上 下
8 / 9

8 終わった

しおりを挟む
                         
 選定会場を出ると廊下に父の姿を見つけた。
「お父様~ 来てくださったのね」

「ああアヴィが心配で、それとこちらの方がを取りに来られたんだ」

 お父様の後ろには高貴な美丈夫が立っておられた。
 鉄色の髪に水色の瞳「無精ひげの・・・まぁバルトさんも」

「俺はハーレン国の第四王子ビクトールだ。あの時は救ってくれて有難う」

「ハーレン国の王子様でしたか。石を受け取りに来て下さったのですね」

「ああ、確かに受け取ったよ。あの後直ぐに帰国して陛下に報告したんだ。それから公爵の手紙も届いて、陛下は国宝を返してくれるなら2年間の事は不問にすると仰ってくれた」

「有難うございます」


 ビクトール殿下は陛下の命令で国宝の【聖石】を探し求めて旅をしていたところ我が国の震災に出くわした。あの日私が突然【聖石】の存在を叫んだのは心底驚いたと言って笑った。

「今日は興味深い催しを見れた。一度国に戻ってまた会いに来るよ、アヴィオール聖女」
 殿下は私の髪を掬ってキスを落とし───私の心臓は跳ねた。


 殿下とお別れをしていると「アヴィオール!」とユーミナが血相を変えて近づいて来る。

 本来ビクトール殿下を救ったのはユーミナだったのだ。何か嫌な予感がして私もユーミナに向かって歩いて行った。

「何かしら?選定会の結果は私のせいじゃないわ。クレームなら神殿にどうぞ」

「うるさい!お前のせいだ!お前がぁああ!」

 ユーミナはナイフを振り上げて───死ぬのは私?

 だが彼女は私を庇ったビクトール様に腕を掴まれてナイフを取り上げられた。

「離せ!悪役は消してリセットするんだから!」

「バルト!この女を押さえろ・・・くっ!暴れるな・・!!アヴィオール!危ない!」

 ビクトール様はユーミナを突き放し、次に私を突き飛ばした。


 倒れざまに司祭が長剣でビクトール様の心臓を貫くのが見えた・・・・バルトさんが司祭を羽交い絞めにして、父がビクトール様に駆け寄って・・・司祭は私に向かって叫んでいた・・・

「お前のせいで私は神殿を追放された!殺してやる!」

「あはははイベントが起きてるわ!私が救ってあげる大聖女は私なんだから!」

 二人は狂ってる・・・狂ってるわ!!!


 私のせいでビクトール様が?

「そんな・・・違う、こんなのは間違ってる」

 ビクトール様の手を取っても彼は微動だにしなかった。

「神様、≪声≫は?私に≪懺悔≫させてよ!」

「ああ・・即死だったようだ・・・」
 父が横に首を振る、ビクトール様が死んだ?

「殿下!」
 父を押しのけてベルトさんがビクトール殿下の体を揺さぶるも殿下は動かなかった。


「神様!懺悔します。私は転生者で、全て知っていました。それなのにビクトール様の死を防げなかった。私がストーリーを変えてしまったからです!どうか私の命で償わせて下さい!お願いします!」

 懺悔したよ?神様はなんで答えてくれないの?

「死なせないで!いやよ!ぁあ・・あああ・・・」


 ≪汝の願い聞き届けた≫

「ふぇ?」


 彼の体が淡い光で包まれて───握っていたビクトール様の手がかすかに動いた・・・
 薄く目を開いて・・・「ほぉ」と息を吐いた。

「ビクトール様?・・・生きて・・・ますか?」

「走馬灯を・・・見る間も無かった。死とは だな・・・」

「ビクトールさま・・」
 何も言えなくて泣き続ける私をビクトール様は抱き締めた。


 大勢の足音が聞こえてくる。

「ハーレン国第四王子ビクトール殿、私はこの国の王太子エドワーズと申します」

 殿下と彼の後ろには護衛に縛られた司祭とユーミナがいた。


「始めましてですね、エドワーズ王太子殿下」

「この度は申し訳ない。どうお詫びすれば良いのか」

「いえ、命と引き換えにもっと大事なモノを手に入れました」

「そうですか・・・」
 エドワーズ殿下は眉を寄せて私に顔を向けた。

「大司祭殿と話していたんだ。君が大聖女に選ばれるべきではないかと。だが『私に神の声は聞こえなかった。アヴィオール様には聞こえたようです。そんな私に選定などおこがましい』と仰った。君には聞こえていたのか?」

「私は≪懺悔せよ≫と言われただけです。悪い事ばかりしてきましたから」
「そうか、私は・・・最後まで君を信じられなかった。すまなかった」

「私は修道院行きで許して頂けます?」

「なんの事かな?」

「殿下・・・」

 終わった。私は処刑を回避して失われる命と家族を守った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします

tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。 だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。 「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」 悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

悪役令嬢に転生して主人公のメイン攻略キャラである王太子殿下に婚約破棄されましたので、張り切って推しキャラ攻略いたしますわ

奏音 美都
恋愛
私、アンソワーヌは婚約者であったドリュー子爵の爵士であるフィオナンテ様がソフィア嬢に心奪われて婚約破棄され、傷心…… いいえ、これでようやく推しキャラのアルモンド様を攻略することができますわ!

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。 助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。 バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。 もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...