6 / 11
トーマス編
2ー2 リアリスの真実
しおりを挟む恥ずかしながら僕は遅い反抗期に陥っていた。
いつもいつも『領地の為、領民の為、侯爵家の為』と呪いの様に縛り付けられて、僕はこのまま一生を終わるのかと思うと無性に虚しくて、また同時に叔母のコーネリア様のように身を犠牲にして領地を発展させる自信も無かった。
煩く婚約者を勧めてくるのもイラ立った。自由奔放な母を見て育った僕は女性への関心も薄かったんだ。
『はぁ~・・・育て方を間違えたのかしら』
祖母にそう言われて不貞腐れていた時に叔母が他国への留学を勧めてくれた。
『私もトーマスの後見人になる前に1年間旅行をしたの、それでいろいろ吹っ切れたわ。貴方も外の世界に触れてきなさい』
僕は他国交流という名目で国から許可を得てフランシュ国に留学した。
フランシュ国では以前から交流のあったボーゲン侯爵家が僕の滞在を快く受け入れてくれた。
侯爵夫人は叔母が昔旅行をした時に友好があった方で、今は二児の母親だ。
14歳の長男カシアンと長女のリアリスは僕と同じ年の美しいご令嬢。
───第二殿下の婚約者で僕の初恋の人だ。
夫人に似て癖のない黒髪と優し気な栗色の瞳が綺麗なリアリス。
ファーレン殿下の婚約者に決定するまでリアリスと僕は手紙を交換する仲良しだった。
そんな家族を溺愛していたボーゲン侯爵。
リアリスの日記が見つかってボーゲン侯爵一家の処刑が決まった。
日記にはファーレン殿下から愛されない悲しみと憎しみが書き綴られ、最後の日付には殿下から婚約の破棄を告げられて狂った様子が書かれていたそうだ。
さらに詳しい内容など僕が知る由もなく、僕が信じたリアリスはいなかった。初恋の彼女に僕は幻想を抱いていたんだろうか。
リアリスは学園ではいつも一人で過ごし、僕が話しかけても『ファーレン殿下に浮気を疑われると困るわ。話しかけないで!』と取り付く島もなかった。
そしてこの言葉で僕は気安くリアリスには近づけなくなった。
どうしてそこまでファーレン殿下を愛せるのか不思議だった。
なぜなら常に殿下はリアリスを毛嫌いし貶める行為を行っていたのだから。
ファーレン殿下には愛する令嬢、エヴリン様がいた。
王太子妃の妹のエヴリン様はカストル公爵家の次女でファーレン殿下の幼馴染だ。
殿下は人目も憚らず常にエヴリン様と共に過ごしていた。
王子妃をカストル公爵家から二人も出す訳にはいかないという理由で貴族間のパワーバランスを考えた政略婚であり、リアリスは政治の犠牲となっていた。
リアリスにはなんの罪もない。
なのにあの二人ときたら愛し合う自分達の邪魔者だと辛く当たり、似たもの同士・・・性格が悪い殿下とエヴリンはリアリスを虐めて楽しんでいた。言葉の暴力は毎日行われ聞くに堪えなかった。
『消えてくれればいいのに、ねぇファーレンもそう思うよね?』
『ああ、目障りな女め、死ねば良い、私が愛するのはエヴリンだけだ』
『ファーレン殿下、何を言われても私は貴方を・・・』
『うるさい!』
足蹴にされて倒れてもリアリスはまだ縋っていた。
『いやだ~みっともないですわ・・・』
乱暴に扱われてリアリスの手足には多くの痣がついていた。
婚約者のファーレン殿下がそんなだから勘違いした令息令嬢達もリアリスを軽く見て、陰湿にリアリスを貶めていた。
見ていて耐えられない。
『君は侯爵令嬢だぞ?下位貴族にはもっと強気になればいいじゃないか』
『もうすぐ卒業だからそれまでの辛抱だわ。私に関わらないで』
卒業すればリアリスはファーレン殿下と婚姻が待っている。
『こんな状況で本当に結婚するのか?』
『王命だもの殿下は私と結婚するしかないわ。そうすればきっと殿下は私を愛してくれるわ』
リアリスの決意なのか、それとも全て諦めてしまったのか、その時は分からなかったがリアリスから鬼気としたものを感じた。
ボーゲン侯爵もそんな娘を危惧し何度も婚約の解消を申し出ていたが両陛下は認めなかった。
婚姻はリアリスが強く望んでおり、エヴリンとファーレン殿下の婚姻は陛下の望むものでは無いからだ。
『リアリスを大切にするようファーレンにはきつく注意しておく!』
いつもそう返されるだけだった。この時にもっと陛下が真剣に取り合っていればファーレン殿下も毒の後遺症に苦しむことは無かっただろう。
娘を想う父親をリアリスは詰った『余計なことはしないで!』と。
意見するものは拒絶しファーレン殿下の婚約者という立場にのみ支えられ、リアリスはファーレン殿下を追い求めて最後は自害。
愛と嫉妬に狂った未曽有の悪女リアリス。
僕は何もできずフランシュ国から出されて失意のうちにコートバルの領地へと戻っていた。
6
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
愛と浮気と報復と
よーこ
恋愛
婚約中の幼馴染が浮気した。
絶対に許さない。酷い目に合わせてやる。
どんな理由があったとしても関係ない。
だって、わたしは傷ついたのだから。
※R15は必要ないだろうけど念のため。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる