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幕間3

幕間 ~『歓喜に震える ★ケビン視点』~

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『ケビン視点』


 自室に戻ったケビンは歓喜に震えていた。声が外に漏れないように必死に我慢しながらも、笑みを完全には抑えきれていなかった。

(まさかエリスが回復魔術を使いこなせる日がくるなんて! まるで夢みたいだ!)

 回復魔術を使えると神託を受けた時から、エリスは教会の神父たちの間で注目の的だった。

 伝説の聖女の生まれ変わりではと噂する者もいた。だがエリスが魔力に目覚めないと分かると、ほとんどの者は見限ってしまった。

 だがケビンは、エリスがいずれ魔力に目覚め、聖女の力を得ると信じ続けた。そしてそれは現実となったのだ。

(計画に歪みは生じたが、それ以上の収穫だ。もし僕が聖女の夫となれば、教会での地位は盤石なものとなるはずだからね)

 ケビンの教会での役職は上級神父だ。これは法皇に限りなく近い地位であり、大勢の下級神父を束ねる立場である。

 だがケビンは現状に満足していなかった。さらに上の法皇の地位も虎視眈々と狙っていた。

 法皇になるためには試練があり、上級神父たちで選挙が行われる。投票の結果、最も優秀だと評価された者が法皇として、次世代の教会を率いる立場となる仕組みだ。

 ケビンは次期法皇の最有力候補というわけではない。甘く見積もって、三番手だ。十分に法皇を狙える地位ではあるが、確実に投票で勝つには心許ない序列だ。

 だが聖女の威光があれば、次期法皇はケビンでほぼ決まりになる。教会には聖女を信仰する者が多く、無条件に票が手に入るためだ。

(もし僕が法皇になれば、王国で最強の権力者にだってなれる)

 公爵領と伯爵領を支配し、法皇の地位を手に入れる。さらに聖女の生まれ変わりのエリスを妻とするのだ。

 王国での地盤は盤石となり、王家でさえ太刀打ちできない存在となるだろう。

(僕は幸運な男だ)

 エリスを手に入れた後の妄想で笑みが止まらない。そして、計画を進める重要性を改めて実感する。

(アルフレッド公爵はやはり邪魔だね)

 支配者となる未来のためにも、呪い殺さなければならない。だがそれは簡単ではない。呪いを予防されているため、命を奪うなら、正体判明のリスクを背負わなければならないからだ。

(ただ僕ならやり方はいくらでもあるさ)

 エリスとの婚約を破棄したため、普通なら門前払いにあうだけだが、幸いにもケビンは教会の神父を兼任している。

 おかげで、オルレアン公爵家を訪れることに言い訳が立つ。アルフレッドが無理にケビンを追い返せば、教会との争いの火種となるため、それもできないはずだ。

(エリスと愛を育む日が訪れるのも近いね)

 ケビンはエリスと幼馴染であり、彼女の性格はよく知っている。婚約破棄での印象のマイナスもすぐに取り返せる算段があった。

(待っていてよ。僕が必ず愛してあげるからね)

 ケビンは喉を鳴らして笑みを零す。その邪悪な笑い声は我慢しても部屋の外にまで響くほど大きかった。

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