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4 堕天使の羽ペン

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 再び私はあの夜会の日に戻ってきた。

 レイモンドと妹を断罪して、婚約を解消し二人に領地を任せた。

 またエイーダを探して侍女にした。ただし、男爵家のギャンブル狂の長男は放置だ、こちらが手を汚す必要は無いし、この先もきっとエイーダを苦しめるはずよ。

 タウンハウスに代理人が訪れて、私を殺した憎い辺境伯のルドルフと婚約した。

 ────ここまでは死亡エンドの前回と一緒だ。


 違っているのはルシアンと名乗る美貌の執事が傍にいた。誰も、母ですら洗脳されて彼を受け入れている。

「たいくつなの?」
「まぁ、残した仕事もございますので」

「前のダレンはどうしたのかしら?」

「そんなは存在しませんが」
 名を変え正体を隠し、今まで通りルシアンは執事の仕事にいそしんでいる。

 やがて私はルドルフの元に嫁いでいった。
 ────裏切りのエイーダを伴って。

 前回と同じく挙式が済むと初夜は無視してルドルフは砦に戻って行った。

「奥様これはあんまりです。酷すぎます」
「良いのよ多忙な方だから。私は仕事熱心な彼が好きなの」
「はぁ…そんなものですか?」

 エイーダとの会話は慎重に行った。今回もルドルフを誘惑してもらう。しかしエイーダと過ごす時間は穏やかで、私を殺したのと同一人物とは思えなくなっていた。


 1年後また流行り病が領地を襲った。私とエイーダは持参した薬ですぐに回復した。寝込んだルドルフをエイーダは甲斐甲斐しく看病し続け、やはり二人は恋仲となった。

「コーネリア、エイーダに俺の子ができたんだ」
「奥様お許し下さい!」

 計画通りだ、今回は冷静に上手くやってみせる。

「それなら私とは離縁しましょう。ルドルフ様と幸せになってねエイーダ、今まで仕えてくれて有難う。そうだわ、立て替えた借金はお祝いとして受け取ってくれるかしら」
「有難うございます、奥様」

 ルドルフの相貌に殺意は感じない。
 エイーダの借金はチャラにしたが、多額の慰謝料を貰って私は実家に生還した。


「お帰りなさいませ。ご無事で何よりです」
「ただいまルシアン、お母様を救ってくれて有難う」

 私が漆黒のペンで願ったのは<過去に戻って母の命を救う>こと。

 この後ナーディアは懐妊したがレイモンドとの夫婦仲は冷えていた。
「酷いのよレイ様ってば、お姉様と結婚しておけば良かったなんて言うの!もう私を愛してないのよ」

「あんな男、離縁すればいいのよ。お腹には後継者がいるんだから。領地は母が守ってくれるわ」
 ナーディアはただ無事に出産してくれればいいのだ。


 多くの貴族令息から求婚されたが結婚はもうこりごり。私は逃げるようにルシアンを連れて他国に旅に出た。

 ただし期間は1年だけと母と約束した。それと旅の同伴はルシアンの申し出だった。
「コーネリア様をお守り致します。貴方に何かあれば侯爵家の未来はうれいしかありません」

「もしも侯爵家が終わったらどうなるのかしら」
「私は退屈な自由を得るでしょう」
「じゃぁ、傍にいて私を守りなさい」

 美貌の従者ルシアンを連れて1年間自由を満喫した。
 皮肉にも人の心を持たないルシアンと二人で過ごした日々が生涯私の大切な宝となる。二度目の叶わない恋だった。


 旅から戻れば状況は大きく変化していた。
「あら、レイモンドは追い出されちゃったの?」

「そうだ、入り婿のくせに愛人を囲っていたんだぞ!」
 父が憎々しげに教えてくれた。今回のお相手は年上の未亡人。レイモンドの浮気相手は誰でも良かったみたい。

「お前はすぐに領地に行きなさい。十分息抜きをしただろう」
 旅から戻って直ぐにタウンハウスを追い出されてしまい、ルシアンと領地に向かうと母が待ち構えていた。

「ナーディアに領地は任せられないわ。コーネリア、貴方が守るのよ!」
 厳しい母も年には勝てず領地経営に疲れ、私に全て丸投げされた。

 妹は健康な男の子を出産しておりトーマスと名付けられていた。レイモンドによく似た金髪碧眼の甥はすぐに私に懐いた。

 トーマスが成人するまで私は後見人となって、ナーディアは息子のトーマスの事など忘れて王都の華やかな世界で恋人を求めている。

 レイモンドは実家から縁を切られ、未亡人の家に転がり込んで下人扱いされているそうだ。



「コーネリア様の願いは叶えられましたか?」

「満足よ。有難うルシアン、いつかこの子が困った時も宜しくね」
 トーマスを抱きしめて私は微笑んだ。

「畏まりました、私は契約者でございますから」


 ルドルフとエイーダにも跡継ぎが誕生して順風満帆だったが、愚かにもエイーダの兄に執務の一端を任せた為、兄による多額の横領、借金、詐欺など多数の犯罪容疑で摘発され、ノースラージ辺境伯は没落寸前だ。

 エイーダから手紙が届いたが読まずに破り捨てた。差し出す手など持ち合わせていない。

「あの女、消しますか?」

「また恐ろしいことを。放っておけば勝手に自滅するわ」
「なんともお優しいことで・・・」

「甥のトーマスを立派に育てるのが私の使命よ」

僭越せんえつながら、私もお手伝いさせて頂きます」
「頼りにしているわ。ルシアン」

 コートバル侯爵家は安泰だ。堕天使の祝福を受けてこれからもずっと繁栄するに違いない。長い歴史に埋もれて、ちっぽけな私の軌跡など消えてしまえばいい。

「でもルシアンだけは私を覚えておいて欲しい、忘れないでね」
「承知致しました」

 ルシアンとトーマスがいる。───今の私は幸せだ。

 漆黒の堕天使の羽ペンは美貌の執事によって今も大切に保管されている。






───終わり。
最後まで読んで頂いて有難うございました。

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