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第三章

第三章 ~『洞窟と鮎』~

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 魔物の森へやってきたアリアは川を上流へと昇っていく。辿り着いた先にはシンが教えてくれた通り、洞窟へと繋がっていた。

(ここに美味しい、お魚さんたちがいるのですね)

 アリアは収納袋から釣り具を取り出す。さっそく釣りを始めようとした瞬間、とある問題に気づいた。

(あ、釣り餌を忘れました……)

 針の先に付ける餌がなければ魚は釣れない。そのまま大人しく釣り具を仕舞う。

(どちらにしろ、私では釣り餌が触れませんから、無理でしたね)

 代わりに魔石を取り出して、シルフとギンを召喚する。釣り餌がなくとも、彼女には頼もしい仲間たちがいる。

「ギン様、頼みます!」

 ギンが浅瀬を選んで、川の中に足を踏み入れる。川の様子をジッと観察しながら、流れてくる魚を前足で川岸へと放り上げる。

 一匹、また一匹と、続々と魚を捕まえていく。魚の種類はシンから聞いていた通り鮎だった。

(美味しい鮎料理に仕上げないとですね♪)

 シルフの炎魔術で焚き火を用意し、串に刺した魚を並べていく。塩をふりかけて味付けしながら、焼けるのを待つ。

「美味しそうな匂いがしてきましたね」

 鮎の脂が弾ける音が鳴り、完成が間近に迫っていることを教えてくれる。ギンも食欲の限界に達したのか、鮎を捕まえるのを止めて、こちらに近づいてきた。

「たくさん捕まえてくれましたね。ありがとうございます♪」

 川岸には、アリアたちだけでは食べきれない量の鮎が積まれていた。食べきれる分だけを残して、シンたちのお土産にするために収納袋へとしまう。

(袋に仕舞っておけば、鮮度も維持されますからね。腐ることがないのは便利ですね)

 きっと喜ぶに違いないと想いを巡らせながら、焼けた鮎をギンへと差し出す。器用に噛り付くギンは、味を気に入ったのか、嬉しそうに尻尾を振っていた。

「シルフ様も食べてくださいね」
『ありがとうございます、マスター』
「ふふ、では私もいただきますね」

 鮎を頬張ると、口の中に濃厚な魚と塩の旨味が広がる。食べ進めていくと、胆の苦みも良いアクセントとなり、食が止まらなくなる。焼いていた鮎をすべて食べ終えるまでに、時間はそうかからなかった。

「ギン様はまだ物足りないようですね」

 アリアは腹八分目で満足していたが、ギンはもう少し食べたいと目で訴えていた。鮎を焼いても良いが、底の深いところで別種の魚が泳いでいるのが目に入る。

 ギンはアリアの意図を感じ取ったのか、川に飛び込み、川底から魚を咥えこんでくる。その魚は彼女が想定していないものだった。

「これはフグですね」

 身は美味しいが毒のある種だ。魔物ならいったん魔石に変えてから素材にできるが、魔力で肉体を構成していないフグ相手では、その手が通じない。

(砂糖に漬けて、毒を消せるとも聞いた覚えがありますが、素人知識では調理が難しいですね)

 諦めようとした時、ギンが期待するような視線を向けていることに気づく。

 可愛い相棒に頼られては仕方ない。アリアはう~んと唸り声をあげてから、妙案を思いつく。

(もしかしたら回復魔術で毒を消せないでしょうか)

 回復魔術はアリアの望む最良の状態へと修復できる。毒を状態異常だと見做せば、失くすこともできるかもしれない。

(物は試しですね)

 回復魔術を発動し、フグを白い輝きで包み込む。効力が発揮されたのか、フグの肉体は淡い輝きを放っていた。

(では捌いていきましょう)

 包丁でフグを解体していく。毒袋は最初からなかったかのように除去されておいた。美しい身を透明な刺身にしていく。

 アリアは箸で刺身を掴むと、ギンの口元へと運んであげる。パクっと食いついたギンは、咀嚼しながら尻尾を振る。ご機嫌な反応から、フグが美味だと伝わってきた。

(私も一口だけ……)

 アリアも続くように刺身を口の中に放り込む。毒の刺激もない。淡泊なのに、噛めば噛むほど旨味が溶け出し、その旨さに感動すら覚えた。

 それからギンが満足するまで、調理は行われた。お腹が膨れたところで、アリアは立ち上がる。

「さて、私たちの仕事はまだ残っていますよ」

 シンから洞窟の奥には強力な魔物がいると聞いている。このチャンスを逃す手はない。

「ここまで来たのですから。魔物を狩ってから帰りましょう」

 アリアは食後の運動も兼ねて、洞窟の奥へと進んでいく。その足取りに不安がないのは、頼りになる相棒たちが傍にいてくれるからだった。
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