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第一章 ~『ゴブリン肉のシチュー』~
しおりを挟むリーシャの手料理をご馳走になるために食卓へと案内される。白いテーブルクロスの上にはシチューとパンが並んでいた。
「お爺さんは?」
「病み上がりだから、しばらく安静にしているとのことです」
「ずっと寝ていたし、お腹が空いていないのかな?」
「なぜだかお腹がいっぱいだそうで」
「薬の効果かもね」
ポーションは体調を回復させるために、栄養が多量に含まれている。ハイポーションなら、それはポーションの比ではない。空腹でさえ満たせる万能薬。それこそがハイポーションの力だった。
「しばらくは祖父を街のお医者様のところに預けようかと思います」
「ずっと目を覚まさないような大きな病にかかっていたんだ。経過を観察するためにも、そのほうが良いね」
餅は餅屋である。ハイポーションを飲んだことで本当に完治したかどうかは素人のジンには判断できない。専門家に診てもらうべきだ。
「では食事にしましょうか」
「折角のご馳走だからね。冷める前に食べないと」
「ジン様のお口に合うとよいのですが……」
「この見た目だ。絶対に美味しいに決まっている」
ジンが最初に手を伸ばしたのはサラダだ。山で採れた山菜は、シャキシャキと口の中で弾ける。パンもしっかりと焼けており、小麦の甘みが口の中に広がった。
「うん。美味しいよ。次はいよいよメインディッシュのシチューだね」
デミグラスソースでゴブリン肉が煮込まれている。スプーンで肉を掬い上げると、プルプルと震えていた。
「ゴブリン肉なのに柔らかいね」
「空気を圧縮する魔道具を使うと、トロトロになるんです。硬いゴブリン肉も、ご馳走に生まれ変わるんですよ」
「へぇ~、それは凄い」
魔道具とは、その名の示す通り、魔力を込めるだけで、誰でも魔法を発動することができる便利な道具のことである。
例えば調理器具などがそうだ。魔力で火を起こせる魔道具は生活に欠かせない必須アイテムとなっている。
「では、いただきます」
トロトロになった肉を恐る恐る口の中に放り込む。独特の臭みは消えており、旨味だけが口の中一杯に広がった。
「このシチュー、すごく美味しいよ」
「喜んでもらえたのなら作り甲斐がありました。おかわりもあるので、遠慮なく仰ってください」
二人は談笑しながら食事を楽しむ。エデンの食事と比べれば豪華とはいえないが、それでも幸せを実感できる味だった。
「ご馳走様」
「ふふふ、お粗末様です」
「リーシャのお爺さんは幸せ者だね。いつもこんな美味しい料理をご馳走してもらえるのだから」
「いえ、普段の食事はもっと質素ですよ」
「え、そうなの?」
「ジン様から受けた恩を僅かでも返すために奮発しました。これでもきっとまだ足りないと思いますが……」
「僕はただ薬をあげただけで」
「ですが、あの薬はハイポーションですよね?」
「知っているの?」
「昔はスターティア地区でも製造されていましたから。噂には聞いたことがあります。なんでもポーション百本分の原液を混ぜ合わせて作るとか……」
「百本か。それであんなに高かったのか……」
特別な製造技術がなくても、素材さえあれば精練できる。しかし金貨九枚の薬を買えるような経済的余裕を持つ者はスターティア地区にほとんどいない。
需要がなければ供給しても仕方がないと、製造がストップしてしまったのだ。
「あ、あの、薬代、いつか必ず返しますから」
「いいよ、別に。食事もご馳走になったしね」
「いいえ、いけません。ジン様は冒険者です。命懸けで稼いだお金を私のために使ってくれたのですから。受けた恩には必ず報いるべしというのが、我が家の家訓です!」
「…………」
リーシャの瞳には強い意志が込められている。恩を感じなくてもいいと伝えても、きっと勝手に感謝するだろう。
ハイポーションの代金を稼ぐために、過労になられても困る。妙案がないかと頭を捻り、そこで当初の計画を思い出す。
スターティア地区の発展。そのための足掛かりとしてヒューリック村を拠点とするのは悪くない。
「それならこの家に住ませてもらってもいいかな?」
「もちろんです! ですが、それだけでは薬代に足りません」
「ならご飯も付けてもらおうかな。毎日の食事と宿代は馬鹿にならないからね。薬代として受け取るより、僕もそっちの方が助かるんだ」
「ジン様は、やっぱり優しい人ですね♪」
ジンの厚意を感じ取ったリーシャは口元に笑みを浮かべる。二人の共同生活がとうとう始まったのだった。
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