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28 鏡が割れた 

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「バレンシア様、お兄様まで誘惑するのですか!」

「ルナシア様誤解です。私は誰も誘惑なんてしていません」」

「いいえ、殿下はいつもバレンシア様を目で追っているわ!幼いころよりずっとアーヴィを、私が一番愛しているのに、なんで貴方なの!」

 番だからって言ったら殺されそう。
「グレン様、階下に移動しませんか?ルナシア様の誤解を解いて、もう一度お話を」

「そうだな、彼女には鏡を譲る約束をしたんだよ、ここには案内しただけだ」

 ルナシアは私の後ろの姿見鏡に目をやると「譲る?・・なぜ?」とグレンに質問した。

「どうして譲る必要があるのですか?どうして譲らなければいけないのですか!」

 鏡とアーヴィング殿下を混同している。異常だ、ちょっと身の危険を感じる。

「バレンシア、先に降りてくれ。ルナ落ち着くんだ」

 言われるがままに部屋を出ようとしたが「待ちなさい!」とルナシアはグレンを風魔法で軽く吹き飛ばして、私の腕を爪を立てて握った。

「痛ッ!」

「どうして貴方なんかに殿下もお兄様も目をかけるのよ!地味な・・たかが魔法伯の娘を!」
「ルナシア様?・・・放してください!」私達は睨みあった。

 ルナシアの顔が醜くゆがんだ瞬間────「エアショット!」
 体が風圧で後方に吹き飛ばされ、ガシャーーーン!!! 私は姿見鏡に激突し、衝撃で立て掛けていた鏡は倒れて鏡の部分は粉々に砕けてしまった。

 嘘でしょう?ルナシアに魔法攻撃された⁈
「ああ・・鏡が・・・・・・クッ!ブス眼鏡も壊したわね!」

「な‥何よその顔・・その眼は何?・・・お前はなんなの?」
 眼鏡が壊れてルナシアに素顔を晒してしまった。私の顔を指差し、ルナシアは震えている。

 グレンはルナシアを羽交い絞めにし「シア!大丈夫か」と叫んだ。

「バレンシア・オーハン説明しなさいよ!」

「は?そっちの謝罪が先でしょう?私を攻撃した!そして鏡を割ってしまった!」

「バレンシアすまない、下に降りてくれ、ルナにはきっちり説明する!」

 腕や足が少し切れて出血していた。今は二人から離れた方が良いだろう。
 鏡が割れた!怒りで私自身爆発しそうだ。

 階段を下りていると、まだ兄妹の言い争う声が聞こえてくる。
 どうしよう、鏡は修復できるだろうか。

 階下では執事とメイドが数人オロオロと立っており、顔を腕で隠して階段を下りる。
「お怪我を…こちらで手当てします」

執事に促され、廊下を進むとドーーーーーンッ!と爆発音が聞こえて家が振動した。
「「キャァア!」」
メイド達は叫び執事が慌てて屋根裏部屋に上がっていく。

 癇癪を起したルナシアが魔力暴走を起こした。

 屋根裏部屋は嵐が去った後のような酷い有様だった。鏡の欠片も部屋中に散らばっている。
 ルナシアとグレンは母屋に運ばれて、私は一人離れ屋に残された。

「まさかルナシアが癇癪持ちだったなんて」
 まだ成長途中の魔術師は感情を上手くコントロールできないと稀に暴走する場合がある。
 直情型のヘレンのような人間にも起こる。

 あまりに危険だと魔術師協会の管理下に置かれる。ルナシアは魅了も持つから監視された方がいい!

 メイドに手当てされ、更に1時間ほど経つと執事が二人に命の危険は無いと知らせに来てホッとした。



 正午過ぎに待ち侘びたミリアンが離れ屋を訪れた。

「お兄様!」
「シア、怪我したのか?」
「鏡が割れて、眼鏡もフレームが壊れて──」事情を話して二人で屋根裏部屋に向かった。

「酷いな・・・これが魔法の鏡?」
 割れた鏡の破片に触れてミリアンは首を傾げた。

「この鏡が始まりなんです。確かに鏡の中のバレンシアを通り抜けて、私はここに放り出されたの」

「鏡の魔力では無くて、シアか、もしくはバレンシアの能力かも知れないね」

「そういえば昼間だった、私は昼は鏡に出入り出来ないのに鏡から出たんだわ」

「鏡の中のバレンシアを複製した?・・・本当に二人は存在していたのだろうか」

 どういう事なのか理解できない。
「それは・・・私は鏡に映る幻影って・・こと?」


「シアから妖精だと告白されて、僕と師匠はシアがバレンシア本人だと思いました。壊れた心の中で前世の記憶が蘇ったバレンシアは、カガミユナの記憶に縋ったのだと」

「バレンシアが見つからないのは、私がバレンシア本人だから?」

「それは調べないと分からない。シア、今日はもう帰ろう」

「ごめんなさい、もう一度だけここでバレンシアを探してみたいの」



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