Melty Lover

深月織

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Ⅰ. How came it to be so?

07. 彼女の不可知論

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「……はぁ、……ひゃああっ、」
 晶子が小さく上げる声に混じって、濡れた音が響く。
 バスルームは蒸気に満たされ、滲んだ汗が肌を滑った。
 楽しそうな吐息を漏らして、宇都木は彼女の声が甘く高まる部分に、舌を這わせる。自分でもどうなっているのかわからない場所を執拗に弄られ、晶子は震えながら彼の行いを止めようとした。
 何でこんなことになってるの、と自問しても答えは得られない。
「う、宇都木さ……、ん、も……やぁ」
「敦也。名前で呼ばないと、ずっとイジワルするよ?」
「っ、ふやぁっ!」
 ピンと指先で快楽の種をはじかれて、変な声を上げてしまう。
 ふっと開けた視界に、裸にされてのぼせた自分の姿とその足の間に割り込んだ宇都木の頭が見えて、再びぎゅっと目をつむった。
(どうしてお風呂の壁が鏡張りなのお……!)
 おかげで、迂闊に目を開けられない。背(そむ)けても、どこを見ても、自分たちの姿が鏡に映っているのだ。
 清潔感のある浴室にはジャグジーまでついていて、洗い場も十分な広さがある。何も考えなければ、はしゃいでもいいくらいの充実度。
 ――そう、ここがLOVEと名の付くホテルだと考えなければ――、どういう訳か、生まれたままの姿で男と二人で入浴していることを考えなければ――
 何で、こんなことになってるの……! 晶子は湯だった頭で、また繰り事を叫ぶ。

 少しだけ近くなった気がした、言い合いのあと。
 ちょっと珍しいカフェ風のラーメン屋さん、という宇都木の店選びに称賛を送って、ご機嫌に夕食を終えた晶子は、ちょっと休憩しようか、という宇都木の言葉に軽く頷いた。
 だってだ。だってなのだ。
 普通、食事のあとの休憩は何処かの喫茶店でお茶とか、コーヒーショップに入るというのがセオリーで、まさかホテルに入っていくとは思わないじゃないか。ブティックとかファッションとか雰囲気の良い言葉をつけても目的は変わらない。
 一見、お洒落な外観だったのが晶子の敗因だ。
 普通のホテルかと思い、中のラウンジかどこかでお茶をするのかな、と疑問を口にすることなく宇都木について行き――状況を理解したときにはもう剥かれていた。
 仲直りだよ、とキスの合間に囁かれては、柔らかな、だけど抵抗を許さない愛撫を施されて、あっという間にこうなって。
 どうしていつも宇都木のすることを受け入れるはめになるのか、やっぱり気持ちいいことに弱い自分はいやらしい娘なんだろうか――、宇都木がこの時間に見せる男の顔に見惚れては流されて、免疫がないにも程がある。
「晶子? 何かいやらしいこと考えたね?」
「ちが……っしら、ない、ぃ……」
「身体は素直なのに、仕方のない子だ」
 クスリと笑いをもらした宇都木の指先が晶子の花弁を撫で、ぬるついた入り口をそっと開く。
 トロリと蜜がこぼれるのがわかって、羞恥に全身を染めた。頭を振る。
「う、……あ、あつやさん、もうやだぁ」
 自分の身より低いところにある彼の頭を押さえる。
 ぐいぐいと髪を引っ張って退けようとしても、バスタブの縁に座らされ、支えるのは晶子の身体に触れている彼の手のみという不安定な体勢では、強くも出られない。
 じいと見つめられ、その部分が焼けるように熱く感じてしまう。恥ずかしさに見動いても、逃がしてもらえない。
「ふっ……ふぇ……」
 しゃくりあげてイヤイヤをする晶子のいとけない風情を充分楽しんでから、宇都木は腕を伸ばし、彼女の身体を湯の中に引き落とした。
 あえぐ唇を侵して、揺れる乳房をこすりあげる。びくびくと戦慄わななく身体は、長く快楽を知らなかった分、素直で淫らだ。
「あっ、ああんっ……いゃあぁっ」
 なぶられすぎて腫れ上がった胸の粒を宇都木の唇が捕らえた。吸い付かれ、しゃぶられて、晶子は身悶える。
 他人の口の中に収まったその突起は赤々と存在を主張し、彼の指先や唇が肌に擦れるたびに、彼女にいたたまれない感覚を与えていた。
 体が勝手に、何かを求めて震え出す。
「気持ちいい? 晶子……」
 宇都木の声に、首を振っても説得力はない。
 涙に潤んだ瞳は熱っぽく男を酔わせる色、浅くせわしなく呼吸を繰り返す口から覗く紅色の舌先は、食べられるのを待っている。
 それを自覚していないのが一番タチが悪いと彼は思っていた。誘い方も知らない娘に煽られて、自制を心掛けなければ我を忘れてしまいそうなことも。
「――君が気にしているあの妹より君のほうがよっぽど小悪魔じゃないか」
「ん、う……?」
 呼吸をするのが精一杯の晶子は、宇都木の独白に気づかない。
 苦笑をこぼした宇都木は誘われるまま彼女の唇を吸った。
「晶子はちょっと痩せすぎかな。ここはふっくらしているけれど――あまり細いと壊しそうだ」
 宇都木の手のひらに少し足りない乳房を包むように握って確かめながら、脇を滑り、腰に落ちる。 やわらかい腹の部分をひと撫でしたあとは、また胸に戻った。両の頂をきゅうっと指先で捻りあげて、悲鳴を上げる晶子の表情を楽しむ。
「ひ、ぁ……あっ、ひゃあぁっん、やあ、や」
 宇津木がそうして赤い粒を弄るたびに、晶子は身体を跳ねさせて鳴いた。恥らいながらも快楽に逆らえない様は、宇都木を充分高ぶらせる。
 つつましやかだった薔薇色の尖りは彼の手で固く立ち上がり、熟れた果実のように摘まれるのを待っていた。
 そこを弄られるたび、じくじくした疼きが腹の奥から湧き出してくることに、晶子は気づく。
 男の指で形を変える乳房を、その頂が堪らなく淫らだ。なのに自分は――
「やあ、痛い……、あ、あつやさん、いたいの、そこばっかり……」
「……ああごめん。ほかも、触ってほしいんだね」
「ちが、あああっ」
 抗う間もなく膝が開かれ、間に宇都木の身体が割り込む。
 バシャリと湯が波打った。
 恥ずかしさに「いや」と叫んだ言葉は彼の唇に遮られてくぐもった音に。
 ぬかるんだ入口に、はりつめたものが宛がわれる。
「ん! んー!」
 それが何なのか察した晶子は、抵抗の声を上げて身を捩った。

 押し付けられたものに脅えて、晶子は腰を引く。
 だが、そもそも彼女がどこにいたかが問題だった。
 宇都木に向かい合わせた恰好で膝に乗り、足を開かれていた晶子は、彼の手から逃れようとしたことでバランスを崩し、湯の中に沈み込みかける。
 それを救い出したのはもちろん、原因である宇都木だ。
「暴れると危ないよ、晶子」
 暴れないと別の意味で危ない状況なのですが! と当人に言っても無駄だとは、さすがに晶子にだってわかっている。
 頭から湯をかぶり、見るも情けない様相になってしまった晶子が、濡れて張り付いた前髪の隙間から宇都木を睨むと、こらえきれずに彼は噴き出した。
「……宇都木さんっ」
「呼び方、戻ってる」
 くつくつ笑いながら、宇都木は行為を再開した。
 抱え直されて、今度は乗り上げるような体勢で彼の腹に下肢を置かれる。ちょうど臀部に彼の一部が当たり、晶子はうろたえた。
(ちょおおっと待ってえええ! 今さらだけど、ほんっとうに今さらだけど、どうして私相手にそんなことになっているんですかあああ!)
 その叫びが声にならなかったのは幸いだろう。宇都木に聞かれていれば、生温かい微笑みを向けられて、男の生理というものを懇切丁寧に教えられる羽目になっていたに違いなかった。
 仰け反った拍子に晒されたふくらみを、宇都木の舌が舐める。まともにその光景を見てしまった晶子は、息を飲んで頭に血を上らせた。
「や……」
 晶子の恥じらいを充分承知の上で、宇都木が腰を揺らす。奥から湧き出る水ではない潤滑液の存在が、彼の動きを助けた。
 男を象徴が晶子の女の部分を刺激し、滴り落ちる粘液の量を増やす。晶子は、口から勝手にこぼれようとするあられもない声を必死でこらえた。
 己の両手で口を押え、プルプルと首を振る。晶子がそうして恥ずかしがれば恥ずかしがるほど、宇都木の笑みが深くなっていく。
 合わせられた場所を擦られるうちに、晶子は身体の深いところで生まれた、むず痒いような、もどかしい疼きが耐えようもないくらい育っていることに気付いた。
 自分のものなのにコントロールできない感覚に、恐れを抱いて、涙をこぼす。
「……晶子、苦しいかい?」
 せわしなく息を継ぎ、その呼吸もしゃくりあげるようなものになっている晶子の耳朶をしゃぶりながら、宇都木がささやく。
 止まらない戦慄きをどうにかしてほしくて、晶子は必死に頷いた。
 意味もよく考えずに、宇都木の首に縋り付いて腕を回す。甘えるように、駄々をこねるように、身体を擦り付けた。
「無意識、か、意図できるようになったらおそろしいな」
 苦笑を浮かべて、宇都木は晶子の望みどおりのものを与えるべく、姿勢を変えた。横向きに晶子の体を抱える。
 とっさに身を引こうとした彼女の唇を再び奪いながら、宇都木は足の間に片手を潜り込ませる。
 今度は逃れる隙を与えずに、綻びかけた花びらに指先を滑らせ、ぬめりを広げて、秘裂にそのまま差し入れた。
「――――ッ……!」
 抵抗はあったものの、それまでに弄られきっていた蜜壷は熱く潤んで異物を飲み込む。晶子の喉からかすれた呼吸音が漏れ、内側は侵入した男の指をきつく締め付けた。
 激しく震え、晶子の頬を転がり落ちる涙を舐めとりながら、宇都木は埋めた指を動かし始める。
 晶子の下腹がびくりと蠢いた。
「っふ……! ん、んん……っ」
「痛くないよね? 大丈夫、傷つけないから――」
 なだめるような口づけがあちこちに降る。その間も内側への愛撫は止まらず、ゆっくりと指がもう一本増やされる。
 身の内から響く粘ついた音に、やわらかに内壁を擦られる感覚にこらえきれずに晶子は泣いた。
「はあ、ああ、あ、ん、んあああっ……!」
 フツリと意識が飛ぶ。空白は、五分程度だったらしい。
 気づくと晶子はバスタブの縁ににうつぶせて、宇都木に後ろから抱きかかえられていた。
「あ、つやさん……?」
 数語を音にするにも億劫な怠さに、呼びかけも舌足らずになる。
「もうちょっとだけ、付き合って」
 頭がうまく働かないまま、それでも頷いて、宇都木の手に身を任せた。
 足の間に、宇都木の昂ぶりが割り込んでくる。腿の内側に挟まれたこわいものにハッとする間に、宇都木が動き出した。
 挿入を拒む晶子の意思を尊重して、入れないで得られる快楽の方法を試されているのだと、経験値に乏しい晶子にもなんとなく悟るものがあった。
 宇都木の手に押さえられた両足が、震える。
 内腿に擦り付けられる彼自身が熱くて、吐き出される荒い呼気に、晶子の息まで苦しくなった。直接触れられているわけでもない蜜口が潤んでいた。
「ぁ……、ふ、あ」
 溢れる滴に気付かれたのだろうか。晶子の腰をぐっと掴み直した宇都木は、身体をずらして、陰茎を彼女の花弁に擦り付けた。
「っ、やあああ、あっ、ああ」
 ちかちかする頭の奥の火花に意識がまた持って行かれる。
 晶子を束縛する宇都木の力が強くなって――息を詰まらせた男が、吐き出したものに肌を汚される感触に、悪寒のような悦びを覚えた。

 可愛いよ、と何度も耳に吹き込まれる宇都木の言葉がどこまで本当なのか、晶子にはわからない。
 どうして抵抗しきれずに、彼の言うことを最終的に受け入れてしまうのかも――まだ、わかりたくなかった。


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