上 下
61 / 75

帰還

しおりを挟む
深淵の樹海からハラルドの街に戻ってきた僕達は冒険者ギルドに来ていた。

色々と手を貸してくれたギルマスに報告するのと、ピュアの登録をする為だ。

「死なずに帰ってこれました」

「よく戻ってきた。なかなか戻ってこないから心配していた」

「ご心配お掛けしました」

「それでどうだったんだ?妖精には会えたのか?」

「会えませんでしたが、妖精は呪いを無効化しているだけで、呪いを解くことは出来ないことがわかりました」

「そうか。残念だったな」

「わかっただけ収穫です。ふりだしではありますけど、知らずに妖精を探し続けているよりはマシです」

「他に当てはあるのか?」

「いえ、今のところはないです」

「何か糸口はあるはずだから、諦めるなよ」

「もちろんです。それから、この子の登録をお願いします」

「ああ、ずっと気になってはいたが、こいつもあそこで捕まえてきたのか?」

「そうです」

ギルマスが魔導具を取りにいき、ピュアに魔導具を触らせる。

「……該当なしだな。ギルドで確認されていない生き物だ」

「ジェネシス・ドラゴンって種族みたいです」

「種族はわかるんだったな。新種のはずだが種族名があるのは不思議だな。坊主が嘘をいう理由もないだろうから、その種族で登録はしておく」
確かにギルマスの言うとおり不思議だ。
誰が種族名をつけたのかな?あのドラゴンの言ってたカルアって神みたいな人かな?

ギルマスにスカーフを貰いピュアに結ぶ。

「それと、前に出会った漆黒のドラゴンはカタストロフィ・ドラゴンでした。――――――――ということがありまして、深淵の樹海はそのドラゴンが管理しているみたいです。妖精の話もその時に教えてもらいました」
僕はギルマスにカタストロフィ・ドラゴンに出会ったことを説明する。

「…………それで坊主は世界を滅ぼそうとしているそのドラゴンを見逃したと」
やっぱり見逃したのはマズかったのかな……

「……そうですね」

「大地が赤く染まる時、天より一対のドラゴンが現れ、新たな世界を創造するだろう」
ギルマスが急に難しいことを言う。

「それはなんですか?」

「古い伝承だ。坊主の話を聞いて思い出した。この伝承を神からのお告げだと信じている者もいる。教会の連中なんかがそうだ。新たな世界というのは、新天地のような良い意味の解釈をされていることが多いが、坊主の話を聞く限りだとこの世界が一度終わるみたいだな」

「そんな伝承があるんですね。伝承の一対のドラゴンというのが、カタストロフィ・ドラゴンとジェネシス・ドラゴンのことならそういうことですね」

「さっきの話は他の誰かに話したか?」

「いえ、まだギルマスにしか話してません。知っているのは僕とシトリーだけですね」

「誰にも言わない方がいい。少なくても教会の連中に聞かれたら異端だとして敵視される可能性が高い。教会の連中を敵に回すと厄介だ。神を信仰しているからな。信仰心で自らの命を捧げることも苦としない者も少なくない。それに民衆からの支持も多大だ。俺も自分の心の中だけに収めておく」

「わかりました。そうします」

「だがそうなると、カルアという者が本当に神に思えてくるな。大地が赤く染まる時というのは、大量の血が流れた時という意味だろう。教会の連中は神への贄という都合の良い解釈をしているが、天から姿を現すというドラゴンが神の命で世界を滅ぼすのであれば、大地が戦などで血に染まり、神がこの世界を見限った時、神の遣いであるドラゴンが、世界に終焉をもたらす為にやって来るということだろうな。そのドラゴンが深淵の樹海を管理しているということは、時がくれば深淵の樹海に棲む魔物が解き放たれるのかもしれない」

「……そうかもしれないですね」

「なぜ、深淵の樹海から魔物が外に出て来ないのかずっと疑問に思っていたが、謎が解けた。あまり良い答えではなかったがな……」
深淵の樹海の奥に棲む魔物が街を襲えば、簡単に街は壊滅してしまうだろう。
今までそうならなかったのは、あのドラゴンが管理してくれていたからかもしれない。

そう思うと、あのドラゴンを殺さなくてよかった。

制御を失った魔物達が各地の街を襲っていてもおかしくない。

「ドラゴンを逃したのは正解だったみたいでよかったです」

「あくまで想像であって、実際のところはわからない。見逃さなければ将来起きるかもしれない世界の崩壊を防げたかもしれない。現状維持と言う意味で坊主の判断は間違ってはなかったとは思うが、何も起きないことを祈るしかないな」

「……後悔したとしても、あの時にあのドラゴンを殺す選択を僕はしなかったと思うので、やり直したところで結果は変わらないと思います。僕の選んだ答えなので、もしその時がくるなら、僕の出来る限りで抗います」

「その時は私も一緒に抗います。一思いに命を刈り取らなかったのは私も同じです」

「シトリーは僕の言うことを聞いて…………いや、そうだね。その時は一緒に運命と戦おうか」
僕の決めたことだからシトリーは関係ない。
そう言おうと思ったけど、シトリーの真剣な顔を見て言うのをやめた。

「最後の時までお供いたします」

「よろしくね。それではこれで自分の国へと戻ります。今後もどうかよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそな」

僕達はコロネさんに挨拶した後、久しぶりに自分の国へと戻る。

「お帰りなさいませ、マ王様」
城に入った所でルマンダさんに出迎えられる。

「留守を任せて悪かったね。何か問題はあった?」

「問題はありませんがお耳に入れていただきたいことが2点あります。……後ほどのほうがよさそうですな」

「……そうだね。後からルマンダさんの部屋に行くよ」

「かしこまりました」

ルマンダさんには待っててもらい、僕は庭へと行く。

「遊んで欲しいワン」
「妾を撫でてもいいのじゃ」
「ユメは留守を守ったにゃ。褒めるにゃ」

僕にくっ付いて離れようとしない構ってちゃん達と遊ぶ為だ。
みんなの方から寄ってこなくても僕の方から探しに行ったけどね。

もふもふ成分が不足している。

「お待たせ」
みんなと戯れてある程度満足した後、ルマンダさんに会いに行く。

「もうよろしいのですか?」

「とりあえずはね。それで話ってのは何?」

「まず一つ目ですが、商業ギルドのギルドマスターが先日来られました。マ王様が不在なので、また後日足を運ぶように言ってあります。内容に関しては予想していた通りでしょう。二つ目にマ王様に会いに来たと言っている方がいます。自分は異世界人だと言っているので、マ王様のご友人かもしれません」

「え!本当に?」

「私には判断が付きませんが、嘘を言っているようには見えません。また、噂のとおりかなりの力を有しているようです」
みんなと遊んでる場合じゃなかった。
誰かな?

「今どこにいるの?」

「マ王様は不在だと伝えたら、街の宿で待つとおっしゃって帰られました」

「隷属されてる?」

「いえ、隷属はされておりませんでした」
うまく逃れたのかな?

「ありがとう。今日はもう遅いから明日会いに行ってくるよ。商業ギルドの方はその後に対処するってことで」
商業ギルドの方は予想通りなので後回しでいいや。
それよりも今はクラスメイトを優先しないと。

「マ王様、ハラルドの街では理由を教えていただけなかったので言いませんでしたが、あまり城を離れないで下さい。謁見に来るように遣いを出しますので、マ王様は王座に座ってお待ちください」

「……わかったよ。それじゃあ準備は任せるからよろしくね」

「かしこまりました」
王国で何が起きてるのかわかるかもしれない。
それに他のみんなの能力も分かれば助けやすくなるかも。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ
ファンタジー
とある村にある森に、世界最強の大英雄が村人として生活していた。 そこにある双子の姉妹がやってきて弟子入りを志願する! 主人公は姉妹、大英雄です。 学生なので投稿ペースは一応20時を目安に毎日投稿する予定ですが確実ではありません。 本編は完結しましたが、お気に入り登録者200人で公開する話が残ってます。 次回作は公開しているので、そちらも是非。 誤字・誤用等があったらお知らせ下さい。 初心者なので訂正することが多くなります。 気軽に感想・アドバイスを頂けると有難いです。

【創造魔法】を覚えて、万能で最強になりました。 クラスから追放した奴らは、そこらへんの草でも食ってろ!

久乃川あずき(桑野和明)
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ『面白スキル賞』受賞しました。 2022年9月20日より、コミカライズ連載開始です(アルファポリスのサイトで読めます) 単行本は現在2巻まで出ています。 高校二年の水沢優樹は、不思議な地震に巻き込まれ、クラスメイト三十五人といっしょに異世界に転移してしまう。 三ヶ月後、ケガをした優樹は、クラスメイトから役立たずと言われて追放される。 絶望的な状況だったが、ふとしたきっかけで、【創造魔法】が使えるようになる。 【創造魔法】は素材さえあれば、どんなものでも作ることができる究極の魔法で、優樹は幼馴染みの由那と快適な暮らしを始める。 一方、優樹を追放したクラスメイトたちは、木の実や野草を食べて、ぎりぎりの生活をしていた。優樹が元の世界の食べ物を魔法で作れることを知り、追放を撤回しようとするが、その判断は遅かった。 優樹は自分を追放したクラスメイトたちを助ける気などなくなっていた。 あいつらは、そこらへんの草でも食ってればいいんだ。 異世界で活躍する優樹と悲惨な展開になるクラスメイトたちの物語です。

ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ
ファンタジー
大陸の端に存在する小国、ボーンネル。 バラバラとなったこの国で少女ジンは多くの仲間とともに建物を建て、新たな仲間を集め、国を立て直す。 そして同時にジンを中心にして世界の歯車は動き出そうとしていた。 これはいずれ一国の王となる少女の物語。

異世界に転生したので裏社会から支配する

Jaja
ファンタジー
 スラムの路地で、ひもじい思いをしていた一人の少年。  「あれぇ? 俺、転生してるじゃん」  殴られた衝撃で前世の記憶を思い出した少年。  異世界転生だと浮かれていたが、現在の状況は良くなかった。  「王道に従って冒険者からの立身出世を目指すか…。それとも…」  そして何を思ったか、少年は裏社会から異世界でのし上がって行く事を決意する。  「マフィアとかギャングのボスってカッコいいよね!」  これは異世界に転生した少年が唯一無二の能力を授かり、仲間と共に裏社会から異世界を支配していくお話。  ※この作品はカクヨム様にも更新しています。

処理中です...