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第二章

第二章 ~『魔石の融合』~

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 魔物を求めて、森を散策するアリアだが、歩くスピードが低下していた。蘇生のために大量の魔力を消費したため、身体能力が低下していることが原因だった。

(助けたことに後悔はありませんが、大きな成果は得られないかもしれませんね)

 この日の成績は、コボルトを一体と、道中で倒したゴブリン三体だ。まだオークすら倒せていない。

(せめてランクEの魔物を一体でもいいから倒しておきたいですね)

 討伐ポイントを稼ぐためにも強い魔物を発見したい。そう願っていると、空から飛行してくる物体に気が付いた。

(まさか、フロストドラゴン⁉)

 ランクAの敵と戦うつもりはない。逃げようと構えるが、接近してきた魔物の正体が鮮明になったことで、その足を止める。

(あれはランクEの魔物、ハーピーですね)

 顔は人間の女性に近いが、腕と足には巨大な鳥の爪が生えている。大きな黒い翼を羽ばたかせるハーピーの首には、金のネックレスが吊り下げられていた。先端には青の魔石が埋め込まれており、人の手で加工されたものだと分かる。

(あのネックレスは人から奪ったものでしょうね。許せません)

 ハーピーは人を襲い、貴金属を収集する習性がある。皇国の人たちの平穏な暮らしのためにも、ここで仕留めておきたい。

(ですが、空を飛んでいるのは厄介ですね)

 ハーピーはアリアたちの頭上まで近づいてきたが、上空を旋回して、彼女の出方を伺っている。ギンが威嚇しているため襲うに襲えず、隙を伺っているのだ。

(空だからと油断しているなら、人間を舐めすぎです)

 アリアは地面に落ちている石を拾いあげると、魔力を注いで硬度を上げる。その石を魔力で強化した肉体でハーピーに向かって投擲する。

 弾丸に匹敵する速度で放たれた石礫は、ハーピーの翼を撃ち抜く。片翼を失い、墜落を始めたハーピーを追いかけて、ギンが駆ける。

 空さえ飛んでいなければ、ハーピーはギンの敵ではない。地面に落ちると同時に、ギンの爪がハーピーに突き刺さり、魔素となって霧散した。

「私とギン様の連携が上手く働きましたね♪」

 心を通わせているからこそ、ギンはアリアの意図を読み取って、すぐに行動に移すことができる。

 ハーピーを倒したギンを褒めてあげてから、黒い魔石と金のネックレスを拾い上げる。

 このネックレスは魔物が奪ったものであり、その所有権は倒した人物に移る。そのためアリアが自由にしてよい決まりとなっている。

(このネックレスの先端に嵌め込まれた魔石から大きな魔力を感じますね。高額な品でしょうし、本当に私が貰ってもいいのでしょうか)

 法律では所有権はアリアにある。だがルールとモラルは違う。どこか罪悪感を覚える。

(冒険者組合で相談してみるとしましょう)

 一旦、ネックレスを収納袋に仕舞うと、代わりにコボルトの魔石を取り出す。

(空を飛べる戦力はこれからのためにも必要になりますからね)

 ギンでは空を飛ぶことができないし、上空からの索敵要員がいれば、魔物探索も効率化できる。

 だがハーピー単体だと戦力として心許ない。また人と変わらない体躯のため、索敵中に目立ってしまう問題もある。

(コボルトの魔石を手に入れていたのは僥倖でしたね)

 アリアは二つの魔石を近づける。

 回復魔術は対象の一部の要素だけを復活させることが可能だ。例えば素材としての特徴のみを修復することで、鹿の魔物肉を手に入れることができた。

 これをさらに応用し、コボルトの小柄な肉体という特徴と、ハーピーの飛行能力の特徴を抽出し、二つの特徴を合わせもつ魔物を召喚獣とすることもできた。

 この回復魔術の応用技をアリアは融合と呼んでいた。

(久しぶりの融合なので緊張しますね)

 二種の魔石の特徴を抽出し、黒と緑が混ざり合った一つの魔石へと修復していく。生み出された大粒の魔石は神秘的な美しさを放っていた。

「折角ですし、ギン様にも新しい仲間を紹介しますね」

 魔力を流し込んで、魔石から召喚獣を呼び出す。手の平サイズの小さな妖精が具現化された。

 つぶらな瞳に、蝶のような虹色の羽、可愛らしい少女の顔をした魔物は、ピクシーと呼ばれる種族だ。

「はじめまして、私はアリアです」
『こちらこそはじめまして、マスター。私はピクシー種のシルフと申します』

 頭の中に声が響く。声の主は目の前にいるシルフのものだろう。

「人の言葉を話せるのですか⁉」
『私の元になったハーピーの知能が高かったことと、融合する際に、マスターの魔力が混じった影響で念話による会話が可能なようです』

 人語を話せる召喚獣はとてもありがたい存在だ。コミュニケーションを取ることができれば、情報伝達も楽になるからだ。

「ではシルフ様とお呼びしますね。さっそく、お願いしたいのですが、周囲にいる魔物を探してきて欲しいのです」
『任せてください』

 シルフが空へと舞い上がり、周囲を旋回する。上空からなら森で起きている異変を俯瞰して知ることができる。

『マスター、さっそく魔物を発見しました』
「仕事が早くて助かりますね♪」

 シルフに導かれるままに、アリアはギンと共に森を駆ける。優秀な仲間の参加に、頼り甲斐を感じるのだった。
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