上 下
137 / 147
国盗り編

選択

しおりを挟む
委員長と話して帰還までの期限を3年としてから数日後、僕は桜先生のところを訪れていた。

「高村達をどうするか決めました。それから、委員長と話をして決めたことがあるので、相談に乗ってください」

「はい」

真剣な顔で返事をした桜先生に、まずは魔王から教えてもらった帰還方法のことを話し、遅くても3年後までに僕は帰還することにしたことを伝える。

「わかりました。確かにその方法であればミアちゃんと別れなくて済むかもしれませんね」
このままでは大多数のクラスメイトを置いていくことになることに、桜先生は何も言わなかった。

その優しさが嬉しくもあり、辛い。

「まだミアに話していないので、ミアにとっては異世界になる地球に行くことを断られるかもしれないけど……」
ただでさえミアにとって地球は未知の世界で不安が大きいだろうに、両親以外から僕は存在を忘れられていることで、僕の戸籍もなくなっているかもしれないし、当然ミアの戸籍はない。何をするにも向こうでの生活は苦労が多いと思う。

「ミアちゃんを見ている限りでは喜びそうだけど、断られた時のことは断られた時に考えた方がいいわよ」

「はい。それで牢に入れているクラスメイトのことですが、処刑されるか奴隷となるか本人に選ばせようと思います。王国、帝国どちらの法で裁いても処刑になることをしていますし、高村達に関しては、日本の法で考えても年齢を考慮しなければ死刑になっていてもおかしくないことをしたと思います」

「……そうね」
桜先生は暗い顔をする。

「高村に唆されただけで、死刑になるほどのことをしていない人に関しては、何年か奴隷として働いたあとに反省の色が見られるなら、悪さを出来ないようにした上で自由にしてもいいと思ってます。篠塚君から王国が敗戦する前の状況は一通り聞いているので、それを基準に分けようとは思っていますが、貴族にやったように話を聞いて最終的に決めようと思ってます」

「その話には私も混ぜてもらいますが、いいですよね?」

「お願いします。それじゃあ、これから高村達に会いに行こうと思います」
僕はあれから高村には会っていない。
両腕と右足を失くした高村がほとんど身動きの出来ないまま、無理矢理生かされているとの話を聞いている。

10戦終えた後、僕が偽装を解いて元国王と話している時には既に高村は捕虜として連れてかれた後だったので、高村とはあいつが僕を処刑しようとした時から会っていないようなものだ。

桜先生と地下牢へと移動して、高村が入れられている牢の前に立つ。

「久しぶりだね。少しは反省したかな?」

「影宮!てめぇ、ぶち殺してやる!」
高村がこちらを睨みながら吠える。
左足以外を切り落とされ、牢に放置されていたというのに、まだ吠える元気があるようだ。

「反省の色はなしか……。お前は奴隷として働かせることにした。3日後までに隷属の首輪を付けなければ処刑する。死ぬか奴隷となるか考えろ」
僕は高村の顔の前に隷属の首輪を投げ入れる。

「誰がてめぇの言うことなんて聞くか!殺したいなら殺せよ!」

「話は聞こえていたよね?死ぬか、それとも奴隷となるか決めて、死にたくない人は隷属の首輪をつけるように。首輪を付けた人からは話を聞いて、いつまで奴隷として働かせるか決める」
高村のことは無視して、他の牢に入れたクラスメイトの所にも隷属の首輪を投げ入れていく。

「影宮、俺は高村に命令されて無理矢理やらされただけなんだ。なあ、助けてくれよ」
中野君が言うけど、それを今聞く気はない。

「本当にそうなら悪いようにはしないから首輪を付ければいいよ。今日は話をするために来たわけじゃないからね。また3日後に来るから、その時までに首輪をつけておいてよ」

僕は罵声を浴びながら地下牢を出る。

「大丈夫ですか?」
桜先生に心配される。

「大丈夫です。ああなることはわかってたので」

ミハイル様の所に転移して川霧達にも同じ話をしてから、3日待つ。

予想通りではあるけど、高村以外の全員が首輪を付けていた。
鑑定で隷属状態になっているのを確認してから、高村以外を牢から出して王の間に連れて行く。

「この世界に来てからおこなった悪事を経緯も含めて全てこの紙に書いてください」
連れてきたクラスメイトに紙とペンを渡して、自身の行動を振り返ってもらう。
隷属の首輪により隠すことは出来ない。

しばらく待ってから紙を回収し、一度王の間からクラスメイトを退出させてから桜先生と一緒に内容を確認していく。

「きれいに分かれましたね」
高村や元国王から身を守るために嫌々悪事に手を貸したという人と、高村に唆されたという経緯はあったとしても自己の利益のために悪事に手を染めた人とでちょうど半々くらいに分かれた。

「こっちに関しては、1年くらい奴隷として反省させた後自由にしてもいいと思いますけど、先生はどう思いますか?一応、国王と皇帝にやったように悪さが出来ないように誓約書にサインさせるつもりではいますけど……」

「そうね……。私としてはすぐに自由にしてあげてもいいと思いますけど、周りからの体裁も考えれば妥当な所かもしれません」
確かにすぐに自由にしてもいいと思うけど、この世界の人が同じことをした場合処刑される可能性が高いことを考えると、無罪放免というわけにはいかない。

「問題はこっちですけど、岡野達のように嬉々として人を殺していたような人は、死ぬまで奴隷でいいと思います。迷惑をかけた分、少しでもこの世界の為に役立ってもらう為に、他の人がやりたがらない仕事をやらせて罪滅ぼしをさせるのがいいと思います」

「これは、私にも擁護出来ません」
桜先生が俯いたまま答える。

「残りは3年後、僕が元の世界に帰る前に確認して、十分反省しているようであれば自由にする。不十分なら3年ずつ追加して確認していき、反省したところで自由にするということでどうですか?本当に反省したかは隷属状態なら聞くだけでわかるので、僕が帰った後は誰か信用出来る人に任せていいかなと思います」

「……そうしましょうか。川霧君達もですが、杉岡君は腕を無くしてますよね?奴隷として働かせるというのは、何をやらせるつもりですか?」

「義手を用意します。この世界の義手は魔導具になっているので、本物のようにとはいかなくてもある程度自由には動くみたいです。正直に言えば、ミアなら治せると思います。でも、そんなことをミアにやらせるつもりはありませんし、僕としても治してやる気はありません。罪の軽い人には武藤さんがやっている農業改革のための畑を耕したりしてもらおうと思ってます。他はこの世界の犯罪奴隷と同じように鉱山に行ってもらうか、魔物を討伐させるか、危険を伴うこともやらせようと思います」

「わかりました。私から口を出すことはありませんが、影宮君はこれで後悔しませんか?」

「決めたことが妥当なのかは分かりませんけど、決めるなら早くした方がいいのは間違ってなかったと思うので、後悔はしないと思います。それから、捕まえていた半数くらいは正当防衛みたいなものでしたので、もっと早く動いていればよかったとも思ってます」

「私がもっとちゃんと出来ていれば影宮君にこんな思いをさせなくて済んだはずなのに……ごめんなさい」
桜先生が頭を下げた。

「桜先生が謝ることなんてないです。先生がいなければもっと酷いことになっていたと僕は思います」

奴隷としたクラスメイトをどうするか決まったので、退出させていたクラスメイトを王の間に呼び戻し3つのグループに分けるが、分けた理由は伝えない。

罵声と暴言は隷属の首輪の力で黙らせて、奴隷の刑期を1年としたグループは武藤さんのところに連れて行き、城の近くに畑を耕させ、残りはとりあえず騎士団預かりとして、とりあえず3年としたグループには雑用をやらせ、死ぬまで奴隷としたグループには命の危険があることもやらせていいことにした。

後は唯一処刑を選んだ高村だな。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる

こたろう文庫
ファンタジー
王国の勇者召喚により異世界に連れてこられた中学生30人。 その中の1人である石川真央の天職は『盗賊』だった。 盗賊は処刑だという理不尽な王国の法により、真央は追放という名目で凶悪な魔物が棲まう樹海へと転移させられてしまう。 そこで出会った真っ黒なスライム。 真央が使える唯一のスキルである『盗む』を使って盗んだのはまさかの・・・

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。

SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。 サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

処理中です...