上 下
114 / 147
国盗り編

逃亡者、戦いを始める

しおりを挟む
王国との戦いの日の前日、僕とミアは戦う場所へと移動していた。

「お兄ちゃん、心の整理は出来たの?」
ミアが言っているのは杉岡の話だ。

「大丈夫だよ。一応皇帝に話をしたりして最悪な事態にはならないようにしようとはしているけど、そうなってしまった時にどうするかは決めてある」

「無理しないでね」

「うん、ありがとう」

目的の場所に到着する。
目の前には闘技場がある。即席で作ったけど、良い出来だと思う。

帝国領側には闘技場とは別に貴賓室も用意してある。
これは僕には作れないので皇帝に作るように言った。

僕は貴賓室に順番に入って挨拶していく。

魔族は魔王とゲルダさん。
獣人族はフィルとクルト。
エルフは長老。
妖精族と精霊はいるらしいけど、見えなかったので独り言を言っているかのように挨拶をした。

後は種族代表というわけではないけど、ミコト様にも来てもらっている。来て欲しいのは犬塚さんだけど……。

帝国軍が集まっているところに行く。

人数は少ない。兵士自体は騎士団長を含めて10人しかいない。
あとは皇帝と宰相などの貴族達だ。

僕は皇帝と話をする。

「特に問題はありませんか?」

「問題はないが、頼まれていた件は駄目だった。戦闘不能でも負けにはならないのは変わらなかった。一応、当事者以外が負けを認めることは可能になったが、王国側はどれだけ負けが濃厚で殺される状態になっても助けるつもりはないだろう。向こうが使う気がないから、ルールの追加を許可したって感じだな」

「そうですか……。ないとは思いますが、こちらに関してはヤバかったら僕の指示で負けを認めて下さい」
仕方ない。覚悟は出来ていた。

「もちろんだ」

僕は闘技場外のテントに行く。

「お待たせ。みんなに挨拶だけしてきたよ。ルールの変更は出来なかったみたいだから杉岡の時は僕がやるからね」

「そっか。私はお兄ちゃんが後悔しないならなんでもいいよ」

「うん、ありがとう。ミアはマズイと少しでも思ったら降参してね。領土なんかよりミアの命の方が僕にとっては大事だからね」

「うん。お兄ちゃんもね」

「大丈夫だよ。無茶はしない」

翌日、遂にこの日になった。

闘技場に戦いに選ばれた人が集まる。

帝国側は騎士団長を含めた兵士10人だ。
表向きはこの10人が戦うメンバーである。
実際には偽装スキルで僕かミアが兵士のフリをして戦うことになるけどね。
基本的には僕が戦うわけだけど、入れ替わりのタイミングなどで、怪しまれる可能性がある時はミアが戦うようにお願いしてある。

王国側は8人がクラスメイトで2人は知らない人だった。
騎士団長とかその辺りだろう。
8人の中には残念な事に杉岡が含まれていた。
意外な事に高村は参加しないようだ。

せっかく観客席まで作ったけど、ガラガラだ。
無駄に観客を呼んだりしていないので当然である。

お偉いさん達が観戦する用に貴賓席をいくつか作ってある。
帝国側には皇帝が座っており、王国側には国王が座っている。その横には高村の姿があった。

魔王やフィル達には好きな席を使ってくれればいいと伝えてある。
ただ僕が呼んだわけではあるけど、中立の立場でいて欲しいので、帝国陣営とは離れてもらっている。

両国の宰相が出て来て、今回の戦いに関して最終確認を行う。

国盗りの戦いではあるけど、1対1で戦う。

予め領土を10分割しており、1勝ごとに勝者が領土を1つ頂く。なので10敗すれば全てを奪われる。

勝ち抜き戦ではないので、勝っても負けても決着がつけば次の人に代わる。
異例である今回の戦いの申し出に王国が乗ってきた理由はここにある。

当初、皇帝は勝ち抜き戦を行うように話を持ち掛けた。
実際に勝ち抜き戦の方が都合がいいのだけど、王国側に帝国には極少数だけ強者がいて、その人物に総取りさせるつもりだと思わせた。
川霧達が戻ってこない以上、王国はこちらに強者がいる事は把握していただろう。
召喚した異世界人でも負ける可能性があると……。
なので王国はこちらの想定通り、勝ち抜き戦ではなく、勝っても交代するならばと話に乗ってきた。
こちらの提案した5人ではなく、10人ならと言ってきたのは想定外だったが、結局は僕かミアが戦うのだから、あまり人数は関係ない。

皇帝は、兵士ではない民を巻き込みたくないという理由で今回の戦い方を提案しているので、王国の条件を渋々飲む演技をした。

国王は全てではなくても、ほとんどは勝利できると思っているのだろう。始まる前から顔がにやけている。

試合のような感じではあるが、実際には戦争だ。
勝敗は相手が降伏するか、殺したら勝ちになる。
よって気絶させて戦闘不能にしても勝ちにはならないので、その場合は起きるまで待って降伏を促すか、トドメを刺す必要がある。
トップ(国王、皇帝)の判断で負けを認める事は出来るようにはなったので、負けを認めてさえくれれば殺す必要はなくなるが、国王の性格上期待は出来ない。
まあ、杉岡以外は死にそうになれば降伏してくれるだろう。

ほとんどが思惑通りに決まったが、重要な事で1つだけ思惑とは違うことになった。
それは敗者の扱いだ。降伏した場合は捕虜としたかったが、断固として認められなかったようだ。
異世界人を他の国に渡したくないのだろう。

降伏した後に危害を加えられないように、捕虜という形で保護したかったわけだけど、怪しまれるわけにはいかなかったから、条件を飲むしかなかったようだ。

それから、10戦全てが終わるまでは中断は出来ない。
途中で分が悪いと気づいても戦わざるを得ない。時間が経っても出て来なければ不戦敗になるだけだ。

これはこちらから条件を飲ませるつもりだったが、王国の方から言ってきたそうだ。
都合が良いので渋々承諾した形になっている。

最後に、全てが終わってから不正が発覚しても勝敗は覆らない。但し、それまでに不正が発覚した場合は不正を行なった戦いは敗北扱いになる。
裏を返せばバレなければ不正は黙認されているということだ。

互いの宰相が確認を終えて、問題がない事を確認し、国王と皇帝が最終的な承認をする。

これでもう待ったを掛けられることはない。

戦の参加者は控室へと移動して、闘技場は一度無人になる。

1戦目は10分後からになる。

僕は篠塚君に念話を送る。
1つ気になることもあるので聞いておいた方がいい

『こっちは問題なく始まる。そっちは問題はある?』

『大丈夫だ』

『高村は見えるところにいるんだけど、古尾の姿が無いんだ。もしかしてそっちに残ってる?』
古尾の姿が見当たらないのが気になっていた。戦うメンバーに選ばれていると思っていたんだけど……

『そっちにいないのか?』

『見当たらない。もしかしたらそっちに残ってるのかも知れないから気をつけて』

『わかった。それじゃあこっちも行動に移すから、連絡が取りにくくなる。そっちもだと思うが頼むな』

『こっちは任せといて。そっちはお願いね』

『おう』

僕は1戦目に戦う兵士に偽装して入れ替わり、控室から闘技場へと向かう。

最初の相手は誰かな……
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる

こたろう文庫
ファンタジー
王国の勇者召喚により異世界に連れてこられた中学生30人。 その中の1人である石川真央の天職は『盗賊』だった。 盗賊は処刑だという理不尽な王国の法により、真央は追放という名目で凶悪な魔物が棲まう樹海へと転移させられてしまう。 そこで出会った真っ黒なスライム。 真央が使える唯一のスキルである『盗む』を使って盗んだのはまさかの・・・

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。

SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。 サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

処理中です...