上 下
17 / 60

第二章 ~『カイトの冤罪』~

しおりを挟む

 お昼を終えて教室に戻ると、リーシェラの席の周辺に人が集まっていた。彼女が人気者だからではない。怒声が教室に響き渡り、騒ぎになっていたからだ。

「私の指輪を盗んだのはカイトで間違いないわ!」

 その一言でマリアは状況を把握する。先ほどまで仲良く話をしていたカイトが犯人扱いされている状況に我慢できず、彼女の元へと駆け寄る。

「指輪が盗まれたと聞きましたが、どうしてカイト様が犯人ですの?」
「カイトはスラム出身だもの。間違いないわ」
「出自で犯人扱いはさすがに酷いと思いますわ」

 他に根拠がなければただの言い掛かりだ。だがその質問を待っていたと言わんばかりに、リーシェラは反論する。

「指輪は金貨数枚程度の価値しかないのよ。教会を去るリスクを背負ってまで盗みを働く者が他にいるとでも?」
「それならカイト様も同じことですわ。上級司教になるチャンスを不意にするとは思えませんもの」
「分かってないわね。パートナーの人気最下位はカイトに決まりよ。どうせ上級司教になれないならと小遣い稼ぎを考えても不思議ではないわ」

 あまりの暴論に頭が痛くなってくる。そしてそれは当事者であるカイトにとってもそうだった。

「俺を犯人扱いするなら身体検査でもすればいい」
「どうせ教室のどこかに隠して、後で回収する気なんでしょ。貧民の考えていることくらいお見通しよ」
「なら教室を隈なく探せよ! 証拠もなく俺を疑うならそれくらいすべきだろ!」

 怒りでカイトは眉根を寄せ、声を張り上げる。だがリーシェラは怯まない。

「証拠はないけど、状況があなたを犯人だと証明しているの」
「状況だと?」
「決定的なのは、盗まれた時間、教室にあなたしかいなかったことよ」

 リーシェラとの会話を終えた後、マリアは昼食を食べに食堂へ向かったが、彼女はそのまま教室へと戻った。そこで指輪が盗まれたことを知ったのだと語る。

 だがこの主張こそが、リーシェラの自演だと確信に至らせる。彼女は教室にカイトだけを残し、犯人とするために、謝る気もないのにマリアを外へと連れだしたのだ。

(ですがどうして、カイト様を罠に嵌めますの?)

 カイトを盗人に仕立て上げても、リーシェラに利益はないはずだ。だが疑問を解決するためのピースはない。

(意図はどうあれ、カイト様を見捨てることはできませんわ)

「私はカイト様を信じますわ」
「随分と庇うのね。理由でもあるの?」
「罪のない人を守るのは当然ですわ」
「ふふ、でも本当にそれだけが理由なの?」
「どういうことですの?」
「私、あなたとカイトが仲良くしているのを見たのよ……カイトをパートナーに選ぶつもりだから、庇ったんでしょ?」
「ち、違いますわ」
「なら誰を選ぶの?」
「それは……まだ決まっていませんわ」
「ふふ、苦しい反応ね。さて、クラスにいるみんな! 聞いていたわね! マリアに投票しても無駄よ! なにせこの娘は、パートナーにカイトを選ぶんだもの!」
「な、何を……」

 戸惑いながらも、リーシェラの狙いを察する。

 彼女はまず盗人騒ぎで注目を集めた。誰が犯人なのかと、意識を集中させているところに、マリアがカイトを選ぶと風説を流すのだ。

 最終的にパートナーに選ばれなければ、誰もマリアに投票しない。リーシェラのターゲットはカイトではなく、最初からマリアにあったのだ。

「あんた、本物の悪党だな」

 カイトも意図を察したのか口を挟む。

「あら、何の事?」
「俺を盗人扱いしてまで票が欲しいのかよ」
「当然よ。でもあなたの票はいらないから」
「誰が投票するかよ!」

 カイトは怒りで下唇を噛み締める。そして冷静さを取り戻すために息を吐きだすと、マリアを見据える。

「迷惑をかけた詫びとして、俺はあんたに投票する」
「あ、ありがとうございますわ」
「だがあんたは俺を選ばなくていい。ジルを選んでくれ」

 それだけ言い残して、彼は教室を飛び出す。必ず無実を証明すると、その背中は決意を語っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

【短編】婚約破棄した元婚約者の恋人が招いていないのにダンスパーティーに来ました。

五月ふう
恋愛
王子レンはアイナの婚約者であった。しかし、レンはヒロインのナミと出会いアイナを冷遇するようになった。なんとかレンを自分に引き留めようと奮闘するも、うまく行かない。ついに婚約破棄となってしまう。

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

剣の聖女はモブに乗っ取られました~婚約破棄されましたが・・・悪役令嬢ルートなんてありましたっけ?~

古芭白あきら
恋愛
 乙女ゲーム『剣の乙女のエンゲージ』のヒロインの座をモブに奪われてしまった!  しかもこの転生者はにわかプレイヤーらしく、後日談のファンディスクをプレイしていないみたい。このまま本物の剣の聖女が不在だと異形の王が復活して世界は大変なことになっちゃうのに!  悪役令嬢に転生した私は説得を試みたけど、ぜんぜん聞く耳を持ってくれないの。攻略された婚約者達までもが絡んでゲーム設定はめちゃくちゃだし! 「私はレイピア・ツヴァイハイダーとの婚約を破棄する!」  婚約破棄?  もう好きにすれば!  キレた私は全てを放り出した。  これからは真のヒロインを溺愛してイチャイチャ生活を謳歌してやるんだから!

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。 しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。 マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。 当然冤罪だった。 以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。 証拠は無い。 しかしマイケルはララの言葉を信じた。 マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。 そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。 もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。

婚約破棄? 卒業パーティーで何を言ってるんですか?

マルローネ
恋愛
学園の卒業パーティで伯爵令嬢のシルヴィアは、侯爵令息のライドに婚約破棄を言われてしまう。 ライドは自分の幼馴染であるシグマとシルヴィアが浮気をしていると勘違いし、卒業パーティーで 叱責し始めたのだ。 しかし、そんな勘違いを見破る人物の登場により……。

処理中です...