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しおりを挟む私は父が嫌いだった。母を蔑ろにし、仕事もせずに愛人達と好き勝手していた父を憎んでさえいた。
今日はそのウェルデス侯爵の告別式。悲しんでいるのは祖父母ぐらいだ、出来の悪い子ほど可愛いと言うもの。
愛人と共に旅行を楽しんでいた父は馬車の事故で亡くなった。誰もが罰が当たったと思っているだろう。
粛々と式は進み、最後のお別れに私は白百合の花を手に父の顔を見た。黒い髪に、閉じられた目は美しい紫、整った顔は多くの女性を虜にしてきた。
「嫌になるほどそっくりね。私はどうしてお母様に似なかったのかしら」
「セアラの性格は夫人にそっくりだからいいじゃないか」
「アヴェル・・・それって褒めてないわよね」
アヴェル(18歳)は私の従兄、幼馴染の彼とは気安い親友のような関係でもある。隣国のジョシュア伯父様の養子で、私の母と同じハニーブロンドに翠の瞳、悔しいことに彼の方が母と親子に見える。
そして──
「夫人は立派な方だ、セアラは褒められているんだよ」
私の隣に立つエリアス様(21歳)は私の最愛の婚約者。
「でもアヴェルの言い方が憎らしいわ・・・」
「彼は素直じゃないからね」
父に一つだけ感謝している。
(エリアス様と婚約させてくれて有難うございました)
白百合を手向けると最後の別れが終わり、父はお墓に埋葬された。
***
父が亡くなって、隠し子を名乗る者、赤子を連れた元愛人が押しかけてきてウェルデス侯爵家は後始末に追われた。
まぁ父はとっくに生殖能力は取り除かれていたので、全員逮捕されたのだけど。
私がウェルデス侯爵家の唯一無二の後継者!
将来はエリアス様が婿養子に来てくれて二人で侯爵家を守っていく予定。
父に代わってウェルデス侯爵家を守ってきたしっかり者の母だが、さすがに心労が重なり倒れてしまった。未熟な私では母には及ばず、助っ人に優秀なアヴェルが来てくれた。
おかげで母もゆっくり静養ができて、アヴェルは母の回復後も残ってガタガタしていたウェルデス侯爵家の立て直しを手伝ってくれた。
昔から母はアヴェルを信頼し、いずれは私の婿にと考えていたが、父が勝手にエリアス様との婚約を決めてしまったのだ。
*
私が9歳の時にドナリアド公爵家三男のエリアス様と婚約が結ばれた。
勝手な父に母は激怒したが、お相手が公爵家では断れず、それよりも銀糸の髪に青い瞳のエリアス様に、私は一目で恋をした。
月2回、親睦のお茶会にエリアス様はウェルデス侯爵家を訪れてくれた。
彼は無口な人で自分から話すことはなく、ただ浮かれたように私だけがお喋りをして、いつしかエリアス様は私に全く興味がない事に気が付いた。
いつもお茶を一杯飲んで帰ってしまう彼を引き止める方法はないだろうか、私に興味を持ってもらいたいと模索を始めた。
その結果、唯一エリアス様が反応したのが〈騎士〉についてだった。
エリアス様は王宮騎士を目指していたが、そもそも彼と婚約の話が出たのもウェルデス侯爵家お抱えの騎士団を率いて頂く為だったのだ。
『私も剣を習ってみたいと思います!』
『ご令嬢が?それは無理かと・・・』
『剣を扱えるようになれば、お相手をして頂けますか?』
『いいでしょう。侯爵がお許しになるとは思えませんが』
『絶対ですよ?約束ですよ、エリアス様!』
こんなに長く話したのは初めてで嬉しくて、エリアス様の為に特に興味もない〈剣〉を習うことにしたのだ。
母は最初に反対したが、一度訓練に参加してみて続くようなら良いと許可してくれた。
侯爵の父の許可?・・・家にほぼ居ない人なので関係なし。
エリアス様と仲良くなりたくて騎士団の訓練に参加を始めた。
走り込みとストレッチ、木刀の素振り、掌の皮が破れてメイドが悲鳴を上げた等・・・そんな私の訓練の様子をエリアス様は薄っすらと笑いながら聞いてくれた。
お茶のお代わりをして、少し長く相手をしてくれるようになったのだ。
領地経営と淑女の教育も兼ねていたので毎日ヘトヘトになっていた。反対していた母も『心身ともに強くなりなさい。好きな人と結ばれて幸せになりなさい』と今は応援してくれる。
11歳になると初めて〈剣〉を握らせて貰えて感動した。
『奥様には諦めさせるよう指示があったのですがね・・・』
騎士団長のウォルフ卿は苦笑いしながら熱心に指導してくれて、エリアス様との距離も少しづつ近づいていった。
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