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第3章 魔導要塞の攻防
第36話 ★魔導師団
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バルティス王国の王都付近の港町に外国の船団が寄港した。バルティス王国のウラジミール王は、フォルセル王国の要求を受け入れ、魔導士師団の入国を許したのだった。
師団の長は、王立魔導研究所の教授ジャンヌである。以前に名前だけ登場した炎と光の魔術を操る、フォルセル王国が誇る天才魔導士だ。
「陛下にあられましては、ご清祥のこととお慶び申し上げます。この度はご尊顔を拝させていただき、恐悦にございます。」
10人の魔術師を従え、謁見の間に上がったジャンヌは、王の前に跪き、恭しく挨拶をした。黒い法衣を身にまとった彼らはフードを目深に被っており、素顔が見えなかったが、ジャンヌが跪くと同時にフードを取り、素顔をあらわにした。
その全員が見目麗しい女性である。謁見の間に立ち会った高官の中には、フォルセルの黒魔導士たちに対し、苦々しい表情で睨みつけるものも少なからずいたが、突然露になったその美女集団を前に、驚きの表情を隠すことができなかった。
ジャンヌの挨拶を受け、ウラジミール王はそんな自分の部下たちの様子を一瞥しつつ、静かに口を開いた。
「堅苦しい挨拶は無用。・・・といいたいところであるが、周知のように我が国は、そちら黒魔術の使い手を忌み嫌ってきた。此度のことも快く思わぬ者たちが我が国には少なからずおる。慇懃なるそちの振る舞い、配慮に感謝する。」
「もったいない言葉にございます。」
バルティス王国は、フォルセル王国の建国当初から徹底的な弾圧を加えてきた歴史を持つ。フォルセル王国の人間としては、バルティスの王に対する憎悪の念は根深いものがあるに違いないのだ。その王に対し、敬意を表する行為がいかほどに耐えがたいものか、ウラジミール王はよく理解していた。
同時に自国の民は王宮の高官に至るまで、黒魔術師への憎悪の念を持つものが多くいる。それは、国王数代にわたる政策の結果であり、個人の人格の問題というよりはこれまでの統治者の責任によるところが大きい。もしフォルセルの魔導士・ジャンヌが王に不遜な態度を取れば、彼らの反発は防げなかったであろう。
しかし今は両国の連携が必要な時。ジャンヌは己の心を殺し、ウラジミール王に対し礼を尽くした。王もジャンヌの心遣いをいち早く汲んだ。両者の対応は賢明だったといえる。もし、この顔合わせでこじれるようなことがあれば、両国は連携どころか戦争に発展しかねないリスクをはらんでいた。
「さて、陛下。時間は多くはございませぬ。願わくば、早急に担当者級の協議の場を設けていただき、件の暗黒事変の原因究明に向けた作業に入りたく存じます。」
「よかろう。明日にも場を設ける。本日は、遠路からよくぞ参った。大義である。部屋を用意してあるゆえ、ゆっくりと休むがよい。」
「はは、ありがたく。」
謁見は手短に手じまいとなった。敵対的な感情を持つ家臣が少なからずいる中、使者達を公の場から早く退場させた方が良いという配慮である。
黒装束の一団は、王宮の従者の導きに従い、客間に下がっていった。魔術のたしなみのあるものがみれば、彼女らがいつでも戦闘を開始できる警戒態勢を維持していたことが察知できたであろう。表面上は簡素なやり取りであったが、その場は一触即発の空気であった。
「しかし、全員があのような美女の集団とは・・・驚きましたね。」
フォルセルの使者達が下がり、控えの間に移動した王に側近であるジュリアス宰相が感想を漏らす。
「うむ。ユリア(娘)の奴も驚いていた。(←31話参照。フォルセル王国に国書を届けた。) どうも魔力というのは一般的に女の方が男より強い力を持つらしい。筋力とは逆の関係にあるようだ。故に魔導王国であるフォルセルでは、支配者階級のほとんどが女で占められているらしい。」
「なるほど、それで。。私ら男が居合わせたら、さぞかし居心地の悪い空間でしょうな。」
「ハーレム」などとはとても言えない世界であろうことは容易に想像できる。男尊女卑ならぬ女尊男卑がまかり通る世界を想像し、二人はうすら寒い思いをするのだった。
─────────
「ご主人様、ご主人様!」
王国本土では、緊迫した両国の歴史的な会見が行われていたが、アロン島は変わらずのどかだ。畑仕事を終えたリリカが元気な声でリアムの部屋に駆けてきた。手にはニンジンを持っている。
「ど、どうしたんだ?リリカ。」
若干の冷や汗をにじませ、リアムが笑顔で答える。(いかんいかん。普通にしてればいいんだ。) 最近どうもいけない。料理の時間以外でリリカが棒状の野菜を手にしているとどうしてもいけないことを想像してしまう。リアムはそんな自分自身を心中で密かに叱った。
「これね。リリカの特別製の栽培で作ったんです。」
「特別製?」
「はい、前から水魔術で試してきた栄養を濃縮する栽培で、ようやくちゃんと育てられるようになってきました。ね!試食しましょう♪」
「大丈夫かな?」
普段食べているニンジンと言えども特殊な栽培である。リアムはそれが可食か少し心配なようだ。
「食べてみないとわかりませんよー。ちょっとだけ。ね!」
確かに最終的には食べてみないことには確認できない。
「よし、じゃサラダでも作るか?」
「はい!」
そんなやり取りをして二人は台所に足を運ぶのだった。
師団の長は、王立魔導研究所の教授ジャンヌである。以前に名前だけ登場した炎と光の魔術を操る、フォルセル王国が誇る天才魔導士だ。
「陛下にあられましては、ご清祥のこととお慶び申し上げます。この度はご尊顔を拝させていただき、恐悦にございます。」
10人の魔術師を従え、謁見の間に上がったジャンヌは、王の前に跪き、恭しく挨拶をした。黒い法衣を身にまとった彼らはフードを目深に被っており、素顔が見えなかったが、ジャンヌが跪くと同時にフードを取り、素顔をあらわにした。
その全員が見目麗しい女性である。謁見の間に立ち会った高官の中には、フォルセルの黒魔導士たちに対し、苦々しい表情で睨みつけるものも少なからずいたが、突然露になったその美女集団を前に、驚きの表情を隠すことができなかった。
ジャンヌの挨拶を受け、ウラジミール王はそんな自分の部下たちの様子を一瞥しつつ、静かに口を開いた。
「堅苦しい挨拶は無用。・・・といいたいところであるが、周知のように我が国は、そちら黒魔術の使い手を忌み嫌ってきた。此度のことも快く思わぬ者たちが我が国には少なからずおる。慇懃なるそちの振る舞い、配慮に感謝する。」
「もったいない言葉にございます。」
バルティス王国は、フォルセル王国の建国当初から徹底的な弾圧を加えてきた歴史を持つ。フォルセル王国の人間としては、バルティスの王に対する憎悪の念は根深いものがあるに違いないのだ。その王に対し、敬意を表する行為がいかほどに耐えがたいものか、ウラジミール王はよく理解していた。
同時に自国の民は王宮の高官に至るまで、黒魔術師への憎悪の念を持つものが多くいる。それは、国王数代にわたる政策の結果であり、個人の人格の問題というよりはこれまでの統治者の責任によるところが大きい。もしフォルセルの魔導士・ジャンヌが王に不遜な態度を取れば、彼らの反発は防げなかったであろう。
しかし今は両国の連携が必要な時。ジャンヌは己の心を殺し、ウラジミール王に対し礼を尽くした。王もジャンヌの心遣いをいち早く汲んだ。両者の対応は賢明だったといえる。もし、この顔合わせでこじれるようなことがあれば、両国は連携どころか戦争に発展しかねないリスクをはらんでいた。
「さて、陛下。時間は多くはございませぬ。願わくば、早急に担当者級の協議の場を設けていただき、件の暗黒事変の原因究明に向けた作業に入りたく存じます。」
「よかろう。明日にも場を設ける。本日は、遠路からよくぞ参った。大義である。部屋を用意してあるゆえ、ゆっくりと休むがよい。」
「はは、ありがたく。」
謁見は手短に手じまいとなった。敵対的な感情を持つ家臣が少なからずいる中、使者達を公の場から早く退場させた方が良いという配慮である。
黒装束の一団は、王宮の従者の導きに従い、客間に下がっていった。魔術のたしなみのあるものがみれば、彼女らがいつでも戦闘を開始できる警戒態勢を維持していたことが察知できたであろう。表面上は簡素なやり取りであったが、その場は一触即発の空気であった。
「しかし、全員があのような美女の集団とは・・・驚きましたね。」
フォルセルの使者達が下がり、控えの間に移動した王に側近であるジュリアス宰相が感想を漏らす。
「うむ。ユリア(娘)の奴も驚いていた。(←31話参照。フォルセル王国に国書を届けた。) どうも魔力というのは一般的に女の方が男より強い力を持つらしい。筋力とは逆の関係にあるようだ。故に魔導王国であるフォルセルでは、支配者階級のほとんどが女で占められているらしい。」
「なるほど、それで。。私ら男が居合わせたら、さぞかし居心地の悪い空間でしょうな。」
「ハーレム」などとはとても言えない世界であろうことは容易に想像できる。男尊女卑ならぬ女尊男卑がまかり通る世界を想像し、二人はうすら寒い思いをするのだった。
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「ご主人様、ご主人様!」
王国本土では、緊迫した両国の歴史的な会見が行われていたが、アロン島は変わらずのどかだ。畑仕事を終えたリリカが元気な声でリアムの部屋に駆けてきた。手にはニンジンを持っている。
「ど、どうしたんだ?リリカ。」
若干の冷や汗をにじませ、リアムが笑顔で答える。(いかんいかん。普通にしてればいいんだ。) 最近どうもいけない。料理の時間以外でリリカが棒状の野菜を手にしているとどうしてもいけないことを想像してしまう。リアムはそんな自分自身を心中で密かに叱った。
「これね。リリカの特別製の栽培で作ったんです。」
「特別製?」
「はい、前から水魔術で試してきた栄養を濃縮する栽培で、ようやくちゃんと育てられるようになってきました。ね!試食しましょう♪」
「大丈夫かな?」
普段食べているニンジンと言えども特殊な栽培である。リアムはそれが可食か少し心配なようだ。
「食べてみないとわかりませんよー。ちょっとだけ。ね!」
確かに最終的には食べてみないことには確認できない。
「よし、じゃサラダでも作るか?」
「はい!」
そんなやり取りをして二人は台所に足を運ぶのだった。
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