上 下
7 / 16

7 デビュタント

しおりを挟む
デビュタントの日がやって来た。
エマも気持ちが落ち着いて前向きになろうとしている。

この日は見違えるように美しく艶やかに、侍女たちによってエマは変身させられた。
「お嬢様はこんなにもお美しいのに、やっと私達の願いが叶いました」
侍女たちはエマの美しさを褒め称えた。
「綺麗にしてくれて、皆ありがとう」

ドレスアップしたエマに父も満更ではなさそう。
「エマ綺麗だ。流石私の娘だ」

「今までとギャップが凄いわね。誰もエマってわからないわよ」
「お姉様、今日はお兄様をお借りしますね」
「は?勝手にどーぞ」

「エマそろそろ行こうか」

「楽しんでおいで、あまりお喋りするんじゃないぞ」
「はいお父様、では行って参ります」

大好きな義兄がエスコートしてくれる。エマは差し出された手を取って王宮に向かった。



王宮の控室で待っていると緊張してエマは義兄の腕を強く握っていた。

「大丈夫だよ。落ち着いて」

義兄は姉と既にデビュタントを経験済みである。
任せておけば心配ない。

エマが表情をを和らげると義兄は愛おしそうにエマを見つめた。
「本当に綺麗だ、いつの間にか大人になっていたんだな」

「お兄様、照れるからやめて下さいな」
正装している義兄はいつにも増して素敵だ。
お爺様には義兄のような婚約者を決めて欲しいとエマは思う。


「フランセ侯爵家のエマ様ご挨拶させて頂きたく存じます。本日はデビューおめでとうございます」
気が付けば大勢の貴族に囲まれて挨拶を受けていた。

「有難うございます」
お礼を述べてエマはカミールの横でニコニコしていると、あとは義兄が上手く対応してくれる。

やがて名前を呼ばれて二人で眩しい大広間に出た。
震えながら壇上の両陛下にご挨拶に向かうと陛下からお祝いの言葉を頂いた。

「お祝いのお言葉、大変嬉しく存じます。これからも臣下として誠心誠意お仕えさせていただきます」
何度も練習したお礼の言葉を返すとエマのメインイベントが終わった。

「それでは御前を失礼致します」
落ち着いたカミールに促されてその場から離れ、エマはカミールと来て本当に良かったと安堵した。


エマたちのダンスが始まると大広間には白いドレスの花が咲き、初々しい光景が広がった。

足を踏まないか気にしてるとカミールが囁いた。

「ほら胸を張って、今日は世界中でエマが一番美しい」
 
「はい」
カミールのリードでエマは緊張が解けて体が軽くなりフワフワと舞っているとダンスは終わってしまった。

カミールは注目の的でダンスが1曲終わるとすぐに令嬢達に囲まれている。

エマの元にはサミュエル第一王子殿下が来てダンスを誘われた。
殿下は学園の1年先輩でもある。幼い頃は婚約者候補にもなって何度か遊んだこともあったが殿下は公爵令嬢と婚約した。

「踊って頂けますか?」
「は、はい、喜んで」

会場にざわめきが起こった。

「いつの間にこんなに綺麗になったのかな?」
「ふふふ、兄にも先ほど言われました」

「はは、カミール殿はエマ嬢を溺愛しているからな」
「末っ子ですから」
「そういう事にしておこう」

周囲に注目されながら殿下に優雅にリードされ、大広間の中心でダンスを披露できてエマは満足だった。

しかしダンスが終わり周りを見回すと、エマは見つけてしまった。

(ユーリ・・・・レイラ様と参加していたのね。気づかなかった)
二人は見つめ合って息の合ったダンスを披露していた。

大勢の男性からダンスを誘われたがエマは疲れたからと断ってユリウスから反対の方向に身を隠した。

「エマ、大丈夫か?」
義兄が追いかけてくれていた。

「うん、ちょっと驚いただけ。平気よ」
「帰るか?」
「ううん、お兄様ともう一度踊りたいわ」

義兄と踊っているとエマは子どもの頃カミールがダンスの練習相手をしてくれたのを思い出した。いつも優しかったカミール。オリーヴと結婚したら本当の兄となり、誰にも取られないと思っていた。

「ねぇ、お兄様はマリーナ様と婚約して王配になるの?」
「まさか、ただの噂だよ」
「良かった。王宮に行ってしまったらもう会えなくなると思ったわ」
「私はエマの傍にずっといるよ」
「本当に? 約束よ」

(私とずっと一緒にいてお兄様は幸せになれるだろうか)
この時初めてエマは義兄の幸せを考えた。

「私ね、お兄様も幸せになるようにお手伝いするわ」
「エマが幸せになるのが私の幸せだ」

「お爺様に次の婚約者を探してくれるようにお願いしたの。次は間違えないわ」

「・・・えっ!いつの間にそんな話を」

「私は幸せになるからお兄様も幸せになって欲しいわ」

笑顔で話すエマにカミールは複雑だ。

ボーエン伯爵家からエマを抱え出したあの日、怒りと共に仄暗い喜びも感じ、大切な宝物を手にした気がした。

「エマ、愛しているよ。二人で幸せになろう」

「ええ、絶対になりましょうね!」

エマに真意は伝わっていない。
まだまだ兄の領域からカミールは抜け出せない。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

婚約破棄されたと思ったら結婚を申し込まれました

恋愛
「リッカ・ウィンターベル!貴様との婚約を破棄する!」 「あ、はい」 リッカがあっさりと承諾すると、思っていた反応とは違ったので殿下は困惑した。 だが、さらに困惑する展開が待ち受けているのだった。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

処理中です...