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第二章 ~『ジルとのランチ』~
しおりを挟むリーシェラと別れたマリアは食堂へ移動し昼食を取っていた。大好物のトマトとハムのサンドイッチだが、落ち込んだ気分のせいで味を感じない。
「ここの席いいかな?」
「ジル様……どうぞ」
「では失礼するよ」
腰掛けた彼の手に食事はない。マリアと話すためだけに近づいてきたのだと知る。
「私に何か御用ですか?」
「君を励ましたくてね」
「私はもうトップの成績ではありませんし、近づいても得はありませんわよ」
「そんなことはないさ。私はね、変わらず君のパートナーになりたいと願っているからね。少なくともリーシェラと組むのだけは勘弁だ」
「二人の間に何かありましたの?」
「色々とね」
教会に入る前からの知り合いだとは聞かされていた。だからこそリーシェラがなぜあのような卑怯な真似をするのか、彼なら答えを持っているかもしれないと期待する。
「リーシェラも可哀そうな人ではある。親からは大聖女になれなければ、勘当すると脅されているそうだからね」
「それは酷いですわね……」
「でもそのせいで彼女は損をしている。今回の君を罠に嵌めた戦略も、長期的に見ればマイナスだ。なにせ今後の試験では人間性も評価対象に含まれてくる。彼女は評価ポイント一位の椅子を手に入れた代償に、クラスの信頼を失ったのさ」
もし信頼している相手を選ぶ試験があれば、リーシェラは不利な立場となる。そこまで見越すのであれば、本性を晒すべきではなかった。
「それにプレッシャーだけじゃない。彼女は負けず嫌いだからね。君にも、そしてティアラにも負けたくないんだ」
「ティアラにもですの?」
「二人が悪友だったという話は聞いたことがあるかい?」
「リーシェラから聞きましたわ」
リーシェラから二人で悪戯を楽しんでいたと聞かされていた。幼い頃の話だとしても、タイプの違う二人が仲良くしている姿を想像できなかった。
「本当にティアラたちは友達でしたの?」
「幼い頃の二人は、恐ろしいコンビだったよ。私も散々虐められたし、スラムの平民を弄んでいたとも聞いたことがある」
「信じたくない話ですわね……」
だが根拠はジルの話だけではない。カイトがティアラを嫌っていたのも、この当時の出来事が原因だと予想が付いたからだ。
「でもね、年を重ねれば人は成長する。ティアラは父親から騎士道を叩きこまれたおかげで、一足先に大人に成長した。でもリーシェラは一人だけ子供のままだ。だから二人の仲は壊れてしまったんだ」
「そんなことが……」
「だから心配しなくても、過去のティアラはともかく、現在の彼女は立派な人さ。友人として大切にしてあげて欲しい」
過去の出来事が何であれ、マリアにとって、ティアラが自慢の友人であることに変わりはない。
「さて、私はそろそろ行くよ。投票は君に入れるから、パートナーは是非私を選んで欲しい」
それだけ言い残して立ち去る。成績だけでなく、人格も優れた人だと、彼に尊敬の念を抱くのだった。
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