13 / 42
13 寮に来た
しおりを挟む
塔に戻ると先生はお土産の串焼きをおつまみにお酒を嗜んで、ミリアンさんは私の分もコーヒーを入れてくれた。
「ミルクたっぷり入れたので苦くないですよ」
甘いミルクコーヒを飲んでいると「あの彼はどなたですか?」と尋ねてきた。
「以前、図書館で知り合った人です。悪い人ではありません」
「いきなり驚きました。でもよくシアさんだって分かりましたね、眼鏡を外していたのに」
「そうですね・・・不思議な人です」
ミリアンさんはそれ以上聞かなかった。嘘をついて御免なさい!
自室に戻って鏡に入ると猫のネーロがいた。
「ニャ~ン」
「急に現れてびっくりしたわ、今、人型になれる?」
ネーロは首を振った。
「外に出ると人型になれるのか。『あるじの魔法』って言ったよね」
ベッドに座ると膝の上に乗って来たので、机元に置いてある赤いリボンを付けてやった。
「ニャン」
「よく分かんないけど、また会いに来るよ」
***
魔法学校の寮に入る日がやって来た。ミリアンさんが大きな鞄を持って女子寮の門前まで運んでくれる。
「寂しくなります。なんだか娘を手放すような心境です」
「私もホームシックになりそうです」
「困ったら連絡するんですよ。無理はしないようにね」
「はい、1か月後には戻ります。送って下さって有難うございました」
規則で寮生活に慣れる為に1か月は塔に戻れない。
別れを惜しみつつミリアンさんを見送って私は寮に入った。
寮の管理人にカギを貰うと3階へ。どこも貴族も平民も関係なく同じタイプの部屋。
335号室は5畳程度の広さでベッドと机クローゼット、シャワートイレ付きで机上には制服や学用品と生活用品等が置いてあった。
盗難防止に他者の部屋には立ち入り禁止。────私だけのお城!
ヘレンは排除した。
彼女は4年間子どもを虐待した罪で4年間投獄の刑。
しかしそこは貴族に甘い法律の抜け穴がある。
罰金としてヘレンは全財産を支払って5年間の修道院送りとなった。
バレンシアに和解金としてお金をを支払うんじゃないの?と思ったが、お金の行方は国だ。
ヘレンはマーゴット子爵の後妻だった。夫の死後は前妻の息子が子爵家を継ぎ、立場の無いヘレンは公爵家を頼った。公爵家に嫁いだ姉を妬んでおり、バレンシアを虐待することで鬱憤を晴らしたらしい。
公爵家と婚家からは絶縁された。馬鹿な人に同情はしない。
「3年間この寮で暮らせるのね。ネーロはこっちに移動したかな?会えるかな」
「ニャン!」
「え、なんでいるの?」
「あるじが呼んだ」
褐色の少年に姿を変え、ネーロはベッドに腰かけた。金色の猫目の妖艶で中性的な少年だ。
「あるじって何なの?あなた何者なの?」
「僕はフールだった。女神の怒りを買って全てを失い裏の世界に封印された。あるじが新しい名前をくれたから少し力が戻った」
『ネーロ』と名付けたから私が主なのか。
「私が名前を呼んだら鏡から出てこれるのね?」
「太陽が空にある間だけ」
「夜は鏡から出てこれないの?」
「月の魔力が強すぎる」
「本当にバレンシアを知らない?私と同じ顔の子」
「知らない」
「じゃぁなんで最初に会った時、本邸に案内してくれたの?」
「離れ屋敷にいないなら、あっちかなと思った」
「ええ、そんな理由だったのか」
「なぜ、女神の怒りを買ったの?」
「・・・・・忘れた」
言いたくないみたい。ネーロを外の世界に出していいのだろうか。
「悪いことはしないよね?」
「あるじの命令なら、しない」
「命令です!」
ネーロは肩をすくめた。
「ここにいて良い?」
「猫に戻って良い子にして、誰にも見つからなければいいわ」
「わかった!」
窓ガラスを開けると猫に戻ってネーロは下に飛び降りた。
「3階よ!」
下を見るともう姿は消えていた。
夕食は1階の食堂だ。全てセルフサービスだが下位貴族の令嬢をメイド扱いする伯爵令嬢がいる。こういうのは関わらないのに限る。
私の制服リボンネクタイは水色、これは1年の特待生を示す。平民だと侮られる世界だから目立たないようにしなければ。
ネーロは夜には鏡の中に戻っていた。
「ニャァ~」
外の世界が楽しかったのか、私の膝の上でご機嫌だ。
「ずっといい子でいれば、毎朝お外に出してあげるね」
ネーロを撫でながら、初日から軽いホームシックになった。
先生達はどうしているだろうか。ミリアンさんの優しい料理が恋しい。
「ミルクたっぷり入れたので苦くないですよ」
甘いミルクコーヒを飲んでいると「あの彼はどなたですか?」と尋ねてきた。
「以前、図書館で知り合った人です。悪い人ではありません」
「いきなり驚きました。でもよくシアさんだって分かりましたね、眼鏡を外していたのに」
「そうですね・・・不思議な人です」
ミリアンさんはそれ以上聞かなかった。嘘をついて御免なさい!
自室に戻って鏡に入ると猫のネーロがいた。
「ニャ~ン」
「急に現れてびっくりしたわ、今、人型になれる?」
ネーロは首を振った。
「外に出ると人型になれるのか。『あるじの魔法』って言ったよね」
ベッドに座ると膝の上に乗って来たので、机元に置いてある赤いリボンを付けてやった。
「ニャン」
「よく分かんないけど、また会いに来るよ」
***
魔法学校の寮に入る日がやって来た。ミリアンさんが大きな鞄を持って女子寮の門前まで運んでくれる。
「寂しくなります。なんだか娘を手放すような心境です」
「私もホームシックになりそうです」
「困ったら連絡するんですよ。無理はしないようにね」
「はい、1か月後には戻ります。送って下さって有難うございました」
規則で寮生活に慣れる為に1か月は塔に戻れない。
別れを惜しみつつミリアンさんを見送って私は寮に入った。
寮の管理人にカギを貰うと3階へ。どこも貴族も平民も関係なく同じタイプの部屋。
335号室は5畳程度の広さでベッドと机クローゼット、シャワートイレ付きで机上には制服や学用品と生活用品等が置いてあった。
盗難防止に他者の部屋には立ち入り禁止。────私だけのお城!
ヘレンは排除した。
彼女は4年間子どもを虐待した罪で4年間投獄の刑。
しかしそこは貴族に甘い法律の抜け穴がある。
罰金としてヘレンは全財産を支払って5年間の修道院送りとなった。
バレンシアに和解金としてお金をを支払うんじゃないの?と思ったが、お金の行方は国だ。
ヘレンはマーゴット子爵の後妻だった。夫の死後は前妻の息子が子爵家を継ぎ、立場の無いヘレンは公爵家を頼った。公爵家に嫁いだ姉を妬んでおり、バレンシアを虐待することで鬱憤を晴らしたらしい。
公爵家と婚家からは絶縁された。馬鹿な人に同情はしない。
「3年間この寮で暮らせるのね。ネーロはこっちに移動したかな?会えるかな」
「ニャン!」
「え、なんでいるの?」
「あるじが呼んだ」
褐色の少年に姿を変え、ネーロはベッドに腰かけた。金色の猫目の妖艶で中性的な少年だ。
「あるじって何なの?あなた何者なの?」
「僕はフールだった。女神の怒りを買って全てを失い裏の世界に封印された。あるじが新しい名前をくれたから少し力が戻った」
『ネーロ』と名付けたから私が主なのか。
「私が名前を呼んだら鏡から出てこれるのね?」
「太陽が空にある間だけ」
「夜は鏡から出てこれないの?」
「月の魔力が強すぎる」
「本当にバレンシアを知らない?私と同じ顔の子」
「知らない」
「じゃぁなんで最初に会った時、本邸に案内してくれたの?」
「離れ屋敷にいないなら、あっちかなと思った」
「ええ、そんな理由だったのか」
「なぜ、女神の怒りを買ったの?」
「・・・・・忘れた」
言いたくないみたい。ネーロを外の世界に出していいのだろうか。
「悪いことはしないよね?」
「あるじの命令なら、しない」
「命令です!」
ネーロは肩をすくめた。
「ここにいて良い?」
「猫に戻って良い子にして、誰にも見つからなければいいわ」
「わかった!」
窓ガラスを開けると猫に戻ってネーロは下に飛び降りた。
「3階よ!」
下を見るともう姿は消えていた。
夕食は1階の食堂だ。全てセルフサービスだが下位貴族の令嬢をメイド扱いする伯爵令嬢がいる。こういうのは関わらないのに限る。
私の制服リボンネクタイは水色、これは1年の特待生を示す。平民だと侮られる世界だから目立たないようにしなければ。
ネーロは夜には鏡の中に戻っていた。
「ニャァ~」
外の世界が楽しかったのか、私の膝の上でご機嫌だ。
「ずっといい子でいれば、毎朝お外に出してあげるね」
ネーロを撫でながら、初日から軽いホームシックになった。
先生達はどうしているだろうか。ミリアンさんの優しい料理が恋しい。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
楽しくなった日常で〈私はのんびり出来たらそれでいい!〉
ミューシャル
ファンタジー
退屈な日常が一変、車に轢かれたと思ったらゲームの世界に。
生産や、料理、戦い、いろいろ楽しいことをのんびりしたい女の子の話。
………の予定。
見切り発車故にどこに向かっているのかよく分からなくなります。
気まぐれ更新。(忘れてる訳じゃないんです)
気が向いた時に書きます。
語彙不足です。
たまに訳わかんないこと言い出すかもです。
こんなんでも許せる人向けです。
R15は保険です。
語彙力崩壊中です
お手柔らかにお願いします。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
赤子に拾われた神の武器
ウサギ卿
ファンタジー
神が人々の救済の為に創られた武器、オリハルコン。
それは世界の危機、種族の危機の度に天より人々の元へと遣わされた。
神の武器は持つ者によりあらゆる武器へと姿を変えた。
持つ者は神の力の一端を貸し与えられた。
そして持つ者の不幸を視続けてきた。
ある夜、神の武器は地へと放たれる。
そして赤子に触れて形を成した。
武器ではなくヒトの姿に。
「・・・そうか、汝が・・・求めたのだな?・・・母を」
そうしてヒトとなった神の武器と赤子の旅が始まった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/25 サブタイトルを付けました。
10/16 最近これはダークファンタジーに分類されるような気がしています。
コミカル風な。
10/19 内容紹介を変更しました。
7/12 サブタイトルを外しました
長々と文章を綴るのは初めてで、読みにくい点多々あると思います。
長期連載漫画のように、初期の下手な絵から上手な絵になれたら嬉しいですね。
分類するのであれば多分ほのぼの、ではありますが、走っている子供がコケて膝小僧を擦りむいて指を差しながら「みて!コケた!痛い!血でた!ハハハ」みたいなほのぼのだと思います。
・・・違うかもしれません。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
恋した男が妻帯者だと知った途端、生理的にムリ!ってなったからもう恋なんてしない。なんて言えないわ絶対。
あとさん♪
恋愛
「待たせたね、メグ。俺、離婚しようと思うんだ」
今まで恋人だと思っていた彼は、まさかの妻帯者だった!
絶望するメグに追い打ちをかけるように彼の奥さまの使いの人間が現れた。
相手はお貴族さま。自分は平民。
もしかしてなにか刑罰を科されるのだろうか。泥棒猫とか罵られるのだろうか。
なにも知らなかったメグに、奥さまが言い渡した言葉は「とりあえず、我が家に滞在しなさい」
待っていたのは至れり尽くせりの生活。……どういうこと?
居た堪れないメグは働かせてくれと申し出る。
一方、メグを騙していた彼は「メグが誘拐された」と憲兵に訴えていた。
初めての恋は呆気なく散った。と、思ったら急に仕事が忙しくなるし、あいつはスト○カ○っぽいし、なんだかトラブル続き?!
メグに次の恋のお相手は来るのか?
※全48話。脱稿済。
※R15は保険。
※設定はゆるんゆるん。
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください。
※このお話は小説家になろうにも投稿しております。
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる