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後日談 シアン

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 宴会が終わるとセルリアンは王宮に用意されたアレンの部屋で向かい合っていた。窓からは月に照らされた紺色の海が見え、酔って火照った体に夜風が気持ち良い。

「ここから見える夕日は美しいぞ。毎日見てても飽きない」

「叔父上は卑怯だ。さっさと国を捨てて逃げ出した」
「逃げたんじゃない、追いかけたんだ愛する恋人を」

「ハッ!散々浮名を流しておきながら何を言ってるんだか。あの茶番はなんだったんだ、彼女生きてるじゃないか!」
「お前には分からんよ。俺達は王妃に命を狙われた者同士だった。俺は道化を演じ、アリシアは不幸を演じた」

「母上が命を狙った?」
 セルリアンは一気に酔いが冷めてアレンの顔を正視した。

「そうだ、アリシアがお前を救った事になってるが実際は彼女が狙われたんだ。お前の正妃にする為にな」
「嘘だ・・・」

「お前が知らないだけだ。王妃は裏で恐怖政治を取り仕切っていたんだ。横暴な王妃を俺達は排除してやった。お前は自分で宰相を排除するんだな」

「・・・グレイソン老侯爵に大国の姫を側妃にと助言されました」

「アドニスは皇帝と平民の子だ。だが皇帝はアドニスを溺愛している。彼女が望めば皇帝は側妃の申し入れでも受け入れるだろう。俺が出来るのはここまでだからな」

 王妃がアレンを恐れていた理由をセルリアンは今更理解し愕然とした。



 翌日、セルリアン夫妻はアレンの自宅に招待され、王宮を出て馬車に乗っていた。

 大きなホテルや別荘が立ち並び、ひときわ大きなホテルはヒューゼン公爵家が経営しているホテルだと教えられる。

「まだ建築中のホテルが数件。ヒューゼン公爵はこの国のホテル王だ。富裕層を狙った商売だがいずれは別島を開発して誰でも気軽に来れるリゾート地を作る予定なんだ」

 青い海やビーチでは水着を着用した人々が戯れているのが見えた。
 ヒューゼンのホテルにはプライベートビーチや1階には他国の土産品を多数販売、広大な庭にはプールもあるという。

 話題のホテルに到着するとアリシアの父エイデル氏が幼子を抱いて歓迎してくれた。

「殿下ご無沙汰しています」

「ああ、貴殿も変わりなくて嬉しいよ。その子は?」

「孫のシアンですよ。いや~孫は可愛いですな、子どもとは一味違います」

「パパ~」
 手を伸ばして幼子はアレンに抱っこされた。

(狸おやじめ、娘の葬式まであげて世間を欺いたな)
 アリシアが生きていて喜ぶべきだが、その反面腹立たしい。それが王妃のせいと知ってセルリアンの気持ちは複雑だ。

 昨夜は考える事が多すぎて殆ど眠れていない。

 他国で成功を収めている叔父夫婦とヒューゼン公爵家を目の当たりにし、セルリアンはたまらなく惨めな気持ちになって落ち着かず、ナターシャが食い入るようにシアンを見つめているのに気づくことは無かった。


 アリシアも現れて夫妻の居住部分だという最上階に案内され昼食をとり、ナターシャは2歳のシアンと午後は過ごしたいと言うのでホテルに残す事にした。

 次の予定はアドニス王女の別荘訪問だ。場所が近くなのでセルリアンはアレンと共にビスカーに乗った。


 ホテルのアリシアの部屋ではシアンを抱っこしたナターシャが絨毯に座ってシアンと積み木で遊んでいる。

「息子はパパにそっくりでしょう?残念ながら全く私に似ていないの」

「シアンは王位継承権を持っていますね。だってアレン様のお子様ですもの」

「・・・いいえ、アレンはもうこの国の人間ですわ。シアンは無関係です」

「私は・・・シアンを養子に迎えたいと思います」
「側妃はやはり受け入れられ無いのかしら」
「シアンを私達の養子に!アリシア様お願いします!」
 ナターシャはシアンを抱き締めて懇願した。

「断るわ。貴方達の為に愛するシアンを犠牲にするなんて真っ平よ。貴方って本当に我儘で自分の事ばかり。時期王妃なんでしょう?少しは国や民の事も考えなさい」

「考えたからシアンが欲しいとお願いしているの」
「いいえ、殿下の愛を独り占めしたいだけだわ」

「アリシア様はアレン様を独り占めしているじゃないですか!」
「王妃となればナターシャ様を側妃にしていたと思うわよ?だってセルリアン殿下は次期国王ですもの」

「ママ~」
 シアンがアリシアに手を伸ばしたがナターシャはシアンを抱き締めて離さない。

「今のままでは宰相に側妃を何人も押し付けられるわよ?お世継ぎは多いほどいいですからね」
「アドニス皇女を側妃に迎えろと仰るのね」

「そうよ、後ろ盾に大帝国の皇帝が付くの。宰相なんて目じゃなくてよ?王家の権威を取り戻す為に皇女を利用するの」

「それでも私は・・・リアンが他の女性を抱くのは耐えられない・・・シアンを養子に下さい!」
「やはり貴方は王妃には向かなかったわね。さぁシアンをこちらに」

「ぅぅ・・ママ・・」
 泣きだしたシアンをナターシャは項垂れてアリシアに返した。


 その夜、セルリアンは『用事が出来て戻れない、叔父上と一緒だ』と伝言を渡しナターシャの元には戻らなかった。側妃の話し合いが行われているのだとナターシャは理解し涙を堪えて一人ベッドで休んだ。

 翌日戻ったセルリアンは後日飛行船で大帝国に向かうとナターシャに告げ、ナターシャは一人で帰国することになった。

「国の為にアドニス皇女を側妃に迎えたい。だが私を信じて欲しい、愛するのはナターシャだけだから」
「そう・・・承知しました。リアンの決定に従います」
「すまない、ふがいない私を許してくれ」

 虚ろな様子のナターシャをセルリアンは強く抱きしめた。その後日セルリアンは大帝国へ、失意のナターシャは王国へと戻って行った。



 
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