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第三章

第三章 ~『カイトとの友情』~

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 コカトリスの子供を屋敷に連れ帰ると、庭師のおじいさんに裏庭の小屋を紹介される。止まり木や水受けに加え、産卵箱まで置かれており、過去にも生物を飼っていたことが分かる。

「随分と昔の話になりますが、ここでコカトリスが飼われていたんです。家臣の方々、特にカイトくんは大切に世話をしていました」
「やはりカイト様は動物がお好きなのですね」
「彼は動物の世話も誰よりも真面目にこなしていました。副官として冷たく打算的な振りをしていますが、本当は優しく情に厚い人物なんですよ」

 庭師のおじいさんは優しげに微笑む。きっとカイトとも長い付き合いなのだろう。まるで孫を褒める祖父のような口ぶりだった。

「聖女様、帰ってきていたのですね」
「カイト様、どうしてここに?」

 二日酔いは回復魔術で治療済みだ。てっきりシンの後を追って、魔物狩りに出かけたとばかり思っていた。

「事務仕事が溜まっていましたので、今日はそちらを優先することにしたんです……抱いている鳥はまさかコカトリスですか?」
「え、ええ」
「さすがリンさん、さっそく捕まえるとはやりますね」

 カイトはアリアを非力だと誤解している。自力で捕まえられるはずがないのだから、友人のリンが捕獲したと思い込むのも、ある意味で自然だった。

「まだ子供ですね」
「親鳥はフロストドラゴンに襲われたんです」
「可哀想ですが、あの怪物に勝てる魔物は存在しません。子供が生き残っただけでも幸運ですよ」

 魔物どころか人間でも勝算があるのは第一皇子くらいのものだ。子を守り切った親鳥は称賛されていい。

「コカトリスは聖女様に懐いていますね」
「人懐っこいので、きっとカイト様のことも気に入るはずですよ。よければ抱いてみますか?」
「是非!」

 カイトは前のめりになって反応する。よほどコカトリスが好きなのだろう。

 アリアはカイトにコカトリスを預ける。すると彼は慣れた手付きで抱き上げた。蛇の尻尾が左右に揺れており、上機嫌だと伝わってくる。

「こうしていると、昔、飼っていたコカトリスを思い出します。温厚で、私に懐いていたのですが、病で倒れてしまって……」

 カイトの瞳には慈愛が満ちている。かつて飼っていたコカトリスと重ねているのだろう。

「聖女様、この子の名前はなんと?」
「まだ決めていませんでしたが……折角ですし、カイト様が決めてください」
「私が決めてもいいのですか?」
「はい。この子はカイト様のために捕まえてきたのですから」
「で、ではコカと。かつて私が飼っていたコカトリスの名前です」
「コカ様ですね。良い名前を付けてもらいましたね♪」

 コカの首元を優しく撫でてやると、猫のように喉を鳴らして喜ぶ。その様子をカイトは目を細めて眺めていた。

「あの、聖女様、私がコカの世話をしてもよろしいですか?」
「ありがたい申し出ですが、よろしいのですか?」
「良い気分転換になりますから」
「ふふ、では卵は屋敷の朝食に提供しますね。カイト様や、家臣の皆さんも召し上がってください」

 もちろん私も食べますがと、アリアは続ける。コカトリスは卵をたくさん産むため、全員に分け与えても十分に足りる。どうせなら美味しいものは大勢で共有したい。

「聖女様のおかげで毎日の朝食が楽しみです」
「ふふ、カイト様が喜んでもらえて嬉しいです♪」
「聖女様は本当に優しい人ですね……それなのに私は……」
「カイト様も優しいではありませんか」
「いえ、私は……白状すると、聖女様を利用するべきだとシン皇子に提案したこともありました」

 もちろん断られましたがと、彼は続ける。アリアに怒りはない。副官の立場なら当然だと思ったからだ。

「シン様のためにしたことを私は非難したりしませんよ」
「いえ、純粋にシン皇子のことだけを考えていたわけではありません。私は聖女様に嫉妬していたんです。だから私は謝らなければならない」

 カイトは頭を下げる。その謝罪に対し、アリアは柔和な笑みで応えた。

「許します。なにせ私たちは友人ですから」
「友達、ですか?」
「違いますか?」
「そうですね。聖女様、いえ、アリアさんは大切な友人です。これからも仲良くしてください」

 二人は、はにかみながら微笑を浮かべる。心の距離が近づいた結果、互いの間に友情が芽生えたのだった。
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