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12 可哀そうな義兄
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お茶とお菓子が用意されて再びサロンに全員が集合した。
まず口火を切ったのは老侯爵だ。
「儂が来たのはカミールの王配の件についてだ。実は前々から陛下にカミールを説得するように頼まれていた」
「それは王命では無いのですか?」
カミールを婿にしたい父が不安そうに尋ねる。
「王命ではない、だが王家の頼みなら叶えるのが家臣だろう」
先代は鋭い目でカミールを睨むが彼は目を合わせない。
「お兄様はどうなのです? お受けするのですか?」
「私はずっとエマの傍にいると約束しただろう? 受けないよ」
「本当に?」
「エマったら、カミールには侯爵家を支えて貰わないと困るわ。私は領地の経営とかできないし」
「オリーヴ!お前なんかに領地を任せるものか、恥さらしの愚か者が!」
「ち、父上 血圧があがりますから・・・」
「だって私が第一後継者よ。今度はカミールと上手くやるわ」
「勝手な事を抜かすな。お前だけは認めないからな!」
なんだか険悪な雰囲気になってしまい、ルイーザが話の矛先を変えた。
「あ、そうだエリック、子供たちと庭に。エマも行きましょう」
「ボクお外に行きたいー」
お菓子を食べていた甥の二人も話が分からず飽きてきたようだ。
「叔父上、早くいこうよ~」
甥のトーマスとマシューがエリックの手を引っ張って外に出たのをエマは追いかけた。
「二人ともエリック様に懐いていますね。親子みたいです」
「可愛い甥子ですからね」
「叔父上はボクの剣の先生なんだー」
「そうなの、トーマスはもう剣を握ってるのね」
エリックは両肩に二人の甥を載せて庭園を歩いている。
「いい人でしょう?お爺様がエリックをエマにどうかって言ってるのだけど」
ルイーザがエマの耳元で囁いた。
エマとルイーズが話しているのをカミールは離れた場所で見ていると、オリーヴが近づいて悪い笑みを浮かべる。
「エリックを誘惑してあげましょうか? 取引しない?」
「何を言ってるんだ」
「ジョシュアも誘惑してあげたでしょう?お望み通りマリーナは救われた」
「誰もそんなの頼んでないだろう。自分が惚れただけじゃないか」
「誘惑してあげたら、侯爵の私を支えてよ。エマが欲しいのでしょう?」
「そんな取引はお断りだ。聞かなかったことにするよ」
「素直じゃないわね。いいの?エマを取られちゃうわよ」
「取られるくらいなら、攫う」
「あは!いつからそんな情熱的な男になったのよ、石像だった貴方がねぇ」
「これ以上可笑しなマネをして父上を困らせないようにな」
オリーヴを一瞥してカミールはその場を去っていった。
オリーヴは立場が悪くなっていくのを感じていた。先ほどサロンでカミールは王配を断りエマに告白した様なものだ。分かってないのは鈍いエマだけだろう。先代には嫌われているし、父はなんだか頼りない。
「やっぱりエマには辺境に行ってもらうのがいいわよね~」
その夜、ベッドの上でエマはエリックの事を思い返していた。
甥っ子たちを見る優しい目、姉達を気遣う様子に愛情を感じる。
義兄が気にしているのも知らずにエマはずっとエリックを目で追っていた。
些細な仕草も気になって見つめるのは失礼だと思っても、無意識に見てしまう。
祖父からはエリックを婚約者候補だと紹介されていない。
祖父は今回、カミールに王配の件を説得しに来たようだ。一族から王配を輩出するなど誉れなことだろう。
シンシアにも義兄を説得して欲しいと言われたのを思い出した。
陛下の願いだと言うのに、本当に義兄は王配の件を断れるのだろうか。
(みんな勝手な事ばかり言っている)
父はいつも義兄が頼りで面倒を押し付けて、オリーヴなどは義兄を裏切っておいて今更自分を支えろと言った。
エマ自身も婚約解消の件でカミールには甘えてばかりだった。
元々侯爵家を支えるために養子に来たのだけど、誰もが義兄に求めてばかりで可哀そうだ。
エマはガウンを羽織り廊下に出て、カミールの部屋に向かった。
扉の前でしばらく迷ったがそっとノックをした。
コンコンコン
ガチャっと扉が開いて顔を出したのは────オリーヴだった。
「エマ、どうしたの? カミールは疲れて寝ちゃったわよ~」
酒臭い、オリーヴはかなり酔っている。
「え? え? あ・・そうでしたか・・・」
オリーヴは薄い夜着を身に着けて昂揚した顔で「邪魔しないでね」と言って目の前でドアを閉じようとしたが、その隙間にエマは腕を差し込んだ。
「お兄様!エマです。お話を!」
「ちょっと、なによぉ~」
オリーヴは腕を押し返すが、エマは力を入れて無理に体を押し込んだ。
部屋の中はテーブルの上にワイン数本とグラスが置いてあり、ソファーで上半身が裸の義兄が眠り込んでいた。
エマは急いで義兄に駆け寄り声をかけた。
「お兄様!お兄様!起きて下さい!」
「起きないわよ。邪魔しないでって言ってるのに~」
オリーヴはワインをグラスに注いでいる。
エマは義兄を揺すって起こそうとするが全然動かない。
「何をしたの?」
「ちょっとね、カミールったらその気になってくれないんだもの」
「何てことを、ひどいわ!」
薬を盛ったに違いない。これはひどすぎる。
「誰か! 誰か来て!」
エマは廊下に出て大声で助けを求めた。
まず口火を切ったのは老侯爵だ。
「儂が来たのはカミールの王配の件についてだ。実は前々から陛下にカミールを説得するように頼まれていた」
「それは王命では無いのですか?」
カミールを婿にしたい父が不安そうに尋ねる。
「王命ではない、だが王家の頼みなら叶えるのが家臣だろう」
先代は鋭い目でカミールを睨むが彼は目を合わせない。
「お兄様はどうなのです? お受けするのですか?」
「私はずっとエマの傍にいると約束しただろう? 受けないよ」
「本当に?」
「エマったら、カミールには侯爵家を支えて貰わないと困るわ。私は領地の経営とかできないし」
「オリーヴ!お前なんかに領地を任せるものか、恥さらしの愚か者が!」
「ち、父上 血圧があがりますから・・・」
「だって私が第一後継者よ。今度はカミールと上手くやるわ」
「勝手な事を抜かすな。お前だけは認めないからな!」
なんだか険悪な雰囲気になってしまい、ルイーザが話の矛先を変えた。
「あ、そうだエリック、子供たちと庭に。エマも行きましょう」
「ボクお外に行きたいー」
お菓子を食べていた甥の二人も話が分からず飽きてきたようだ。
「叔父上、早くいこうよ~」
甥のトーマスとマシューがエリックの手を引っ張って外に出たのをエマは追いかけた。
「二人ともエリック様に懐いていますね。親子みたいです」
「可愛い甥子ですからね」
「叔父上はボクの剣の先生なんだー」
「そうなの、トーマスはもう剣を握ってるのね」
エリックは両肩に二人の甥を載せて庭園を歩いている。
「いい人でしょう?お爺様がエリックをエマにどうかって言ってるのだけど」
ルイーザがエマの耳元で囁いた。
エマとルイーズが話しているのをカミールは離れた場所で見ていると、オリーヴが近づいて悪い笑みを浮かべる。
「エリックを誘惑してあげましょうか? 取引しない?」
「何を言ってるんだ」
「ジョシュアも誘惑してあげたでしょう?お望み通りマリーナは救われた」
「誰もそんなの頼んでないだろう。自分が惚れただけじゃないか」
「誘惑してあげたら、侯爵の私を支えてよ。エマが欲しいのでしょう?」
「そんな取引はお断りだ。聞かなかったことにするよ」
「素直じゃないわね。いいの?エマを取られちゃうわよ」
「取られるくらいなら、攫う」
「あは!いつからそんな情熱的な男になったのよ、石像だった貴方がねぇ」
「これ以上可笑しなマネをして父上を困らせないようにな」
オリーヴを一瞥してカミールはその場を去っていった。
オリーヴは立場が悪くなっていくのを感じていた。先ほどサロンでカミールは王配を断りエマに告白した様なものだ。分かってないのは鈍いエマだけだろう。先代には嫌われているし、父はなんだか頼りない。
「やっぱりエマには辺境に行ってもらうのがいいわよね~」
その夜、ベッドの上でエマはエリックの事を思い返していた。
甥っ子たちを見る優しい目、姉達を気遣う様子に愛情を感じる。
義兄が気にしているのも知らずにエマはずっとエリックを目で追っていた。
些細な仕草も気になって見つめるのは失礼だと思っても、無意識に見てしまう。
祖父からはエリックを婚約者候補だと紹介されていない。
祖父は今回、カミールに王配の件を説得しに来たようだ。一族から王配を輩出するなど誉れなことだろう。
シンシアにも義兄を説得して欲しいと言われたのを思い出した。
陛下の願いだと言うのに、本当に義兄は王配の件を断れるのだろうか。
(みんな勝手な事ばかり言っている)
父はいつも義兄が頼りで面倒を押し付けて、オリーヴなどは義兄を裏切っておいて今更自分を支えろと言った。
エマ自身も婚約解消の件でカミールには甘えてばかりだった。
元々侯爵家を支えるために養子に来たのだけど、誰もが義兄に求めてばかりで可哀そうだ。
エマはガウンを羽織り廊下に出て、カミールの部屋に向かった。
扉の前でしばらく迷ったがそっとノックをした。
コンコンコン
ガチャっと扉が開いて顔を出したのは────オリーヴだった。
「エマ、どうしたの? カミールは疲れて寝ちゃったわよ~」
酒臭い、オリーヴはかなり酔っている。
「え? え? あ・・そうでしたか・・・」
オリーヴは薄い夜着を身に着けて昂揚した顔で「邪魔しないでね」と言って目の前でドアを閉じようとしたが、その隙間にエマは腕を差し込んだ。
「お兄様!エマです。お話を!」
「ちょっと、なによぉ~」
オリーヴは腕を押し返すが、エマは力を入れて無理に体を押し込んだ。
部屋の中はテーブルの上にワイン数本とグラスが置いてあり、ソファーで上半身が裸の義兄が眠り込んでいた。
エマは急いで義兄に駆け寄り声をかけた。
「お兄様!お兄様!起きて下さい!」
「起きないわよ。邪魔しないでって言ってるのに~」
オリーヴはワインをグラスに注いでいる。
エマは義兄を揺すって起こそうとするが全然動かない。
「何をしたの?」
「ちょっとね、カミールったらその気になってくれないんだもの」
「何てことを、ひどいわ!」
薬を盛ったに違いない。これはひどすぎる。
「誰か! 誰か来て!」
エマは廊下に出て大声で助けを求めた。
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