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さて、宣言通り妹がボラ部の部長になると案の定、煩わしい事を押しつけられ四苦八苦していた。
施設の慰問に子どもたちに渡す玩具やゲームなどを手作りするのだが、家に持ち帰り夜中も一人で作っていた。

見かねた母が文句を言いながら手伝ってやっていた。
要領が悪いから部員に上手く割り振りできず、間に合わないと持ち帰る。

「だって、一人でなんとか出来ると思ったから」
毎回そんな言い訳をしながら作業をしていた。
私の記憶にあるのはお手玉を30個、帰宅してから朝まで作っていた。


そんなある日妹が駅の階段から足を踏み外して捻挫して戻って来た。

「友達と話していたら急に体の力が抜けて足を捻った。金縛りにあったみたいで、暫く動けなかったわ」

聞けば授業中も異常に眠くなり注意した先生に向かって倒れ込み支えて貰ったこともあるそうだ。
テレビを見ていてもお笑い番組の途中でコテンと倒れる事も有り、揺り起こすと痙攣していた。

「どこか悪いんじゃないの? 病院いったら?」
さすがに無関心を決めていても病気だと少し心配になる。

「夜も眠れないしずっと悪夢を見てる。怖くて眠れないの。口の中にいっぱい虫が入って来て」
「うげ、気持ち悪いからやめてよ。なんか病気なんじゃないの?」

【手足の脱力 眠い 悪夢】でググると出てきたのがだった。

【ナルコレプシーの4大症状
睡眠発作、脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺があげられています。 睡眠発作はその名の通り突然の強烈な眠気で、ナルコレプシーの最も基本的な症状である】

「あんたナルコレプシーじゃん。早く治さないと。お母さん────」

母は急いで妹を市民病院に連れて行ったがナルコレプシーの専門医を紹介されてそちらで検査を受けた。

「ナルコ確定だって。検査が始まるとすぐにコテンって寝ちゃって、ダンディな院長先生が主治医でね」

なんだか得意げに話す妹に呆れながら聞いていたがどうやら直ぐ治る病気ではないみたいだ。

「車の免許も早く取っておいて良かったよ」
「あんた絶対一人で運転しないでよね。事故起こしたら大変だから」
父に知らせると車のキーを隠して絶対妹に車を触らせなかった。

命に関わりのある病気ではなかったが過眠症と脱力発作があっては外に出すのが心配だ。
月に1回通院してモデオダールとアナフラニールいう薬を服用しながら妹は大学に通い続けた。
帰りも部活で遅くなると眠ってしまい駅を乗り越して終着駅まで行ってタクシーで戻る時も度々あった。

過眠症なのに寝る前は睡眠薬を飲んでいる。
眠りが浅く、ずっと悪夢を見続けて眠れないからだ。

休みの日にリビングでウトウトしていても うなされていた。
背中を叩いて起こしてやると「虫が、虫が」と寝ぼけていた。
どうやら苦手な虫の夢が多いようだった。

高校生の頃は健康だった。大学1年生の時も普通に生活していたと思う。
こんな急にナルコレプシーなんて病気が発症するのか。
遺伝ではないようだ、私は発症していない。
母方も、父方の日向家もそんな病例は無いと言う。

「だからボラ部なんか止めなさいと言ったのに。あんたは本当に言う事を聞かないんだから!」
母は部活のストレスが原因だと思い込んでいる。


だが妹のストレスは他にもあった。

その日は母がキャッシュカードが見当たらないと朝から探していた。
「まさか・・・」
2階で寝ている妹を起こしてカードを知らないか聞きだしていた。

私は玄関わきに置いてあった妹のカバンの中から長サイフを出して開くと母のカードが見つかった。
「ユイの財布に入ってるよ~」
そう叫んで私は出勤した。バスの中でこの後の修羅場は容易に想像できた。


妹はネット詐欺にあっていた。
【宝くじに当選しました。200万円が貴方に届けられます】

YouTubeなんかでたまに見かけたヤツだ。
申し込んでもいないのに当選なんておかしいだろう。

200万受け取るのにwebマネーを支払って会話しないといけないのだ。
最初に2000円払って交渉したらしい。馬鹿である。

200万欲しさにずるずるとお金を搾り取られ、気が付けば100万つぎ込んでいた。

「あんた病気になって偏差値が下がったんか?」

私の辛辣な言葉にも────
「だって、だって200万貰って家族を喜ばせたかったんだもん」

100万使って200万貰う気だったのか?本物の馬鹿だと思った。
怒り狂った母は詐欺だから警察に行って来いと妹に命令した。

簡単にパスワードを知られた母も脇が甘い。

警察に届けて戻って来た妹は警察での様子を楽しそうに話していた。

「バレて気持ちが軽くなった。良かった~」

こういう所なんだよな!オマエは!

因みにその後警察から連絡は一切なしで放置され、妹の不注意だと思われただけだった。
お金は出世払いで返すと約束してこの件は片付いたが、妹は長らく母にはネチネチ嫌味を言われていた。

ナルコレプシーになってから教員を目指していたのも諦めてしまった。
病気のせいにしているが本音は体育が苦手だったからだ。
授業を受けたくなくて単位を取れずサッサと諦めた。

何のために大学行ったのかと母に文句を言われると教養をつける為だったと言い張っていた。
学費だって相当な金額かかったのに少しは反省する姿を見せればいいものを。

1・2年で必要な単位は取っていたので妹は大学3年になると近所のコンビニでバイトを始めた。
100万借金あるし反省して返す気になったのか、妹にしては感心だなと思っていた。

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