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第二章 ~『逞しい女の子』~
しおりを挟む吊られたリーシャを下ろして、目覚めるのをジっと待つ。数分後、瞼を擦って、彼女は起き上がった。
「あれ? ここはいったい……」
「ゴブリンの巣さ。覚えていないのかい?」
「そういえば、魔物の集団に襲われてしまいましたね。あなた様が助けに来てくれたのですか?」
「悲鳴が聞こえたからね。人として当然のことをしたまでさ」
「ふふふ、やはりジン様は変わりませんね」
「僕の事を覚えているのかい?」
「道具屋で薬草を譲っていただいた恩人ですから」
ニコニコと愛想の良い笑みを浮かべる。助け出せて良かったと、今更ながらホッとする。
「リーシャはどうして森の中に?」
「薬草を集めていたのです」
「お爺さんが病気だとは聞いていたけど、僕の渡した薬草だけだと足りなかった?」
「実はそうなんです……道具屋の在庫もなくなりましたから、危険を承知の上で、山で探していたのです」
「……リーシャは優しい娘だね」
「そんなことは……」
「人のために命を賭けることは容易じゃないよ。君は立派さ」
ゴブリンや山賊が出没すると知りながらも、恐怖に負けず、祖父のために薬草を探しに来たのだ。無謀だと窘める者もいるだろうが、ジンは彼女の勇気を賞賛したかった。
「薬草がたくさん見つかるといいね」
「私もそれを望んでいるのですが、現状収穫はゼロでして……」
「この辺りには生えてないのかも」
「いえ、この森は間違いなく生育地のはずですよ。少なくとも昨年までは、たくさん採れましたから」
「ならどうして」
「それが理由は分からなくて……」
困り顔を浮かべるリーシャを助けたいと知恵を絞る。気候は昨年から大きく変わっていない。外的要因で変化したと考えるのが自然だ。
「薬草を別の村人が採集したりしてないかな?」
「それはないです。皆さん、魔物を恐れて、山には入りませんから」
「魔物かぁ……昨年もいたの?」
「いえ、ゴブリンが住み着き始めたのは、今年に入ってからですね」
「やっぱりそういうことか」
ジンは薬草の消えた理由に確信を抱き、貯蔵庫の隅に積まれた山菜をジッと見つめる。
「薬草の消えた理由ってゴブリンが原因だったりしないかな?」
「それです! ゴブリンたちも傷を癒すときに薬草を利用すると聞いたことがありますから。間違いありません!」
「ならこの貯蔵庫に保管してあるはずだ。見える範囲でありそうな場所は……」
「あの積まれた山菜ですね」
ゴブリンが几帳面な性格だとは思えない。山菜と混ぜて保管していても不思議ではない。
「私、探してみます」
「僕も手伝うよ」
「でも、こんなことまでお力を借りるのは……」
「困った時はお互い様さ」
二人は肩を並べて、積まれた山菜を仕分けしていく。薬草を求め、黙々と葉を調べていく。
「ありました!」
「こっちも見つけたよ」
ジンの勘は当たっていた。ゴブリンが周辺の薬草を集めていたのだ。リーシャは嬉々として、薬草を回収する。彼女の口からは鼻歌が零れていた。
「これですべてですね」
リーシャは着ていた外套で薬草を包むと、両手でガッシリと抱きかかえた。
「ジン様、よければ私の家に来ませんか?」
「家に?」
「あなた様は恩人ですから。少し恥ずかしいですが、ご恩を返させていただきたいのです」
リーシャは白い頬を赤く紅潮させる。恥ずかしい恩返しとは何なのか。訊ねるまでもなく、彼女は言葉を続ける。
「ゴブリンの肉を使って、煮込み料理を作りましょう。私の拙い腕前で料理を振舞うのは少し恥ずかしいですが、精一杯頑張りますので、是非食べて帰ってください♪」
「お言葉に甘えるよ」
どちらにしろ、危険な山をリーシャ一人で帰らせるわけにはいかない。村まで護衛するつもりだったのだ。
「ではジン様、ゴブリンを運んでいただけますか?」
「ああ」
「では私が先導します。一緒にヒューリック村へ向かいましょう」
道中で回収したゴブリンを背負いながら、リーシャの背中を追いかける。逞しい女の子だと、口元から微笑が零れるのだった。
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