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10 自由になりたい

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「私は4年以上バレンシアを育ててきたから言うのです。この子は外に出すべきではありません!」

「私はずっと叔母の鞭と言葉の暴力に耐えてきました。まともな教育も受けさせてもらえず、このままだと人生を棒に振ると思いオーハン先生を頼ったのです」

「ふん!男と暮らしているくせに。なんてふしだらな」

「ミリアンさんですか?あの方はオーハン先生の弟子です。叔母様とピアノ教師のような関係ではありません。ふしだらな貴方に育てて貰った事を私は恥だと思っています」

「お兄様、やはりバレンシアは忌み子ですわ。嘘ばかり・・・本当に恐ろしい子」

 ヘレンは公爵に寄り添ってワナワナと震えている。こんな女に騙されて公爵も目が節穴だ。
 忌み子なんて因習を信じて、この親父は性格も頭も悪そう。
 可哀そうなバレンシア。貴方がここにいなくて良かった。


 アーヴィング第二王子殿下がチャンスを与えてくれたけど、話し合いは平行線。
 まだ長引くかなと思ったが決着がついた。
 アーヴィング殿下が目配せすると3人の教師の1人が手を挙げた。

「貴方のメイドから話を聞きました、ヘレン・マーゴット夫人。長期にわたる虐待と、ピアノ教師との関係、バレンシア嬢の養育費の着服を証言しています」

「え?まさか・・・」

「二名とも揃って証言しています。嘘つきは貴方ではないですか?」
「そんな事実はありませんわ!」

 ロボットと化していたメイドが証言してくれたなんて嘘みたい。

「シアさん貴方とメイドの関係はどうでしたか?」
「メイド達は叔母が来てからは私の世話は放棄しました。叔母のメイドになったからです。いつも私に対して無関心でした」
「嘘よ、違います!」

「離れの私の部屋は叔母に占領されて、私は使用人部屋に入れられ、食事も何もかも満足に与えられませんでした。嘘だと思われるなら私の部屋を調べて下さい。何もありませんよ?」

「バレンシア、お前は恩を仇で返すのね!」
「恩? 恩って虐待の事ですか?嘘を重ねるのはもう止めて下さい」
「っ!この・・・」

 ヘレンと言い争うのはもう無駄な時間だ。私は公爵に矛先を向けた。

「お父様、勝手に印を押したのはお詫びします。許して下さい。私はもう離れでの生活は限界だったのです。同じ双子のルナシアが魔法学校に入ると知って、私も入りたかったのです。今後決してご迷惑はお掛けしません」

「むっ・・・」

「公爵、ルナシア嬢が知ったら何と言うだろうな」
「殿下、脅しですか。あの子は関係ない」

「魔法学校ではハサウェイ公爵家とは無関係でいいです。ルナシア様にも近づきません。だから認めて下さい、この通りです」
 はらわたは煮えくり返っていたが、私は公爵に頭を下げた。

「公爵、バレンシア嬢は私が引き取りましょう。魔法学校で腕を磨けばバレンシア嬢も強くなって己で己を守れるでしょう」

「オーハン殿、シアは私が引き取る。そのために今日は再審査を行ったんだ」
「いいえ、王家を巻き込むのは宜しくありません」

 殿下がなぜ私を引き取りたいのだろう。尋ねてみたかったが公爵が声を荒げた。

「バレンシアは元より公爵家には存在しない!好きにして下さって結構だ。殿下、その忌み子には関わらないようご忠告を申し上げます。後悔しますぞ」

 存在しない?・・・このおっさんは何を言ってるんだ。
 我が子が虐待されてきたのに何も感じないのか。性格が異常すぎないか。

「生まれた子を届けないのは貴族の義務違反だぞ、公爵?」
「罰金を払えば良いのでしょう!やはり忌み子は疫病神だ」

「なんでも忌み子のせいにしないで!罰金は自分が出生届を出さなかったからでしょう?悪いことが起これば忌み子のせいにして自分の罪から逃げているんだわ。バレンシアは何も悪くないわ!」

「黙れ!お前など生まれてこなければ良かったんだ!」
「自分が蒔いた種でしょう!やる事やっといて、最低ね!」

 校長室は瞬時にシーーーーンとなった。

「バレンシア・・・・」
「すみません先生、今のは失言でした」

「シアさん自身に問題が無ければ特待生と認めましょう。オーハン卿が保護者となるなら結構です」
 校長先生がそう告げると私は特待生となり寮にも入居可能になったのだった。


 我ながら頑張ったと思うよ?

 これでバレンシアを受け入れる土台が出来上がった。これで彼女を見つければ、私は私自身に戻れる。

 正直、他人の為に苦労する義理は無い、同情してバレンシアを助けてあげたかったんだ。

 もう彼女を苦しめるモノは無い。私は自由になりたい!



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