1 / 34
1 クレアバーンズと死神
しおりを挟む
「あら、もうあの世からお迎えが来たのかしら?」
「ほぉ 私が見えるのですか? まだその時ではないのですが・・・」
真っ黒な正装に帽子。長い髪も真っ黒な男がベッドの脇にいた。
(死神に違いないわね)
わたしはクレア バーンズ62歳。今月になってベッドから起き上がれない状態になっていた。足元に佇む怪しい男は死神だろう。
「私が見えるという事は、あなたには何か心残りがおありのようだ」
「ええ、主人にはね私と結婚する前に想い合った女性がいたのよ。その方と結ばれていれば、もっと幸せな人生が送れたかも知れないと思うと申し訳なくて」
生まれつき体も弱く、この年まで生存できたのは偏に伴侶であるクロードのおかげだと感謝している。
「ふむ、それは貴方にとっても『別の人生』という選択があったかもしれないという事ですか?」
「そうねぇ、三姉妹の長女だった私の人生はバーンズ商会に捧げたようなものでした。子どもにも恵まれず、夫を馬車馬のように働かせて、老いた今は体が不自由になった私の世話をさせている。一体クロードの人生は何だったんでしょう」
「生まれ変わったら、今度は別の男と結ばれたいですか?」
「夫には別の方と結ばれて欲しいわね。明るくて健康で子どもをいっぱい産んで、老後は夫を労ってくれる女性と」
「あなた自身はどうなんです? 今後の参考のために聞かせて下さい」
「私は私を愛してくれる人なら誰でもいいわ」
「ご主人は愛してくれなかったのですか?」
「いつからか・・・夫婦では無くなっていたわね」
「それは妻としては淋しい思いをされましたね。ご主人は浮気されていたのですか?」
「どうかしら、私は病弱だったし浮気も致し方ないと思って諦めていた。」
「ふむ、少し予定より早いのですが貴方の魂を然るべき場所に送りましょう」
「天国だとありがたいわ。死神さん」
***
「・・・真面目だし見た目も悪くないのよ。騎士科にいるから体も頑丈そうで子爵家の三男よ。どう?」
「・・・・・・・・ナタリー?」
何故若いナタリーが目の前にいるんだろう? 彼女とは数年前から連絡は途切れていた。私の幼馴染・・・親友。
「ポケ~としてどうしたのクレア? 私の話を聞いてた?」
「・・・・・それってクロードの事よね?」
「知ってたの? クレア、クロード様はハリソン子爵家のご令息よ」
「夢を見てるのかしら? 私は天国に召される所だったの」
「はぁ~ 寝不足なの? この話は保留にしておくわね」
ナタリーは彼女の婚約者ヘンリーの友人だったクロードを紹介してくれた子爵令嬢。
クロードは王立学園に通っていて私との面識は無かった。
ここは王都聖女子学園の教室。
制服のリボンは水色で私は16歳の1年生って事ね。
これは・・・死神が見せてくれている夢かしら。
「クレア大丈夫?また調子が悪いの?」
「ううん、素敵な夢だわ。体も軽いし、別の選択を得られたと解釈していいのかしら」
ナタリーは怪訝な顔をしているけど私は最高の気分よ。
後悔した過去を夢の中でもいいから変えてみたい。
「さっきのクロード様の話なんだけど彼には恋人がいるはずよ。私は遠慮しておくわ」
「そんなのヘンリーから聞いてないわ。なんでクレアは知ってるのよ」
「愛し合っていても親の許しが得られないと有名な噂よ。だからって私のような男爵家の娘に婿入りなんて気の毒だわ」
受け入れたら最後、クロードには商人という過酷な生活が待っている。
寡黙で素直な彼を私の家族はタダ働きの従業員扱いだった。
粘って頑張ればクロードだって伯爵令嬢のミモザ様と結ばれるかもしれない。
「そんなの嘘よ。あり得ないわ。会ってみるだけでもどう?」
「有難いお話だけど、お断りしてもらえるかしら。ごめんなさい」
前回と同じくナタリーの紹介を一度はお断りした。でもナタリーは諦めてくれなかったのよね。またクロードに会うことになるからその時にハッキリとお断りしよう。
「ほぉ 私が見えるのですか? まだその時ではないのですが・・・」
真っ黒な正装に帽子。長い髪も真っ黒な男がベッドの脇にいた。
(死神に違いないわね)
わたしはクレア バーンズ62歳。今月になってベッドから起き上がれない状態になっていた。足元に佇む怪しい男は死神だろう。
「私が見えるという事は、あなたには何か心残りがおありのようだ」
「ええ、主人にはね私と結婚する前に想い合った女性がいたのよ。その方と結ばれていれば、もっと幸せな人生が送れたかも知れないと思うと申し訳なくて」
生まれつき体も弱く、この年まで生存できたのは偏に伴侶であるクロードのおかげだと感謝している。
「ふむ、それは貴方にとっても『別の人生』という選択があったかもしれないという事ですか?」
「そうねぇ、三姉妹の長女だった私の人生はバーンズ商会に捧げたようなものでした。子どもにも恵まれず、夫を馬車馬のように働かせて、老いた今は体が不自由になった私の世話をさせている。一体クロードの人生は何だったんでしょう」
「生まれ変わったら、今度は別の男と結ばれたいですか?」
「夫には別の方と結ばれて欲しいわね。明るくて健康で子どもをいっぱい産んで、老後は夫を労ってくれる女性と」
「あなた自身はどうなんです? 今後の参考のために聞かせて下さい」
「私は私を愛してくれる人なら誰でもいいわ」
「ご主人は愛してくれなかったのですか?」
「いつからか・・・夫婦では無くなっていたわね」
「それは妻としては淋しい思いをされましたね。ご主人は浮気されていたのですか?」
「どうかしら、私は病弱だったし浮気も致し方ないと思って諦めていた。」
「ふむ、少し予定より早いのですが貴方の魂を然るべき場所に送りましょう」
「天国だとありがたいわ。死神さん」
***
「・・・真面目だし見た目も悪くないのよ。騎士科にいるから体も頑丈そうで子爵家の三男よ。どう?」
「・・・・・・・・ナタリー?」
何故若いナタリーが目の前にいるんだろう? 彼女とは数年前から連絡は途切れていた。私の幼馴染・・・親友。
「ポケ~としてどうしたのクレア? 私の話を聞いてた?」
「・・・・・それってクロードの事よね?」
「知ってたの? クレア、クロード様はハリソン子爵家のご令息よ」
「夢を見てるのかしら? 私は天国に召される所だったの」
「はぁ~ 寝不足なの? この話は保留にしておくわね」
ナタリーは彼女の婚約者ヘンリーの友人だったクロードを紹介してくれた子爵令嬢。
クロードは王立学園に通っていて私との面識は無かった。
ここは王都聖女子学園の教室。
制服のリボンは水色で私は16歳の1年生って事ね。
これは・・・死神が見せてくれている夢かしら。
「クレア大丈夫?また調子が悪いの?」
「ううん、素敵な夢だわ。体も軽いし、別の選択を得られたと解釈していいのかしら」
ナタリーは怪訝な顔をしているけど私は最高の気分よ。
後悔した過去を夢の中でもいいから変えてみたい。
「さっきのクロード様の話なんだけど彼には恋人がいるはずよ。私は遠慮しておくわ」
「そんなのヘンリーから聞いてないわ。なんでクレアは知ってるのよ」
「愛し合っていても親の許しが得られないと有名な噂よ。だからって私のような男爵家の娘に婿入りなんて気の毒だわ」
受け入れたら最後、クロードには商人という過酷な生活が待っている。
寡黙で素直な彼を私の家族はタダ働きの従業員扱いだった。
粘って頑張ればクロードだって伯爵令嬢のミモザ様と結ばれるかもしれない。
「そんなの嘘よ。あり得ないわ。会ってみるだけでもどう?」
「有難いお話だけど、お断りしてもらえるかしら。ごめんなさい」
前回と同じくナタリーの紹介を一度はお断りした。でもナタリーは諦めてくれなかったのよね。またクロードに会うことになるからその時にハッキリとお断りしよう。
23
お気に入りに追加
1,030
あなたにおすすめの小説
愛する人と結婚して幸せになると思っていた
よしたけ たけこ
恋愛
ある日イヴはダニエルと婚約した。
イヴはダニエルをすきになり、ダニエルと結婚して幸せになれるものだと思っていた。
しかしある日、イヴは真実を知った。
*初めてかいた小説です。完全に自己満足で、自分好みの話をかいてみました。
*とりあえず主人公視点の物語を掲載します。11話で完結です。
*のちのち、別視点の物語が書ければ掲載しようかなと思っています。
☆NEW☆
ダニエル視点の物語を11/6より掲載します。
それに伴い、タグ追加しています。
全15話です。
途中、第四話の冒頭に注意書きが入ります。お気を付けください。
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
あなたを忘れる魔法があれば
七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
私は貴方に堕ちている
夕香里
恋愛
婚約者が自分のことをどうでもいい存在だと思っている。と勘違いしたシャーロットと婚約者の前になると笑えない不器用なエドヴィンのすれ違いの話。
前編・中編・後編の計3話で終わります。
※ふと思いついたまま書き起こしたものなので、設定・文の構成が甘いです。ご容赦ください。
逆行令嬢は何度でも繰り返す〜もう貴方との未来はいらない〜
みおな
恋愛
私は10歳から15歳までを繰り返している。
1度目は婚約者の想い人を虐めたと冤罪をかけられて首を刎ねられた。
2度目は、婚約者と仲良くなろうと従順にしていたら、堂々と浮気された挙句に国外追放され、野盗に殺された。
5度目を終えた時、私はもう婚約者を諦めることにした。
それなのに、どうして私に執着するの?どうせまた彼女を愛して私を死に追いやるくせに。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる