上 下
29 / 34

29 ナタリーとクロード

しおりを挟む
+++他者視点(ナタリー)

クレアが公爵令嬢なんて、どうしてこうなったのかしら。
クレアは店が命の、馬鹿な義妹達に振り回されていた惨めな子、私の引き立て役だったのに。

お茶会でもクレアの事を話題にすれば他の令嬢たちは面白がって楽しんでくれた。
そんなクレアとクロードを結び付ければミモザがどんなに悔しがるか、想像しただけで笑えたわ。

私はクロードが好きだった。
クレアに預けておけば、いつか返してもらえると思っていたわ。

女好きのヘンリーがセシリーと深い仲なのも知っていた。
クレアに興味があったのもね。
別に構わない、私が欲しかったのは伯爵夫人という地位だけよ。

なのにあの馬鹿たちは罪を犯し、私の計画は崩れたわ。
婚約は破棄になった。
私は関係なかったのに取り調べまで受けたのよ。

クレアもいつからか私の思い通りに動かなくなった。
私は店のお得意様で子爵令嬢。
クレアは私のいう事を聞いていれば良かったのよ。
なんで生意気になったのかしら平民だったくせに、公爵令嬢なんて認めないわ。

襲撃されて隠し部屋に隠れていただなんて嘘に決まってるわ。
傷物になったのを誤魔化しているのよ。
噂では義妹を虐めていた事になってるから復讐されたんだと言いふらしてやったわ。

侯爵夫人候補ですって?平民に戻ればいいのよ。

週末の今日はカフェにクロードを呼び出したの。
ヘンリーの事で相談したいって手紙を出せば、すぐに返事をくれて会えることになった。

遠目でも彼だとわかるわ。素敵だもの。会いたかったクロードが来てくれた。

クロードは優しい人だもの、きっと傷ついた私を慰めてくれるわ。

「ナタリー嬢、久しぶりだね」

「ええ、お会いできて嬉しいわ」

「今日はどうしたの?ヘンリーとは婚約破棄したんだよね」

「・・・ええ、あんな人だとは思わなかったわ。私ショックで」

「会ったばかりの頃は女好きだったけど悪いヤツじゃなかった。クレア嬢と会った時からヘンリーは俺を避けだしたんだ」

「ええ、セシリーのせいだと思うわ」

「ナタリー嬢は婚約者だったのに止められなかったのか? 彼の愚行を」

「そうね、私が悪かったわ。そのせいでクレアが傷物になってしまって」

クロードの目がスッと細められた。不機嫌にさせたわ、まずい。


「本当よ、クレアって嘘つきなのよ。侯爵家のアスラン様の事だって、自分は嫌われてるなんて嘘を言ったのよ」

「なんで彼女が嫌われるんだ。傷物なんてひどい言い草だな」

「え、あの、悪い噂で嫌われてるって」

「くだらない噂なんて君が訂正してあげればいいじゃないか。親友なんだろう?」

「もう会ってもくれないのよ。公爵家の養女になったからって傲慢だわ」

「君の婚約者に酷い目にあったんだ。家まで燃やされて、今の君には会いたく無いだろうね」

「クロード様、クレアなんかを庇うの?」

「俺の初恋の人だった。君から彼女が店を継ぐと聞いて、もしかしたら結婚できるかもしれない・・・と期待した自分が恥ずかしいよ。クレア嬢には幸せになって欲しい。もちろんナタリー嬢もね。二人で会うのはこれっきりにしよう。噂が立ったらお互い困るだろうから」

クロードは立ち上がりお茶も飲まずに外に出てしまった。
何か誤解させたかもしれないと慌てて私も外に出た。

通りのずっと先でクロードが女性と歩いているのが見えた。
その後ろ姿は黒髪の、どこかクレアに似た女性だった。



屋敷に戻ると怖い顔をした父が「お前は何をやってるんだ」と迫ってきた。

「何もしないわ。いきなり何よ」

「サウザー公爵家から抗議が来てるぞ。クレア様を傷物だと言ったそうだな」

「だってその通りでしょう! クレア様? 元平民に媚びてるの?」

パァ────ン と頬を打たれた。

「愚か者め、公爵家に睨まれるなんて、お前は当分修道院に隠れておれ」

「そんな、お母様助けて!」

「傷物だなんて同じ女性に何故そんな事いえるのよ。信じられないわ」

「だって、許せないわ・・・クレアばっかり幸せになって!」

「お友達の幸せを何故祝福できないの? ・・・情けないわ」

「公爵家のご令嬢と友達になれたのに馬鹿な娘だ。全く、なんと謝罪すればいいやら」と父は頭を抱えた。

女子学園は退学になった。クレアが婚姻を終えるまで修道院で謹慎。
『除籍されないだけマシだと思え』と父に言われた。

私はそんなに悪いことをしたの? ちょっと噂しただけじゃないの!

ああ、人生をやり直せるなら初めからやり直したい。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛する人と結婚して幸せになると思っていた

よしたけ たけこ
恋愛
ある日イヴはダニエルと婚約した。 イヴはダニエルをすきになり、ダニエルと結婚して幸せになれるものだと思っていた。 しかしある日、イヴは真実を知った。 *初めてかいた小説です。完全に自己満足で、自分好みの話をかいてみました。 *とりあえず主人公視点の物語を掲載します。11話で完結です。 *のちのち、別視点の物語が書ければ掲載しようかなと思っています。 ☆NEW☆ ダニエル視点の物語を11/6より掲載します。 それに伴い、タグ追加しています。 全15話です。 途中、第四話の冒頭に注意書きが入ります。お気を付けください。

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

あなたを忘れる魔法があれば

七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

私は貴方に堕ちている

夕香里
恋愛
婚約者が自分のことをどうでもいい存在だと思っている。と勘違いしたシャーロットと婚約者の前になると笑えない不器用なエドヴィンのすれ違いの話。 前編・中編・後編の計3話で終わります。 ※ふと思いついたまま書き起こしたものなので、設定・文の構成が甘いです。ご容赦ください。

旦那様、愛人を頂いてもいいですか?

ひろか
恋愛
婚約者となった男には愛人がいる。 わたしとの婚約後、男は愛人との関係を清算しだしたのだが……

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

処理中です...