彼女と勇者と往復書簡

深月織

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12 彼女の手紙(五)

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王国通信 《増刊号》‐秘湯☆探訪‐
それは、知る人ぞ知る。同好の士の間だけで囁かれる秘密の場所。どんな険しい山道だろうと、どんな危険な魔獣出没地帯だろうと、それを求めてどこまでも! 片手に桶を携えて、使用するのはもちろん環境に優しい自然派石鹸、タオル巻きなんて邪道だぜ! この道四十七年、秘湯狩人☆モーリッツが今回皆様にこっそりと、癒しの湯・活力の湯・美肌の湯・痺れるほど刺激的な湯・魔獣が混浴をねだるスリリングな湯等々、様々な効能を持つ温泉をご紹介!
~~~秘湯へ向かわれるときは、充分周りに注意を払い、場合によっては何が起こっても後悔しないように一筆残しておくか、冒険者ギルド員に同行をお願いすることをオススメ致します~~~

◆特別付録
・紹介秘湯効能一覧表
・危険察知に便利な魔獣分布図
・心残りチェック表

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親愛なるクロード様

 本日もおつとめご苦労様です。魔王領域から離れた田舎にいると、魔物の被害や魔族の侵攻のことは遠い世界の話のような気がしていたけれど、現実に幼馴染みの貴方がそこにいると思えば、他人事ではないのだと身につまされます。
 クロードにお願いされたので、王国通信号外見るのはやめて、今はギルドの情報誌を取ってるわ。ちょっと値は張るけれど、いろいろと勉強になります。
 そう、もうお気づきのこととは思われますが、私、この度薬師階級を上げました! 情報誌を購読できるギルドランクが必要だったのと、改めて師匠や長に勧められたのよね。階級を上げるとクエストの義務が生じるし面倒だから、登録時のままにしていたけれど、このご時世だもん、贅沢は言えないわ。
 いいこともあったのよ。ギルドを通しての薬や薬草の買取額が二割増しになったの。巷の流行りは治癒術だけど、実のところ術力切れになったらそこで終わりだから、ギルドでは重篤な怪我でもない限りは薬や薬草を使うことをオススメされているんだって。
 それに何といっても、私の薬は勇者さま御用達ですから。稼がせていただいてますわ。
 と、いうわけで売れっ子薬師になってしまった私は、少なくなった在庫補充のためにただいま採集の旅に出ております。いつもはアンタについてきてもらって、村周辺の森を回るくらいだったし、こんなに遠出するのも初めてだから、ちょっとビクビクしてる。王都行ったときのアンタを笑えないわ。
 ホントのところ、師匠が「村ひま、温泉行きてぇ癒されてぇー!」って駄々こねたのが発端。そしたらギルド長が「いいところ知っていますよ」って、師匠を唆してさ(ちなみにアンタん家で飲み会やってる最中。ツマミ作製要員が私)。なだめるのも邪魔くさかったから、「ハイハイ行ってらっしゃいお土産よろしくー」、なんて見送る気満々だったのに、温泉地で特別に取れる薬草の話なんて持ち出されたら行くしかないでしょう。「温泉なら私たちも行きたいわ」ってヨキアさん家のお姉さんたちも言い出して、めでたく出発と相成ったわけです。ギルド長ってば師匠に体よく魔獣討伐押し付けて、私を薬草採取に誘導して一挙両得を狙ったんじゃないの……?
 なんだか釈然としないながらも、温泉堪能しつつの魔獣退治は師匠とお姉さんたちに任せて、私は隅っこでちまちま採取を頑張ってます。美人姉妹を両手にウハウハしている師匠がウザイので、調合中偶然できたっぽい『ちょっと男性が大人しくなるお薬』を、実験がてら今夜飲ませてみようかと思ってる。
 採取している以外はなにもすることがなくて、毎日上げ膳据え膳、温泉にまったりつかって、怠けた身体がもちもちしてきたような気がします。ヤバイ。肌がもちもちはいいけど身体がもちもちはヤバイ。明日から走る。
 この辺りで採れる野草を使ったお料理、宿の人に教えてもらったので、クロードが帰ってきたら作ってあげるわね。腹痛や胃痛に気をつけて、無理せず頑張ってください。

 流月十四日 エーファ
(ところでギルド便、ここにまでやって来ました……。いや、長から私の居場所は聞いていたのかもしれないけど、けどっ……! ギルド便恐い。)
 
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