上 下
5 / 9

5 ユーミナ

しおりを挟む
                               
 地震災害から三日経っていた。

 ストーリー通りシリウス様が私の指導をしてくれている。 
                             
「あのシリウス様・・・アヴィオール様はいずこに?」

「なぜか聖力を失って神殿を去って行かれたんだよ。早く戻って欲しいものだ」

 どういう事?悪役がいないと困るんだけど。
 私を虐げてくれないとシリウス様との仲も全然進展しない。

 しかもシリウス様は私よりアヴィオールの復帰を気にしている。

 シリウス様がアヴィオールに刺されないとユーミナは大聖女に覚醒できないのにな。まぁ覚醒してもシリウス様を生き返らせることは出来ない。彼は気の毒な役割よね。

 早く大聖女になって王太子殿下に溺愛されたいのに、どういう事?

 毎日お祈りと奉仕と炊き出しで寝る時間も無いじゃない、こんなの疲れるわ。これなら小説通りに街で活躍してから後でゆっくり神殿に来れば良かった。

 アヴィオールの奴、神殿の救援活動が忙しいから逃げたのね。とんだ貧乏くじ引いちゃったわ。



 あの地震の夜、私は前世の記憶が蘇った。そして───

 私がスマホで読んでいた小説『平民聖女だけど偽聖女には負けないわ!』のヒロインのユーミナに転生しているのに気が付いた。

 あの日私はバス停で列に並んでバスを待っていた。そこに車が突っ込んできたんだっけ。幸運にも地味な高校生から大聖女に転生を果たした。

 大聖女になってあの麗しのエドワーズ様に溺愛される幸運なユーミナ。

(まずはアヴィオールに虐待されなければ!)そう思って走って神殿に向かったんだった。
 
 あの時はエドワーズ殿下で頭がいっぱいになっていたんだもの。


     *


 地震から1週間経った。アヴィオールが偽聖女だったと世間では噂になっている。それで王太子の婚約者候補からも外されたそうだ。ちょっとストーリーから逸れてるわ。

 アヴィオールはもう断罪されるってこと?早すぎない?・・・シリウス様は生きてるし。



「シリウス様、アヴィオール様って【聖石】を使った偽聖女なんですよね」

「そんな噂があるが、彼女は毎日傷ついた人々を治癒していた。その姿はまさしく聖女だったよ。力を失って尚、人々の傷を治癒したかった、だから【聖石】を利用したのだと私は思ってる」

 いやいやいや違いますから!あの女は王太子妃を狙って悪事を働いていたんです。

「それにアヴィオール様は≪懺悔≫して街中で奇跡を起こしたそうだ、やはり聖女様なんだよ」


「街中で奇跡ですか?それって・・・」

 なぜか悪事が美談にもなっている。それは私がすっ飛ばした街中の救済をアヴィオールがやったからだ。
 その奇跡は私のイベントだったはずだ・・・あの女ちゃっかり盗んだのね!

 どうせ奇跡は【聖石】で起こしたに違いないわ。卑怯な女。


「どうしてアヴィオール様は戻って来られないんだろうか・・・奇跡を起こしたのに」

「ですよねー早く戻って欲しいですよねー」

 あんもう!シリウス様はアヴィオールに傾倒してるじゃないの!こんなのバグってるわ。

 エドワーズ殿下が18歳になる前に<大聖女の選定会>が始まって婚約者候補の一人になれる。大聖女にならないと平民の私が王太子妃に選ばれるのは不可能だわ。

 偽聖女アヴィオールってば早く帰ってきなさいよ!貴方が私の幸運の鍵なんだから。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします

tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。 だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。 「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」 悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

王子は公爵令嬢を溺愛中

saku
恋愛
小さい頃レイラは怪我をしてしまい、前世を思い出した。 それは、前世の頃に読んでいた小説の記憶だった。物語の中のレイラは、婚約者である王子から嫌われており、婚約を破棄されてしまう……はずだった!! あれ? 記憶とは全然違って、何故か王子から溺愛されてません? 私……王子に嫌われるんじゃないんですか!? 小説家になろう様でも公開しています。

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

処理中です...