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トーマス編

2ー2 リアリスの真実

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 恥ずかしながら僕は遅い反抗期に陥っていた。
 いつもいつも『領地の為、領民の為、侯爵家の為』と呪いの様に縛り付けられて、僕はこのまま一生を終わるのかと思うと無性に虚しくて、また同時に叔母のコーネリア様のように身を犠牲にして領地を発展させる自信も無かった。
 煩く婚約者を勧めてくるのもイラ立った。自由奔放な母を見て育った僕は女性への関心も薄かったんだ。

『はぁ~・・・育て方を間違えたのかしら』
 祖母にそう言われて不貞腐れていた時に叔母が他国への留学を勧めてくれた。

『私もトーマスの後見人になる前に1年間旅行をしたの、それでいろいろ吹っ切れたわ。貴方も外の世界に触れてきなさい』

 僕は他国交流という名目で国から許可を得てフランシュ国に留学した。

 フランシュ国では以前から交流のあったボーゲン侯爵家が僕の滞在を快く受け入れてくれた。
 侯爵夫人は叔母が昔旅行をした時に友好があった方で、今は二児の母親だ。

 14歳の長男カシアンと長女のリアリスは僕と同じ年の美しいご令嬢。
 ───第二殿下の婚約者で僕のの人だ。

 夫人に似て癖のない黒髪と優し気な栗色の瞳が綺麗なリアリス。
 ファーレン殿下の婚約者に決定するまでリアリスと僕は手紙を交換する仲良しだった。

 そんな家族を溺愛していたボーゲン侯爵。



 リアリスの日記が見つかってボーゲン侯爵一家の処刑が決まった。

 日記にはファーレン殿下から愛されない悲しみと憎しみが書き綴られ、最後の日付には殿下から婚約の破棄を告げられて狂った様子が書かれていたそうだ。

 さらに詳しい内容など僕が知る由もなく、僕が信じたリアリスはいなかった。初恋の彼女に僕は幻想を抱いていたんだろうか。


                                     
 リアリスは学園ではいつも一人で過ごし、僕が話しかけても『ファーレン殿下に浮気を疑われると困るわ。話しかけないで!』と取り付く島もなかった。

 そしてこの言葉で僕は気安くリアリスには近づけなくなった。


 どうしてそこまでファーレン殿下を愛せるのか不思議だった。
 なぜなら常に殿下はリアリスを毛嫌いし貶める行為を行っていたのだから。

 ファーレン殿下には愛する令嬢、エヴリン様がいた。

 王太子妃ののエヴリン様はカストル公爵家の次女でファーレン殿下の幼馴染だ。
 殿下は人目も憚らず常にエヴリン様と共に過ごしていた。
 
 王子妃をカストル公爵家から二人も出す訳にはいかないという理由で貴族間のパワーバランスを考えた政略婚であり、リアリスは政治の犠牲となっていた。

 リアリスにはなんの罪もない。

 なのにあの二人ときたら愛し合う自分達の邪魔者だと辛く当たり、似たもの同士・・・性格が悪い殿下とエヴリンはリアリスを虐めて楽しんでいた。言葉の暴力は毎日行われ聞くに堪えなかった。

『消えてくれればいいのに、ねぇファーレンもそう思うよね?』
『ああ、目障りな女め、死ねば良い、私が愛するのはエヴリンだけだ』

『ファーレン殿下、何を言われても私は貴方を・・・』
『うるさい!』
 足蹴にされて倒れてもリアリスはまだ縋っていた。

『いやだ~みっともないですわ・・・』

 乱暴に扱われてリアリスの手足には多くの痣がついていた。
 婚約者のファーレン殿下がそんなだから勘違いした令息令嬢達もリアリスを軽く見て、陰湿にリアリスを貶めていた。

 見ていて耐えられない。
『君は侯爵令嬢だぞ?下位貴族にはもっと強気になればいいじゃないか』
『もうすぐ卒業だからそれまでの辛抱だわ。私に関わらないで』

 卒業すればリアリスはファーレン殿下と婚姻が待っている。

『こんな状況で本当に結婚するのか?』
『王命だもの殿下は私と結婚するしかないわ。そうすればきっと殿下は私を愛してくれるわ』

 リアリスの決意なのか、それとも全て諦めてしまったのか、その時は分からなかったがリアリスから鬼気としたものを感じた。

 ボーゲン侯爵もそんな娘を危惧し何度も婚約の解消を申し出ていたが両陛下は認めなかった。
 婚姻はリアリスが強く望んでおり、エヴリンとファーレン殿下の婚姻は陛下の望むものでは無いからだ。

『リアリスを大切にするようファーレンにはきつく注意しておく!』
 いつもそう返されるだけだった。この時にもっと陛下が真剣に取り合っていればファーレン殿下も毒の後遺症に苦しむことは無かっただろう。


 娘を想う父親をリアリスはなじった『余計なことはしないで!』と。

 意見するものは拒絶しファーレン殿下の婚約者という立場にのみ支えられ、リアリスはファーレン殿下を追い求めて最後は自害。

 愛と嫉妬に狂った未曽有の悪女リアリス。

 僕は何もできずフランシュ国から出されて失意のうちにコートバルの領地へと戻っていた。



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