬りつけ、魔石が真っ二つに割れた。

「セラフィーナ、そんな小石に一体何の意味が。」
「く、間に合わん。小山から離れろ!」
「??!」

 セラフィーナの一声で、咄嗟に皆小山から距離を取ったその時、小山がモゾモゾとうごめき、何と元の形に戻ってしまった。セラフィーナがいじった山だけはそのままだった。

「ぐぐぐっ・・、う、嘘だろ。再生するだと?」

 驚愕の表情になるカーネル。

「やはり・・。以前に遺跡の探索をした時に似たような敵に出くわしたことがあった。気を付けろ!奴らコアを破壊しないと何度でも蘇るぞ!!」

「話には聞いたことがある。魔物の生成のもとになるコア。ダンジョンモンスターに多いらしいが。やはり、ここは魔物の巣窟のダンジョンになっているということか。」

 ただの無人島が人の立ち入りを許さぬダンジョンになるなどということがあるのか。あるとすれば、この島を取り巻く状況が人知を超えるレベルで急激に変化したというほかない。そのような変化とは、具体的に何なのか。

「魔王・・・。や、やはり神話の魔王が、終末の魔王『サタン』が、降臨したということなのでしょうか。」

 冷や汗をにじませ、呻くようにジャンヌが言葉を絞り出す。その表情には絶望の色が見て取れる。

「やめよ!ジャンヌ殿。今、その結論を下すのはまだ早すぎる。この新たに生み出された魔物どもがどのように統制されているのか。今はそれを解明せねばならん。」

 激励するようにカーネルが、ジャンヌの言葉を遮った。分かっている、皆その疑念は心に宿している。しかし、今はそのような恐怖に捉われている場合ではない。見るべきものを見、生還しなければならない。その目的のためには、絶望は邪魔にしかならない。

「考えようによっては、以前よりはマシともいえるのだ。こうして上陸できているのだからな。何かはあったのだろうがこの島のぬしは、まだ力が安定していないのかもしれん。ジャンヌよ、魔術師隊はまだ戦えるか?」
「大丈夫です。行きましょう。」

 カーネルに励まされ、ジャンヌが気を持ち直した。すぐに魔術師たちが、再生したゴーレムと戦う騎士たちの援護に回る。

「スタミナの目安を見極めてくれ。帰路を踏破する体力は残しておかねばならん。危ういと感じたらそこで前進をやめ、直ちに撤退に移る。」
「承知です。」

 盾を構え肉弾戦を仕掛ける聖騎士隊。火と風の術師が遠隔攻撃を行い、地の術師は武器と防具のエンハンスに徹し、水の術師はヒールウォーターという体力回復の魔術で支援し、闇の魔術師はとっておきの攻撃魔術、ダークファイアを放った。闇の攻撃魔術、ダークファイアは高密度のエネルギーを宿す暗黒の炎の塊を放つ魔術。火の玉はこぶしよりも小さい大きさだが、ゴーレムの身体を貫通する威力がある。コアに命中すれば一撃必殺も期待できる。そして、セラフィーナは弓と剣を器用に使い分け、各集団を遊撃した。

 が、次第にゴーレムの数が増え、陣形も乱れがちになってきた。幸いにもゴーレムの動きがあまり早くないため、攻撃はよけやすく、今のところは目立った外傷を受けた仲間はいない。しかし、コアを破壊できなければ再生されてしまうため、戦いは持久力を削るような苦しい長期戦に突入した。

 (くそ、誰がどこにいるのか、全員無事なのか、把握できない状態になってきた。まずい、何とか立て直しを図らねば。)

 ゴーレムの拳をよけ、袈裟懸けに切り倒しながらカーネルは次の策を思案する。陣形はもはや完全に崩れ、敵味方入り乱れた状態になっている。このままでは、いずれ死傷者が出かねない。

 そんな中、セラフィーナが最も島の奥地に足を踏み入れていた。

「気のせいなのか。何か魔物どもがあたいには攻撃をしてこないような気がする。」

 そうなのだ。攻撃をすれば腕を振り回すゴーレムの攻撃が当たりそうになるものの、どうもセラフィーナを狙った攻撃というものが一度もない。皆戦いに夢中でその異常に気付かないが、本人は敵のプレッシャーが軽く、そのことに気付き始めていた。

 (今なら、あたいならあの館に行けるんじゃないか?)一々説明していられる状況にはない。そのことに気付いたセラフィーナは単身、島の中央部の館を目指して走り出した。
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