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第五章
第五章 ~『発光する葡萄』~
しおりを挟むフェアリードラゴンの背中を追いかけ、辿り着いた先では鮮やかな葡萄畑が広がっていた。
大粒の葡萄は艶があり、一目で高級品種だと分かる。葡萄の実、一つ一つが発光しており、薄暗い夜を照らしていた。
「この葡萄畑をフェアリードラゴンが育てたのですね」
「見事なものだ。高い知能と念動力の魔術のおかげだね」
「でもどうして光っているのでしょうか?」
「魔力を帯びているからだね。しかも発光するほどの魔力が込められている。こんな果実は見たことがないよ」
アリアはゴクリと喉を鳴らす。魔力を含んだ苺のことを思い出していたのだ。
口に広がる強い甘味は今でも記憶に刻まれている。フェアリードラゴンも育てる過程で魔力を与えることに成功したのだ。
「キュィ♪」
フェアリードラゴンが摘み取った葡萄の房を運んできてくれる。好意的な眼差しから、治療のお礼にプレゼントしてくれたのだと伝わってくる。
「食べてもよろしいのですか?」
「キュィ♪」
「では頂きますね」
葡萄を一粒手に取り、その重さに驚かされる。サイズは葡萄と同じなのに、蜜柑を手にしたような重量感だった。
(粒の中に果汁が詰まっている証拠ですね)
期待で瞳を輝かせながら、マリアは口の中に葡萄の粒を放り込む。そして奥歯で噛み締めた瞬間、濃厚なジュースのような果汁が舌の上に広がっていった。
強い甘味を感じさせながらも、フルーツとしてのフレッシュさを維持している。以前食べた苺を遥かに超える味だった。
(しかも私の魔力が格段に増えていますね……)
魔物を倒したと同じ判定がなされたのか、マリアの肉体を覆う魔力が増加していた。美味なだけでなく、成長まで促してくれた。最高の贈り物だと、フェアリードラゴンに感謝する。
「シン様も食べてみませんか?」
「いいのかい?」
「私だけでは一房も食べきれませんから。いいですよね?」
「キュィ♪」
「では遠慮なく頂くよ」
シンも葡萄の粒を掴み取ると、口の中に放り込む。食べた瞬間、黙り込んでしまうが、僅かに上がった口角から美味しいと感じていることは伝わってきた。
「今まで食べた葡萄の中で一番美味しいよ……どんな果実も敵わない……だから、君さえよければ、この葡萄の苗木を貰えないだろうか?」
「キュィ♪」
フェアリードラゴンはシンの求めに応じるように、念動力の魔術で葡萄の苗木を運んできてくれる。固められた土に苗木が刺さり、緑の葉が茂っている。苗木も発光しているため、魔力を帯びていることが分かった。
「ありがとう。苗木さえあれば、私たちも葡萄の栽培に挑戦できる。きっと美味しい果物をたくさん作るから、その時には君にも食べに来て欲しい」
「キュィ♪」
この葡萄が市販されるようになれば名産品になることは間違いなしだ。領地を発展させるため、シンはチャンスを逃すつもりはなかった。
「でもシン様に葡萄栽培のノウハウはあるのですか?」
「ないね。だから兄さんに聞くよ」
「お兄様ですか?」
「第二皇子のアレックス兄さんさ」
噂にはよく聞く人物だ。どのような人か一度会ってみたいと誘惑に駆られるも、シンが兄弟と過ごす時間を邪魔しても悪いとの葛藤も生まれる。
「また機会があれば師匠にも紹介するよ。さて、そろそろ本格的に暗くなり始めてきたし、戻るとしようか」
「ですね」
フェアリードラゴンに感謝を伝えて、ふたりは夜の森へと戻っていく。発光する葡萄の苗木を頼りに、足場の悪い帰路を進んでいくのだった。
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