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第三章 ~『嵌められた猫団』~
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アークライズは【灰色の猫団】の危機を救うための方法を模索し、一つの疑問にぶつかる。
「不思議なことがある……クラウディアはなぜ【灰色の猫団】に嫌がらせをするんだ? そんなことをしても得になることはないだろうに……」
「クラウディアさんはサラちゃん以外の人間が邪魔なんです」
「サラ以外?」
「サラちゃんは百年に一人の魔法の天才なんです」
「天才か……確かに水精霊の魔法を使えていたし、無能という訳ではないだろうが……」
「アークくん、サラちゃんの凄いところは水魔法ではありません。魔道具開発こそ、サラちゃんの才能を最も発揮できる場所なのです」
魔道具とは魔法の回路を組み込んだ道具のことであり、魔力を通すことで、予め決められた魔法を発動することができる。世の中には魔道具が溢れ、身近なものだと、家の中を照らす照明も光魔法の回路を組み込んだ魔道具だった。
「サラちゃんが生み出した魔道具の発明は一つや二つじゃありません。ほとんどはガラクタで赤字になるモノも多いですが、稀にヒット作を生み出し、魔道具の権利料で【灰色の猫団】の財布を支えてくれています」
「魔道具か……これなんかもそうだよな」
アークライズは壁際に置かれていた四方手裏剣を手に取る。中央の穴に指を通し、魔力を流すと、手裏剣は激しく回転した。
「それは失敗作ですね……風の魔法で殺傷力を上げた武器なんですが、投げた後にコントロールできない欠点があって、まったく売れませんでした」
「着弾する場所が分からないなら、そうだろうな」
「ですがヒットした魔道具は大手の冒険団からも求められるくらい人気があるんです」
「そのヒット商品の権利がクラウディアの狙いか……ならその魂胆も理解できる。あいつは仲間を追放して、一人になったサラを操り人形にしてから、権利を奪い取ろうとしているんだな」
「はい。特に私なんかは権利を売ることに反対していますから。クラウディアさんにとっては邪魔で仕方がないでしょうね」
「だがそうだとすると考えが浅いな。仲間を追い出した奴に権利を売るはずがないだろうに」
「そうとも言い切れないのです」
マイアは悲痛な表情で、戸棚から一枚の借用書を取り出す。
「クラウディアさんは私たちが資金繰りで困っていた時、冒険団の土地と建物を担保にお金を貸してくれたんです。そのおかげで資金繰りの問題を解決することができました。しかし――」
「クラウディアの親切には裏があったんだな……あいつの本当の狙いは【灰色の猫団】が持つ魔道具の権利だった」
「はい。ですが私たちは資金を手に入れたことで業績を回復させました。そのおかげで土地も建物も魔道具の権利も守り抜き、クラウディアさんも手を出せなくなりました」
「なるほど。だからこその嫌がらせか」
「その通りです。クラウディアさんは私たちに嫌がらせをすることで団員たちを追い出しました。これにより【灰色の猫団】は成果を残すことができなくなり、業績も悪化。再び資金不足に陥りました」
「そこでクラウディアは魔道具の権利を売って、業績を回復しろと、甘い言葉を囁いてきたってことか。これで話が繋がったな」
クラウディアが魔道具の権利を手に入れようとしているのは銀行に利益をもたらすためだ。成果を挙げれば彼女の評価にも繋がる。彼女はメルシアナ家の当主となるために、【灰色の猫団】を何としても手に入れようとしていることが情報越しに伝わった。
「アークくんはリバ領の領主様なんですよね? お願いします。どうか私たちを助けてください。私、サラちゃんと一緒にこれからも冒険を続けたいんです」
「私からもお願いします」
マイアが頭を下げると、続けるようにサラも頭を下げた。
「頭を上げてくれ……」
「いいえ、アークさんが受けてくれるまでは……」
「そういうことじゃない……頭を下げられなくても、乗り掛かった舟だし、助けてやるつもりだったんだ」
「アークさん!」「アークくん!」
二人は嬉しさのあまり、アークライズに抱き着く。二人の柔らかい感触が、彼を包み込んだ。
「悪いが……暑いから離れてくれ」
「そ、そうだね」
「それに喜ぶのはまだ早い。俺も銀行員の端くれだ。厳しく指導するから、途中で泣き言は口にしないでくれよ」
「お手柔らかにお願いします」
マイアとサラは苦笑いを浮かべる。アークライズも釣られるように笑い返すと、二人から【灰色の猫団】の情報を引き出す。どのような権利を持っているかの資産一覧や業績の推移表などから今後の戦略を検討していく。
「この魔道具の権利。すべてサラの発明なんだよな」
「どうです? サラちゃんはすごいでしょ?」
「凄い。いや凄いなんてものじゃない」
サラの魔道具の権利はその数の多さもさることながら、権利を使わせてほしいと申請してきた冒険団の数が百を超えていた。その権利料は相場よりも遥かに安い価格だが、それでもすべてを合わせると馬鹿にならない金額が算出された。
「これだけの資産があれば、生活に困らないだろう?」
「そんなことはありませんよ。なにせ発明にはお金が必要ですから。借用書の束は、ほら。権利書と同じくらいあります」
「資産と借金で帳消しになっているわけか……だがこれならクラウディアに勝てるな」
「アークさん、本当ですか?」
「ああ。俺が勝たせてやる!」
アークライズが自信に満ちた声でそう宣言すると、「邪魔するわね」と声が届き、【灰色の猫団】の拠点の扉が開けられる。突然の来訪者に、アークライズたちの視線が集まる。
「あ、あなたは……アークッ」
「クラウディア。久しぶりだな」
扉の向こう側では銀髪の少女、クラウディアが鬼の形相を浮かべていた。
「不思議なことがある……クラウディアはなぜ【灰色の猫団】に嫌がらせをするんだ? そんなことをしても得になることはないだろうに……」
「クラウディアさんはサラちゃん以外の人間が邪魔なんです」
「サラ以外?」
「サラちゃんは百年に一人の魔法の天才なんです」
「天才か……確かに水精霊の魔法を使えていたし、無能という訳ではないだろうが……」
「アークくん、サラちゃんの凄いところは水魔法ではありません。魔道具開発こそ、サラちゃんの才能を最も発揮できる場所なのです」
魔道具とは魔法の回路を組み込んだ道具のことであり、魔力を通すことで、予め決められた魔法を発動することができる。世の中には魔道具が溢れ、身近なものだと、家の中を照らす照明も光魔法の回路を組み込んだ魔道具だった。
「サラちゃんが生み出した魔道具の発明は一つや二つじゃありません。ほとんどはガラクタで赤字になるモノも多いですが、稀にヒット作を生み出し、魔道具の権利料で【灰色の猫団】の財布を支えてくれています」
「魔道具か……これなんかもそうだよな」
アークライズは壁際に置かれていた四方手裏剣を手に取る。中央の穴に指を通し、魔力を流すと、手裏剣は激しく回転した。
「それは失敗作ですね……風の魔法で殺傷力を上げた武器なんですが、投げた後にコントロールできない欠点があって、まったく売れませんでした」
「着弾する場所が分からないなら、そうだろうな」
「ですがヒットした魔道具は大手の冒険団からも求められるくらい人気があるんです」
「そのヒット商品の権利がクラウディアの狙いか……ならその魂胆も理解できる。あいつは仲間を追放して、一人になったサラを操り人形にしてから、権利を奪い取ろうとしているんだな」
「はい。特に私なんかは権利を売ることに反対していますから。クラウディアさんにとっては邪魔で仕方がないでしょうね」
「だがそうだとすると考えが浅いな。仲間を追い出した奴に権利を売るはずがないだろうに」
「そうとも言い切れないのです」
マイアは悲痛な表情で、戸棚から一枚の借用書を取り出す。
「クラウディアさんは私たちが資金繰りで困っていた時、冒険団の土地と建物を担保にお金を貸してくれたんです。そのおかげで資金繰りの問題を解決することができました。しかし――」
「クラウディアの親切には裏があったんだな……あいつの本当の狙いは【灰色の猫団】が持つ魔道具の権利だった」
「はい。ですが私たちは資金を手に入れたことで業績を回復させました。そのおかげで土地も建物も魔道具の権利も守り抜き、クラウディアさんも手を出せなくなりました」
「なるほど。だからこその嫌がらせか」
「その通りです。クラウディアさんは私たちに嫌がらせをすることで団員たちを追い出しました。これにより【灰色の猫団】は成果を残すことができなくなり、業績も悪化。再び資金不足に陥りました」
「そこでクラウディアは魔道具の権利を売って、業績を回復しろと、甘い言葉を囁いてきたってことか。これで話が繋がったな」
クラウディアが魔道具の権利を手に入れようとしているのは銀行に利益をもたらすためだ。成果を挙げれば彼女の評価にも繋がる。彼女はメルシアナ家の当主となるために、【灰色の猫団】を何としても手に入れようとしていることが情報越しに伝わった。
「アークくんはリバ領の領主様なんですよね? お願いします。どうか私たちを助けてください。私、サラちゃんと一緒にこれからも冒険を続けたいんです」
「私からもお願いします」
マイアが頭を下げると、続けるようにサラも頭を下げた。
「頭を上げてくれ……」
「いいえ、アークさんが受けてくれるまでは……」
「そういうことじゃない……頭を下げられなくても、乗り掛かった舟だし、助けてやるつもりだったんだ」
「アークさん!」「アークくん!」
二人は嬉しさのあまり、アークライズに抱き着く。二人の柔らかい感触が、彼を包み込んだ。
「悪いが……暑いから離れてくれ」
「そ、そうだね」
「それに喜ぶのはまだ早い。俺も銀行員の端くれだ。厳しく指導するから、途中で泣き言は口にしないでくれよ」
「お手柔らかにお願いします」
マイアとサラは苦笑いを浮かべる。アークライズも釣られるように笑い返すと、二人から【灰色の猫団】の情報を引き出す。どのような権利を持っているかの資産一覧や業績の推移表などから今後の戦略を検討していく。
「この魔道具の権利。すべてサラの発明なんだよな」
「どうです? サラちゃんはすごいでしょ?」
「凄い。いや凄いなんてものじゃない」
サラの魔道具の権利はその数の多さもさることながら、権利を使わせてほしいと申請してきた冒険団の数が百を超えていた。その権利料は相場よりも遥かに安い価格だが、それでもすべてを合わせると馬鹿にならない金額が算出された。
「これだけの資産があれば、生活に困らないだろう?」
「そんなことはありませんよ。なにせ発明にはお金が必要ですから。借用書の束は、ほら。権利書と同じくらいあります」
「資産と借金で帳消しになっているわけか……だがこれならクラウディアに勝てるな」
「アークさん、本当ですか?」
「ああ。俺が勝たせてやる!」
アークライズが自信に満ちた声でそう宣言すると、「邪魔するわね」と声が届き、【灰色の猫団】の拠点の扉が開けられる。突然の来訪者に、アークライズたちの視線が集まる。
「あ、あなたは……アークッ」
「クラウディア。久しぶりだな」
扉の向こう側では銀髪の少女、クラウディアが鬼の形相を浮かべていた。
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