上 下
25 / 75

内乱の収めかた

しおりを挟む
シトリーが人外の力を得た翌日、僕は庭で訓練の様子を眺めていた。

訓練の発端は、シトリーが万が一の時に戦えるようになりたいと言ったことだ。
戦える術を得ても戦い慣れていなければ、いざという時に足が竦んでしまうかもしれないと言うので、庭で訓練をしているのである。

戦いに慣れる為ということなので、訓練は模擬戦形式で、シトリーの相手はシンクが務めている。

僕は初め庭で訓練を眺めているといったけど、あれは半分嘘である。
僕には2人の姿がほとんど見えていない。

開始の合図をした瞬間から2人は消えている。
実際には僕の目で追えていないだけだけど、空気を切り裂く音や爆発の音がそこらじゅうで聞こえている。

「はぁ、はぁ。参りました」
少ししてシトリーが負けを認める。

何があったかわからないけど、シトリーが仰向けに倒れていて、シンクの前足がシトリーのおでこに添えられていた。

「シンクの勝ち!」
何があったのか分かってない僕がシンクの勝利を告げる。
こんなに審判というか、立会人に向いていない人がいるだろうか……。

「よくやったね。言った通り怪我もさせてないね」
褒めて欲しそうに駆け寄ってきたシンクを撫でながら褒める。

「マオ様、手も足も出ませんでした」
シトリーがシュンとしながら報告する。

「残念だったね。シンクと戦ってみてどうだった?」
シンクに勝つことが目的ではない。
何か得るものがあったならそれでいいはずだ。

「私の方が早く動けているはずなのに、常に背後を取られていました。私の動きには無駄が多いのかもしれません」
そんなことがあったらしい。

「シンクから見てシトリーはどうだった?なんでずっと背後を取れたの?」

「動きが単調過ぎるワン。動きがぎこちないワン。守りが甘いワン」

「手厳しいね」

「鍛え甲斐があるワン。そしたらこの娘は我より強くなるワン。……悔しいワン」

「よしよし。シンクにはシンクの良さがあるからね」

「シンクちゃんはなんて言っているのですか?」
シトリーに聞かれる。

「動きが単調だって。それから動きがぎこちないってさ。後は守りが甘いって言ってるよ。でも素質はあるみたいだよ」
なんて答えるか迷った僕は、指摘はそのまま伝えて、その後にシンクが言ったことは言わないことにした。

「次は妾がやるのじゃ。経験を積むなら妾とやるのが適任なのじゃ」
傍観していたオボロに火がついたようだ。
それ程の戦いだったようだ。

シトリーが回復したところで2戦目が始まる。

今度は僕にも見える。

ただ、見えるといっても今度は見えすぎている。
オボロが1.2.3.4…………数えきれない。100匹はいる。

シトリーは試されているというのが分かっているようで、力任せに全てのオボロを攻撃しようとはしない。
本物と思うオボロを攻撃する。

シトリーに殴られたオボロは溶けるように地面に吸い込まれていき、別の新しいオボロが現れる。

「参りました」
そのまま30分くらいシトリーがオボロの影と戦い続けたところでシトリーがギブアップした。

ちなみに本物のオボロはずっと僕の膝の上にいた。
本物である自身の姿はシトリーから見えないように隠し、シトリーが見えているものは全てニセモノだなんて……。

「あれ、そんなところに……」
オボロがニセモノを消して姿を現したことで、シトリーが不思議そうにする。

「オボロならずっと僕の膝の上で丸くなってたよ」
僕は真実を教える

「そんな……」
シトリーは落ち込む。

「数が多かっただけで、今のは妾じゃなくても出来るのじゃ。もっと冷静なら見つけられたはずなのじゃ」

「冷静になれば見つけられたはずだってさ。それから今のは数が多かっただけでオボロじゃなくても出来ることだって」

「ううぅ」
シトリーは悔しいようだ。

「マオ様、よろしいですか?」
次はユメかなと思っていたら、フェレスさんに呼ばれた。

「あ、はい。シトリーどうする?まだ続ける?」

「お願いします」
シトリーはやる気だ。

「つぎはユメの番かな?」
僕はユメにやるか聞く

「ユメとやるにはまだ早いにゃ。どうせユメが勝つにゃ。得られるものはないにゃ」
ユメはやらないらしい。

「それなら、僕がフェレスさんと話に行っている間はシンクとオボロで相手を任せるよ。やり過ぎないようにね」

「任せるワン」
「面白くなってきたのじゃ」

「やり過ぎたらダメだからね」
オボロが不敵な笑みを浮かべている気がしたので、もう一度忠告してから、フェレスさんと話をしにいく。

「お待たせしました」

「昨日相談されていた件なんだが、マオ様は同郷の者が争いに巻き込まれるのが嫌だということで間違いないか?」

「そうです」

「あまり褒められた方法ではないが、一つ案を考えてきた。まずはこれを見てくれ」
フェレスさんは地図を取り出す。

「これは王国の地図なんだが、ここが王城のある王都で、この辺りがルマンダ侯爵の領地だ」
ルマンダ侯爵の領地は王城からは離れているようだ。
それがどうかしたのだろうか……?

「何が言いたいのかわからないです」
僕は正直に言って答えを求める。

「ルマンダ侯爵の領地は確かに広いが、王国の中心である王都とは山で隔てられている。この辺りの平地を使えなくしてやれば孤立するだろう」

「……そうなんですか?」
僕には難しいことはわからない。

「ああ。それから今回の内乱だが、私の調べた所だとルマンダ侯爵の方から仕掛けたらしい」
仕事が早いのは分かったけど、早く本題に入って欲しい。

「それで結局どうするの?」
僕は結論を言うように急かす。

「ルマンダ侯爵家を攻めるのがいいでしょう」

「えっ!?」
フェレスさんが急に驚くことを言った。

「争いを収める1番の方法は、争っているどちらかを潰すことです。もしくはマオ様の同郷を救出することですが、話を聞く限りだとそれは難しいでしょう。マオ様のような不可思議なスキルを持っているとなると、その力は未知数です。王国側と争うべきでない以上、ルマンダ侯爵側を潰すしかありません。ルマンダ侯爵家を潰すことは戦力的に可能です」
フェレスさんの言うことは理解出来た。
確かにそうかもしれない。

「ルマンダ侯爵家を潰した後、王国の矛先が僕達に向かないかな?」
僕は1番思っていることは、一度心の奥に仕舞い込んで気になったことを聞く。

「そうなる可能性はあります。しかし、ルマンダ侯爵家は魔族領からも離れています。王国がルマンダ侯爵を排除しようとしているなら話は別ですが、ルマンダ侯爵側から仕向けた反乱であればそのまま放置される可能性は十分にあります。さらに、マオ様が国王の財力として宝物庫の中身を盗んでいます。王国は現在、資金力がないと思われます。そうなると報復目的で戦を仕掛けはしないはずです」
確かにそうかもしれない。
僕の目的だけを達成するならいい案かもしれない。

「ルマンダ侯爵家を潰すってことは、ルマンダ侯爵家の領地に住んでいる人をたくさん殺すってことだよね?」
僕がフェレスさんから案を聞いてからずっと思っているのはこのことだ。
確かにクラスのみんなにはひどい思いをしてほしくないけど、その為に関係ない人を殺すのはどうかと思ってしまう。

「……マオ様、何かを得るためには何かを代償にしないといけません。そうは思いませんか?」

「……わかったよ。ルマンダ侯爵家を潰す方向で準備を進めよう。だけど、僕は代償を支払わない。無血で勝利する。その方法を考えよう」

「マオ様、それは強欲過ぎます。物事には優先順位があります。同郷の者を1番に考えるならば、見ず知らずのルマンダ侯爵は見捨てるべきです」

「言っていることはもちろんわかるよ。でも譲歩するつもりはないよ。フェレスさんは、もし魔法の深淵を覗くには魔力を全て失わないといけないとしたらどうする?深淵を覗いたら最後、それを自分で生かすことは叶わない。でも魔法を使うためには深淵を諦めないといけない」

「それは……すぐに答えなんて出せません」

「僕ならその2択のどちらも選ばない。そのどちらを選んでも後悔するから。ならどうするか……、それなら魔力を失わずに深淵を覗く方法を考える。フェレスさんもそうするはずだよ。魔法が好きなフェレスさんが魔法を捨てられるわけがない。でも深淵を諦めるなんて無理だ。その場で足踏みするくらいなら別の方法に手を出すはずだよ」

「……そうかもしれません。理想を語っているようにも聞こえますが……確かに私は両方を諦めないかもしれません」

「それならフェレスさんも強欲だね。魔法と深淵、2つの内1つを選べと言っているのに両方を選ぼうとしているんだから」

「……わかりました。もう1日時間を下さい。強欲なマオ様の為の案に修正してきます」

「無理を言ってごめんね。無理を聞いてもらっているお礼に、これがうまくいったらフェレスさんにはプレゼントをあげるよ。フェレスさんが喜ぶものだと思う。エサで釣るようなことを言ってるけど、フェレスさんはこの方がやる気が出るよね?」

「はっはっは!俄然やる気が出ましたよ」
フェレスさんは笑いながら研究室に入っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

ただの世界最強の村人と双子の弟子

ヒロ
ファンタジー
とある村にある森に、世界最強の大英雄が村人として生活していた。 そこにある双子の姉妹がやってきて弟子入りを志願する! 主人公は姉妹、大英雄です。 学生なので投稿ペースは一応20時を目安に毎日投稿する予定ですが確実ではありません。 本編は完結しましたが、お気に入り登録者200人で公開する話が残ってます。 次回作は公開しているので、そちらも是非。 誤字・誤用等があったらお知らせ下さい。 初心者なので訂正することが多くなります。 気軽に感想・アドバイスを頂けると有難いです。

【創造魔法】を覚えて、万能で最強になりました。 クラスから追放した奴らは、そこらへんの草でも食ってろ!

久乃川あずき(桑野和明)
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ『面白スキル賞』受賞しました。 2022年9月20日より、コミカライズ連載開始です(アルファポリスのサイトで読めます) 単行本は現在2巻まで出ています。 高校二年の水沢優樹は、不思議な地震に巻き込まれ、クラスメイト三十五人といっしょに異世界に転移してしまう。 三ヶ月後、ケガをした優樹は、クラスメイトから役立たずと言われて追放される。 絶望的な状況だったが、ふとしたきっかけで、【創造魔法】が使えるようになる。 【創造魔法】は素材さえあれば、どんなものでも作ることができる究極の魔法で、優樹は幼馴染みの由那と快適な暮らしを始める。 一方、優樹を追放したクラスメイトたちは、木の実や野草を食べて、ぎりぎりの生活をしていた。優樹が元の世界の食べ物を魔法で作れることを知り、追放を撤回しようとするが、その判断は遅かった。 優樹は自分を追放したクラスメイトたちを助ける気などなくなっていた。 あいつらは、そこらへんの草でも食ってればいいんだ。 異世界で活躍する優樹と悲惨な展開になるクラスメイトたちの物語です。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

処理中です...