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第三章
第三章 ~『コカトリスの卵』~
しおりを挟むコカトリスのおかげで食卓は鮮やかになった。卵は応用が効くため、卵焼きに、目玉焼き、プリンまで作れるからだ。
卵三昧の朝食に満足する日々。初日は感動して、ご飯を三杯もおかわりしてしまったほどだ。
だがさすがに一週間以上続けば、飽きもやってくる。
聖女の務めに励んでいた頃は、食事をただのエネルギー摂取として受け入れていたが、いまの彼女は違う。時間もたっぷりとあるため、飽きをそのままにするようなことはしない。
(私は何が食べたいのでしょうか……)
台所へ顔を出し、食料の貯蔵庫を確認する。米や漬物が中心で、特別に食欲がそそられるものはない。
(卵は食べましたし、肉も食べました。残るは……)
魚だ。アリアの舌は新鮮な魚介類を求めていた。
「師匠が台所にいるなんて珍しいね」
シンが顔を出す。いつもなら魔物狩りで出かけている時間のはずだ。その彼がどうしてここにいるのか疑問を浮かべていると、彼も気づいたのか、答えをくれる。
「別件で帝都に用事があってね。私はお留守番さ。師匠はどうしてここに?」
「魚を食べたいと思いまして……海が近くにありますし、捕まえてもよいのでしょうか?」
海上列車で移動中に、飛び跳ねる魚を車窓から見かけたことを思い出す。釣り具さえあれば、魚を捕まえるのも悪くない。
「漁業権の問題があってね。海での魚の捕獲は第二皇子だけに許されているんだ」
「昔は問題なかったのに、生きづらい世の中になりましたね」
「懐かしいよね……子供の頃は師匠とよく一緒に釣りにいったものだ」
魚を釣って、二人で焼いて食べた日のことを思い出す。魚の脂と塩の旨味が頭の中にフィードバックし、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「あの頃は楽しかったね。師匠が釣り餌のミミズを触れないから代わりに付けてあげたよね」
「私も女の子ですから。虫は苦手なんです」
「あの時のことは今でも鮮明に思い出せるよ。なにせ師匠も可愛いところがあるんだなと印象が変わったからね」
アリアは師匠だったが、生活のいろんな場面で彼には助けられていた。思えば、あの頃から彼はしっかり者だった。
「話を戻すと、海で釣りをする以外の手段なら買うのが最もお手軽だよ」
「もしかして市場で売っているのですか?」
「よく知っていたね。あそこなら美味しい魚がたくさん売っているし、欲しい分だけ手に入る」
「う~ん、でもやっぱり私は狩りの方が……」
アリアはギンにも食べさせてあげたいと考えていた。市場で買ってもいいが、それだと量が少なすぎるし、出費も大きくなるからだ。
「なら川魚を狙うしかないね。森を流れている川なら漁業権の問題はないから好きに魚を捕まえていいからね」
「美味しい魚もいるのですか?」
「もちろん、いるよ。川の上流が洞窟に繋がっているんだけど、そこに住む鮎は絶品なんだ」
「それは興味が惹かれますね」
「でも洞窟の奥に進むのは危険だから注意してね。入口付近は安全だけど、奥まで進むと強力な魔物が出現するから」
「ご忠告ありがとうございます」
目的地は決まった。善は急げと台所を後にしようとした時、すべてを見透かすような眼を向けられる。
(私がアリアンだと気づいているのでしょうか)
ランクBのシルバータイガーを操る魔術師だと知っているから、魔物の森での釣りを提案したのだとすると納得できる。黙認してくれている彼に感謝する。
「釣り具なら屋敷の倉庫にあるから、好きに使ってよ」
「では、お言葉に甘えますね」
アリアはシンに礼を告げて、その場を後にする。よき理解者である彼に感謝し、自然と口元に笑みが浮かぶのだった。
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