彼女と勇者と往復書簡

深月織

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13 勇者の手紙(六)

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《魔王討伐》
《選ばれし者の剣》が《勇者》を選んだときに行われる。《勇者》は《従者》のみを引き連れて、《王国》の南にある《魔王領域》まで赴き、《魔王》と対峙、彼の者の力を減ずるのが役目。今まで、《魔王討伐》に成功したものは皆無。一〇八七代から一〇八八代にかけて十六年ほど《勇者》不在の間があるため、今代の《魔王討伐》は困難を窮めると予想される。

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親愛なるエーファへ

 疲れた。ものすっごい疲れた。何がなんだかわからないが、いきなり魔女と神官が痴話喧嘩を始めて被害甚大、主に俺が。なんであいつらの仲裁を俺がしなきゃなんないんですか。神官の野郎、虫ケラを見るような目で睨みやがって、俺が短気な若者だったら喧嘩売ってるとこだぞ。値切りは効かねえぞ。
 魔女の態度から、神官が何かまずいことをやるか言うかして機嫌を損ねたってとこだろうけど、あの天然を怒らせるって、ナニやからしたんだか。武官も巫女もポケーっと見てるだけだし、俺はいつから引率のセンセイになったんだと。
 え? サカリアスは何してたって? あいつは苦笑して、「犬も食わないって言うから、放っておいた方がいいんじゃないかな」と至極当たり前のことを仰いました。
 が、あのですね、俺たち今どこにいると思うよ。魔王領域ですよ敵陣のど真ん中ですよ。静かに怒る魔女の精霊術があたりの均衡を脅かし、それを宥めようとする神官がキラキラ法術を使い、お前らこっそりとかひっそりって言葉知ってるかー(怒)! と俺がキレて二人に当て身をくらわすくらい、仕方ないと思わね? あとで魔女には謝っといたけど。逆にめちゃくちゃ謝り返されたけど。女の子、手加減したとはいえ殴っちゃいけないですよね、反省。神官は放置。
 それ以来魔女は神官を丸無視です。そうすると必然的に俺たちとばかり会話をすることになるわけで。……神官の視線で呪われそう。サカリアスも同じ立場だというのに、なんで俺だけ。ムカつくから魔女にことさらにこやかに接してやった。いや、妹を可愛がるようにだからな、誤解すんなよ?

 昇格おめでとう……と言っていいのか? いいのか。とりあえずおめでとう。俺がいない間にジジイも長も好き勝手してやがるな。特に長、本部にいろよ、フットワーク軽すぎだろ。ジジイにはぎっくり腰になれの念を送っておく。温泉いいな温泉。俺もまったりしたい。帰ったら俺も一回行きたい。もちもちはエーファさんが気になってる部位に集めてみたらどうですかと一応提案してみる。
 旅もそろそろ終盤です。魔王領域も半ばを過ぎると、魔獣は減り魔族さんの姿が周囲にチラホラし始めています。ストーカーか。たまにちょっかいかけてきて、嫌がらせのように中途半端な攻撃をしてくださるのですが、イライラする! イライラするぞ! もう魔王もまとめて来てくんないかな!
 だめか。勇者が行くのが決まりごとですかそうですか誰が決めた。まあね、だって魔王は別にこっちに攻めてきているわけじゃないもんねー、こっちが攻めてる立場ですもんねー、とか言ったら何罪で捕まるのか興味あるー。ここまで来たら関係ないけどな。
 死亡フラグ立てるついでに言っとこう、俺、帰ったらエーファに聞いてほしいことがあるんだ。
 逃げんなよ、地の果て……は俺が今いるとこだから、世界の果てまで追っかけるぞ、覚悟しとけ。
 よし。いろいろ楽しみも出来たことだし、サクッと行ってくる。
 そろそろギルド便、厳しそうだなぁ。

 流月二十一日 クロード
 
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