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13 寮に来た

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 塔に戻ると先生はお土産の串焼きをおつまみにお酒を嗜んで、ミリアンさんは私の分もコーヒーを入れてくれた。
「ミルクたっぷり入れたので苦くないですよ」

 甘いミルクコーヒを飲んでいると「あの彼はどなたですか?」と尋ねてきた。
「以前、図書館で知り合った人です。悪い人ではありません」

「いきなり驚きました。でもよくシアさんだって分かりましたね、眼鏡を外していたのに」
「そうですね・・・不思議な人です」
 ミリアンさんはそれ以上聞かなかった。嘘をついて御免なさい!


 自室に戻って鏡に入ると猫のネーロがいた。

「ニャ~ン」
「急に現れてびっくりしたわ、今、人型になれる?」
 ネーロは首を振った。
「外に出ると人型になれるのか。『あるじの魔法』って言ったよね」

 ベッドに座ると膝の上に乗って来たので、机元に置いてある赤いリボンを付けてやった。
「ニャン」
「よく分かんないけど、また会いに来るよ」

     ***


 魔法学校の寮に入る日がやって来た。ミリアンさんが大きな鞄を持って女子寮の門前まで運んでくれる。
「寂しくなります。なんだか娘を手放すような心境です」
「私もホームシックになりそうです」

「困ったら連絡するんですよ。無理はしないようにね」
「はい、1か月後には戻ります。送って下さって有難うございました」


 規則で寮生活に慣れる為に1か月は塔に戻れない。
 別れを惜しみつつミリアンさんを見送って私は寮に入った。

 寮の管理人にカギを貰うと3階へ。どこも貴族も平民も関係なく同じタイプの部屋。

 335号室は5畳程度の広さでベッドと机クローゼット、シャワートイレ付きで机上には制服や学用品と生活用品等が置いてあった。
 盗難防止に他者の部屋には立ち入り禁止。────私だけのお城!

 ヘレンは排除した。
 彼女は4年間子どもを虐待した罪で4年間投獄の刑。
 しかしそこは貴族に甘い法律の抜け穴がある。

 罰金としてヘレンは全財産を支払って5年間の修道院送りとなった。
 バレンシアに和解金としてお金をを支払うんじゃないの?と思ったが、お金の行方は国だ。

 ヘレンはマーゴット子爵の後妻だった。夫の死後は前妻の息子が子爵家を継ぎ、立場の無いヘレンは公爵家を頼った。公爵家に嫁いだ姉を妬んでおり、バレンシアを虐待することで鬱憤を晴らしたらしい。
 公爵家と婚家からは絶縁された。馬鹿な人に同情はしない。


「3年間この寮で暮らせるのね。ネーロはこっちに移動したかな?会えるかな」

「ニャン!」

「え、なんでいるの?」

「あるじが呼んだ」

 褐色の少年に姿を変え、ネーロはベッドに腰かけた。金色の猫目の妖艶で中性的な少年だ。

「あるじって何なの?あなた何者なの?」

「僕はフール愚か者だった。女神の怒りを買って全てを失い裏の世界に封印された。あるじが新しい名前をくれたから少し力が戻った」

『ネーロ』と名付けたから私が主なのか。

「私が名前を呼んだら鏡から出てこれるのね?」
「太陽が空にある間だけ」

「夜は鏡から出てこれないの?」
「月の魔力が強すぎる」

「本当にバレンシアを知らない?私と同じ顔の子」
「知らない」

「じゃぁなんで最初に会った時、本邸に案内してくれたの?」
「離れ屋敷にいないなら、あっちかなと思った」
「ええ、そんな理由だったのか」

「なぜ、女神の怒りを買ったの?」
「・・・・・忘れた」
 言いたくないみたい。ネーロを外の世界に出していいのだろうか。

「悪いことはしないよね?」
「あるじの命令なら、しない」
「命令です!」

 ネーロは肩をすくめた。

「ここにいて良い?」
「猫に戻って良い子にして、誰にも見つからなければいいわ」
「わかった!」
 窓ガラスを開けると猫に戻ってネーロは下に飛び降りた。

「3階よ!」
 下を見るともう姿は消えていた。



 夕食は1階の食堂だ。全てセルフサービスだが下位貴族の令嬢をメイド扱いする伯爵令嬢がいる。こういうのは関わらないのに限る。

 私の制服リボンネクタイは水色、これは1年の特待生を示す。平民だと侮られる世界だから目立たないようにしなければ。

 ネーロは夜には鏡の中に戻っていた。
「ニャァ~」
 外の世界が楽しかったのか、私の膝の上でご機嫌だ。

「ずっといい子でいれば、毎朝お外に出してあげるね」

 ネーロを撫でながら、初日から軽いホームシックになった。
 先生達はどうしているだろうか。ミリアンさんの優しい料理が恋しい。


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