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内乱の収めかた
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シトリーが人外の力を得た翌日、僕は庭で訓練の様子を眺めていた。
訓練の発端は、シトリーが万が一の時に戦えるようになりたいと言ったことだ。
戦える術を得ても戦い慣れていなければ、いざという時に足が竦んでしまうかもしれないと言うので、庭で訓練をしているのである。
戦いに慣れる為ということなので、訓練は模擬戦形式で、シトリーの相手はシンクが務めている。
僕は初め庭で訓練を眺めているといったけど、あれは半分嘘である。
僕には2人の姿がほとんど見えていない。
開始の合図をした瞬間から2人は消えている。
実際には僕の目で追えていないだけだけど、空気を切り裂く音や爆発の音がそこらじゅうで聞こえている。
「はぁ、はぁ。参りました」
少ししてシトリーが負けを認める。
何があったかわからないけど、シトリーが仰向けに倒れていて、シンクの前足がシトリーのおでこに添えられていた。
「シンクの勝ち!」
何があったのか分かってない僕がシンクの勝利を告げる。
こんなに審判というか、立会人に向いていない人がいるだろうか……。
「よくやったね。言った通り怪我もさせてないね」
褒めて欲しそうに駆け寄ってきたシンクを撫でながら褒める。
「マオ様、手も足も出ませんでした」
シトリーがシュンとしながら報告する。
「残念だったね。シンクと戦ってみてどうだった?」
シンクに勝つことが目的ではない。
何か得るものがあったならそれでいいはずだ。
「私の方が早く動けているはずなのに、常に背後を取られていました。私の動きには無駄が多いのかもしれません」
そんなことがあったらしい。
「シンクから見てシトリーはどうだった?なんでずっと背後を取れたの?」
「動きが単調過ぎるワン。動きがぎこちないワン。守りが甘いワン」
「手厳しいね」
「鍛え甲斐があるワン。そしたらこの娘は我より強くなるワン。……悔しいワン」
「よしよし。シンクにはシンクの良さがあるからね」
「シンクちゃんはなんて言っているのですか?」
シトリーに聞かれる。
「動きが単調だって。それから動きがぎこちないってさ。後は守りが甘いって言ってるよ。でも素質はあるみたいだよ」
なんて答えるか迷った僕は、指摘はそのまま伝えて、その後にシンクが言ったことは言わないことにした。
「次は妾がやるのじゃ。経験を積むなら妾とやるのが適任なのじゃ」
傍観していたオボロに火がついたようだ。
それ程の戦いだったようだ。
シトリーが回復したところで2戦目が始まる。
今度は僕にも見える。
ただ、見えるといっても今度は見えすぎている。
オボロが1.2.3.4…………数えきれない。100匹はいる。
シトリーは試されているというのが分かっているようで、力任せに全てのオボロを攻撃しようとはしない。
本物と思うオボロを攻撃する。
シトリーに殴られたオボロは溶けるように地面に吸い込まれていき、別の新しいオボロが現れる。
「参りました」
そのまま30分くらいシトリーがオボロの影と戦い続けたところでシトリーがギブアップした。
ちなみに本物のオボロはずっと僕の膝の上にいた。
本物である自身の姿はシトリーから見えないように隠し、シトリーが見えているものは全てニセモノだなんて……。
「あれ、そんなところに……」
オボロがニセモノを消して姿を現したことで、シトリーが不思議そうにする。
「オボロならずっと僕の膝の上で丸くなってたよ」
僕は真実を教える
「そんな……」
シトリーは落ち込む。
「数が多かっただけで、今のは妾じゃなくても出来るのじゃ。もっと冷静なら見つけられたはずなのじゃ」
「冷静になれば見つけられたはずだってさ。それから今のは数が多かっただけでオボロじゃなくても出来ることだって」
「ううぅ」
シトリーは悔しいようだ。
「マオ様、よろしいですか?」
次はユメかなと思っていたら、フェレスさんに呼ばれた。
「あ、はい。シトリーどうする?まだ続ける?」
「お願いします」
シトリーはやる気だ。
「つぎはユメの番かな?」
僕はユメにやるか聞く
「ユメとやるにはまだ早いにゃ。どうせユメが勝つにゃ。得られるものはないにゃ」
ユメはやらないらしい。
「それなら、僕がフェレスさんと話に行っている間はシンクとオボロで相手を任せるよ。やり過ぎないようにね」
「任せるワン」
「面白くなってきたのじゃ」
「やり過ぎたらダメだからね」
オボロが不敵な笑みを浮かべている気がしたので、もう一度忠告してから、フェレスさんと話をしにいく。
「お待たせしました」
「昨日相談されていた件なんだが、マオ様は同郷の者が争いに巻き込まれるのが嫌だということで間違いないか?」
「そうです」
「あまり褒められた方法ではないが、一つ案を考えてきた。まずはこれを見てくれ」
フェレスさんは地図を取り出す。
「これは王国の地図なんだが、ここが王城のある王都で、この辺りがルマンダ侯爵の領地だ」
ルマンダ侯爵の領地は王城からは離れているようだ。
それがどうかしたのだろうか……?
「何が言いたいのかわからないです」
僕は正直に言って答えを求める。
「ルマンダ侯爵の領地は確かに広いが、王国の中心である王都とは山で隔てられている。この辺りの平地を使えなくしてやれば孤立するだろう」
「……そうなんですか?」
僕には難しいことはわからない。
「ああ。それから今回の内乱だが、私の調べた所だとルマンダ侯爵の方から仕掛けたらしい」
仕事が早いのは分かったけど、早く本題に入って欲しい。
「それで結局どうするの?」
僕は結論を言うように急かす。
「ルマンダ侯爵家を攻めるのがいいでしょう」
「えっ!?」
フェレスさんが急に驚くことを言った。
「争いを収める1番の方法は、争っているどちらかを潰すことです。もしくはマオ様の同郷を救出することですが、話を聞く限りだとそれは難しいでしょう。マオ様のような不可思議なスキルを持っているとなると、その力は未知数です。王国側と争うべきでない以上、ルマンダ侯爵側を潰すしかありません。ルマンダ侯爵家を潰すことは戦力的に可能です」
フェレスさんの言うことは理解出来た。
確かにそうかもしれない。
「ルマンダ侯爵家を潰した後、王国の矛先が僕達に向かないかな?」
僕は1番思っていることは、一度心の奥に仕舞い込んで気になったことを聞く。
「そうなる可能性はあります。しかし、ルマンダ侯爵家は魔族領からも離れています。王国がルマンダ侯爵を排除しようとしているなら話は別ですが、ルマンダ侯爵側から仕向けた反乱であればそのまま放置される可能性は十分にあります。さらに、マオ様が国王の財力として宝物庫の中身を盗んでいます。王国は現在、資金力がないと思われます。そうなると報復目的で戦を仕掛けはしないはずです」
確かにそうかもしれない。
僕の目的だけを達成するならいい案かもしれない。
「ルマンダ侯爵家を潰すってことは、ルマンダ侯爵家の領地に住んでいる人をたくさん殺すってことだよね?」
僕がフェレスさんから案を聞いてからずっと思っているのはこのことだ。
確かにクラスのみんなにはひどい思いをしてほしくないけど、その為に関係ない人を殺すのはどうかと思ってしまう。
「……マオ様、何かを得るためには何かを代償にしないといけません。そうは思いませんか?」
「……わかったよ。ルマンダ侯爵家を潰す方向で準備を進めよう。だけど、僕は代償を支払わない。無血で勝利する。その方法を考えよう」
「マオ様、それは強欲過ぎます。物事には優先順位があります。同郷の者を1番に考えるならば、見ず知らずのルマンダ侯爵は見捨てるべきです」
「言っていることはもちろんわかるよ。でも譲歩するつもりはないよ。フェレスさんは、もし魔法の深淵を覗くには魔力を全て失わないといけないとしたらどうする?深淵を覗いたら最後、それを自分で生かすことは叶わない。でも魔法を使うためには深淵を諦めないといけない」
「それは……すぐに答えなんて出せません」
「僕ならその2択のどちらも選ばない。そのどちらを選んでも後悔するから。ならどうするか……、それなら魔力を失わずに深淵を覗く方法を考える。フェレスさんもそうするはずだよ。魔法が好きなフェレスさんが魔法を捨てられるわけがない。でも深淵を諦めるなんて無理だ。その場で足踏みするくらいなら別の方法に手を出すはずだよ」
「……そうかもしれません。理想を語っているようにも聞こえますが……確かに私は両方を諦めないかもしれません」
「それならフェレスさんも強欲だね。魔法と深淵、2つの内1つを選べと言っているのに両方を選ぼうとしているんだから」
「……わかりました。もう1日時間を下さい。強欲なマオ様の為の案に修正してきます」
「無理を言ってごめんね。無理を聞いてもらっているお礼に、これがうまくいったらフェレスさんにはプレゼントをあげるよ。フェレスさんが喜ぶものだと思う。エサで釣るようなことを言ってるけど、フェレスさんはこの方がやる気が出るよね?」
「はっはっは!俄然やる気が出ましたよ」
フェレスさんは笑いながら研究室に入っていった。
訓練の発端は、シトリーが万が一の時に戦えるようになりたいと言ったことだ。
戦える術を得ても戦い慣れていなければ、いざという時に足が竦んでしまうかもしれないと言うので、庭で訓練をしているのである。
戦いに慣れる為ということなので、訓練は模擬戦形式で、シトリーの相手はシンクが務めている。
僕は初め庭で訓練を眺めているといったけど、あれは半分嘘である。
僕には2人の姿がほとんど見えていない。
開始の合図をした瞬間から2人は消えている。
実際には僕の目で追えていないだけだけど、空気を切り裂く音や爆発の音がそこらじゅうで聞こえている。
「はぁ、はぁ。参りました」
少ししてシトリーが負けを認める。
何があったかわからないけど、シトリーが仰向けに倒れていて、シンクの前足がシトリーのおでこに添えられていた。
「シンクの勝ち!」
何があったのか分かってない僕がシンクの勝利を告げる。
こんなに審判というか、立会人に向いていない人がいるだろうか……。
「よくやったね。言った通り怪我もさせてないね」
褒めて欲しそうに駆け寄ってきたシンクを撫でながら褒める。
「マオ様、手も足も出ませんでした」
シトリーがシュンとしながら報告する。
「残念だったね。シンクと戦ってみてどうだった?」
シンクに勝つことが目的ではない。
何か得るものがあったならそれでいいはずだ。
「私の方が早く動けているはずなのに、常に背後を取られていました。私の動きには無駄が多いのかもしれません」
そんなことがあったらしい。
「シンクから見てシトリーはどうだった?なんでずっと背後を取れたの?」
「動きが単調過ぎるワン。動きがぎこちないワン。守りが甘いワン」
「手厳しいね」
「鍛え甲斐があるワン。そしたらこの娘は我より強くなるワン。……悔しいワン」
「よしよし。シンクにはシンクの良さがあるからね」
「シンクちゃんはなんて言っているのですか?」
シトリーに聞かれる。
「動きが単調だって。それから動きがぎこちないってさ。後は守りが甘いって言ってるよ。でも素質はあるみたいだよ」
なんて答えるか迷った僕は、指摘はそのまま伝えて、その後にシンクが言ったことは言わないことにした。
「次は妾がやるのじゃ。経験を積むなら妾とやるのが適任なのじゃ」
傍観していたオボロに火がついたようだ。
それ程の戦いだったようだ。
シトリーが回復したところで2戦目が始まる。
今度は僕にも見える。
ただ、見えるといっても今度は見えすぎている。
オボロが1.2.3.4…………数えきれない。100匹はいる。
シトリーは試されているというのが分かっているようで、力任せに全てのオボロを攻撃しようとはしない。
本物と思うオボロを攻撃する。
シトリーに殴られたオボロは溶けるように地面に吸い込まれていき、別の新しいオボロが現れる。
「参りました」
そのまま30分くらいシトリーがオボロの影と戦い続けたところでシトリーがギブアップした。
ちなみに本物のオボロはずっと僕の膝の上にいた。
本物である自身の姿はシトリーから見えないように隠し、シトリーが見えているものは全てニセモノだなんて……。
「あれ、そんなところに……」
オボロがニセモノを消して姿を現したことで、シトリーが不思議そうにする。
「オボロならずっと僕の膝の上で丸くなってたよ」
僕は真実を教える
「そんな……」
シトリーは落ち込む。
「数が多かっただけで、今のは妾じゃなくても出来るのじゃ。もっと冷静なら見つけられたはずなのじゃ」
「冷静になれば見つけられたはずだってさ。それから今のは数が多かっただけでオボロじゃなくても出来ることだって」
「ううぅ」
シトリーは悔しいようだ。
「マオ様、よろしいですか?」
次はユメかなと思っていたら、フェレスさんに呼ばれた。
「あ、はい。シトリーどうする?まだ続ける?」
「お願いします」
シトリーはやる気だ。
「つぎはユメの番かな?」
僕はユメにやるか聞く
「ユメとやるにはまだ早いにゃ。どうせユメが勝つにゃ。得られるものはないにゃ」
ユメはやらないらしい。
「それなら、僕がフェレスさんと話に行っている間はシンクとオボロで相手を任せるよ。やり過ぎないようにね」
「任せるワン」
「面白くなってきたのじゃ」
「やり過ぎたらダメだからね」
オボロが不敵な笑みを浮かべている気がしたので、もう一度忠告してから、フェレスさんと話をしにいく。
「お待たせしました」
「昨日相談されていた件なんだが、マオ様は同郷の者が争いに巻き込まれるのが嫌だということで間違いないか?」
「そうです」
「あまり褒められた方法ではないが、一つ案を考えてきた。まずはこれを見てくれ」
フェレスさんは地図を取り出す。
「これは王国の地図なんだが、ここが王城のある王都で、この辺りがルマンダ侯爵の領地だ」
ルマンダ侯爵の領地は王城からは離れているようだ。
それがどうかしたのだろうか……?
「何が言いたいのかわからないです」
僕は正直に言って答えを求める。
「ルマンダ侯爵の領地は確かに広いが、王国の中心である王都とは山で隔てられている。この辺りの平地を使えなくしてやれば孤立するだろう」
「……そうなんですか?」
僕には難しいことはわからない。
「ああ。それから今回の内乱だが、私の調べた所だとルマンダ侯爵の方から仕掛けたらしい」
仕事が早いのは分かったけど、早く本題に入って欲しい。
「それで結局どうするの?」
僕は結論を言うように急かす。
「ルマンダ侯爵家を攻めるのがいいでしょう」
「えっ!?」
フェレスさんが急に驚くことを言った。
「争いを収める1番の方法は、争っているどちらかを潰すことです。もしくはマオ様の同郷を救出することですが、話を聞く限りだとそれは難しいでしょう。マオ様のような不可思議なスキルを持っているとなると、その力は未知数です。王国側と争うべきでない以上、ルマンダ侯爵側を潰すしかありません。ルマンダ侯爵家を潰すことは戦力的に可能です」
フェレスさんの言うことは理解出来た。
確かにそうかもしれない。
「ルマンダ侯爵家を潰した後、王国の矛先が僕達に向かないかな?」
僕は1番思っていることは、一度心の奥に仕舞い込んで気になったことを聞く。
「そうなる可能性はあります。しかし、ルマンダ侯爵家は魔族領からも離れています。王国がルマンダ侯爵を排除しようとしているなら話は別ですが、ルマンダ侯爵側から仕向けた反乱であればそのまま放置される可能性は十分にあります。さらに、マオ様が国王の財力として宝物庫の中身を盗んでいます。王国は現在、資金力がないと思われます。そうなると報復目的で戦を仕掛けはしないはずです」
確かにそうかもしれない。
僕の目的だけを達成するならいい案かもしれない。
「ルマンダ侯爵家を潰すってことは、ルマンダ侯爵家の領地に住んでいる人をたくさん殺すってことだよね?」
僕がフェレスさんから案を聞いてからずっと思っているのはこのことだ。
確かにクラスのみんなにはひどい思いをしてほしくないけど、その為に関係ない人を殺すのはどうかと思ってしまう。
「……マオ様、何かを得るためには何かを代償にしないといけません。そうは思いませんか?」
「……わかったよ。ルマンダ侯爵家を潰す方向で準備を進めよう。だけど、僕は代償を支払わない。無血で勝利する。その方法を考えよう」
「マオ様、それは強欲過ぎます。物事には優先順位があります。同郷の者を1番に考えるならば、見ず知らずのルマンダ侯爵は見捨てるべきです」
「言っていることはもちろんわかるよ。でも譲歩するつもりはないよ。フェレスさんは、もし魔法の深淵を覗くには魔力を全て失わないといけないとしたらどうする?深淵を覗いたら最後、それを自分で生かすことは叶わない。でも魔法を使うためには深淵を諦めないといけない」
「それは……すぐに答えなんて出せません」
「僕ならその2択のどちらも選ばない。そのどちらを選んでも後悔するから。ならどうするか……、それなら魔力を失わずに深淵を覗く方法を考える。フェレスさんもそうするはずだよ。魔法が好きなフェレスさんが魔法を捨てられるわけがない。でも深淵を諦めるなんて無理だ。その場で足踏みするくらいなら別の方法に手を出すはずだよ」
「……そうかもしれません。理想を語っているようにも聞こえますが……確かに私は両方を諦めないかもしれません」
「それならフェレスさんも強欲だね。魔法と深淵、2つの内1つを選べと言っているのに両方を選ぼうとしているんだから」
「……わかりました。もう1日時間を下さい。強欲なマオ様の為の案に修正してきます」
「無理を言ってごめんね。無理を聞いてもらっているお礼に、これがうまくいったらフェレスさんにはプレゼントをあげるよ。フェレスさんが喜ぶものだと思う。エサで釣るようなことを言ってるけど、フェレスさんはこの方がやる気が出るよね?」
「はっはっは!俄然やる気が出ましたよ」
フェレスさんは笑いながら研究室に入っていった。
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