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国盗り編

逃亡者、滑り降りる

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翌朝、魔王城で朝食を戴いた後、魔王に挨拶をしてから地上に戻ることになった。

その際、魔王に昨日先生から聞いた事を話したら、魔王の見解も同じで、こっちの生物が他の世界でそのまま生きることは難しいだろうと言われた。
その上で再度ステータスを上げるように言われる。
教えてはくれないけど、魔王は何か知っているのではないかと思う。

それから、ゲルダ様が魔王城に帰っているので、帰る前に会いにいくことにした。
報告しておいた方がいいこともあるし……

サトナさんにゲルダ様の部屋に案内してもらえるように頼んだら、誰?って顔をされた。
やっぱり魔王城では偽名を使っていないようで、本名で聞いたらちゃんと伝わった。

コンコン!
「失礼します。ファルナ様、ハイト様がお会いしたいとおっしゃられています。中に入れてもよろしいですか?」
サトナさんがゲルダ様もといファルナ様に聞く

「構いません。入ってもらって下さい」
許可が出たので部屋の中に入る

「ゲルダ様お久しぶりです。ここではファルナ様と呼んだ方がいいですか?」

「どちらでも構いませんよ」

「では呼び慣れているのでゲルダ様と呼ばせてもらいます。ゲルダ様は僕が王国と帝国の戦の後に種族間の交流の場を設けようとしているのは知っていますか?」

「聞いてはいます」

「事後報告にはなりますが、獣人の代表はフィルに任せることにしました。ご存知だとは思いますが、ミハイル様の屋敷に泊まらせていただいた時にいた獣人2人の姉の方です」

「存じています。クランのリーダーをされている方ですね。私よりも適任でしょう」

「そう言ってもらえてよかったです。聞きたかったんですが、なんで姿を隠しているんですか?地上では行方不明ってことになってますよね?」

「私の力だけでは獣人族を守ることが出来なくなったんです。どうしたらいいか悩んでいた時に魔王様に声を掛けていただきました。魔王様の助力がなければ獣人族は人族に蹂躙され尽くしていたでしょう。虐げられることにはなってしまいましたが、あの時にはあれが最善でした。結果的に私は魔王様の下に就くことになりましたが、獣人族のトップが魔王の下に就くというのはあまり良いものではありません。なので行方をくらませることにしたのです」

「そうでしたか。言いづらい事を聞いてすみませんでした」

「構いませんよ。それにあなた達のおかげで獣人の生活は良くなってきています。私は過去の栄光に縋るつもりはありませんので、今のまま裏方をやっているほうがいいのです。ただフィルちゃんとは一度話をしたいですね」

「フィルに伝えておきますね。良かったらゲルダ様も種族間交流の会議に参加して下さい。魔王様の補佐という形になるとは思いますが……」

「魔王様が補佐は他の方を考えていらっしゃるかも知れませんので、返事は後日とさせて下さい」

「わかりました」

その後、もう少しゲルダ様と話をして部屋を出る。

地上に戻る為、城の外に出るとみんな既に揃っていた。
僕が最後のようだ。

「お待たせ」
僕は転移で帰れるけど、小山君と地上に戻ってから戦うことになってしまったので一緒に降りることになっている。
まあ、ミアもいるから一人で帰ることはしないけど……

「えっと、魔王様がみんなまとめて送ってくれるって言ってたけど……」
どうやって送ってくれるかは聞いてなかった。
そして、なんだかみんなの様子がおかしい

「どうしたの?」

「帰る準備をしてくれたのは良いんだが、あれはちょっと勇気が……」
小山君が答える

小山君が見つめる先を見にいくと、半円の筒が螺旋状に地上まで延びていた。
中はツルツルになっている。
これはあれだ。滑り台だ。
見た目はウォータースライダーに近いけど。

「どう?気に入ってくれたかな?」
僕が滑り台を見ていると、魔王に話しかけられた。

「これで地上まで降りるんですか?」

「君の階段を見て思いついたんだよ。これはすごく楽しいよ」
魔王は満面の笑みで言った。魔王は既に自分で試しているようだ。安全かどうかの判断はしてくれたらしい。

「滑っている最中、空中に放り出されたりはしないんですか?結構スピードが出そうですけど……」

「大丈夫だよ。結界を張っておいたからね。見えない壁があると思っていいよ。最初は全部土魔法で作ったんだけど、外が見えないとあんまり面白くなかったよ」
魔王は自信満々に答える。

僕は近づいて、筒の上あたりを確認する。
見えないだけで、何か硬いものがある。

確かにこれなら放り出される心配はなさそうだ。

委員長達の顔は引き攣っている。

「とりあえず、僕から降りるよ」

「ひゃーー」
ジェットコースター気分でなんとなく声を出しながら地上まで降りる。

これはヤバい。めっちゃ楽しい。

ぼくは転移で魔王城まで戻る。

「魔王様、これ最高です。すごく爽快です」

「だよね。これは君達が帰った後も壊せないよ。隠蔽で隠しておけばバレないからね」

「お兄ちゃん、そんなに楽しいの?」
ミアに聞かれる

「うん、かなり」

「ちょっと怖いから一緒に降りて」
ミアに頼まれたので、僕は2人で滑ることにする。
同時に滑った方が危ない気もするけど、問題はないだろう。

楽しめるようにミアを前にして滑る。

「楽しかった。もう一回やりたいくらい」

ミアにも好評だった。

「それは良かった。僕はまた上に戻るからここで待ってて」

「うん」

僕はまた魔王城に転移する。

「ミアも楽しかったって言ってました。もう一回やりたいくらいだって」
僕は魔王に伝える

「それは良かった。じゃあ……召喚!」

魔王の目の前に魔法陣が現れてミアが召喚された

「あれ?」
ミアは困惑している

「魔王様にミアがもう一回やりたいくらい楽しかったって言ってたって伝えたら、呼んでくれたんだよ」
驚きながらも、ミアに説明する

「魔王様、ありがとうございます」
ミアは魔王にお礼を言った後、もう一度滑っていった。

その様子を見て委員長達も覚悟を決めたようだ。

委員長が滑り、小山君が滑り、先生が滑る。
そして児玉君が滑り降りた時に問題が起きた。

僕は魔王城側にいたので何が起きたのか最初はわからなかったけど、児玉君が滑り台の出口から吹っ飛んで地面を転がり、瀕死になったらしい。
すぐに委員長が治したから問題ないみたいだけど、考えが甘かったようだ。

この滑り台、ステータスがある程度ないと危険だ。
かなりのスピードが出ているし、最後の着地が難しい。

僕とミア、それから先生は何も問題なかったけど、小山君と委員長はうまく着地出来ずにコケたようだ。2人共ステータスは高いので、怪我をすることはなく楽しかったそうだ。でも児玉君のステータスでは耐えられなかったらしい。

滑る順番によっては死人が出ていたな。危なすぎる。
よく考えたら、魔王が試したところでなんの安全性も保証されてなかった。
あの魔王なら魔王城からそのまま飛び降りても問題なさそうだからね。
滑ったのに、危険に気づかなかった僕には何も言えないけど……

僕は魔王に説明して、残っている人は魔族の方達に地上まで運んでもらうことにした。

僕はみんなが地上に降りたことを確認して、魔王にお礼を言ってから滑り台で地上に降りる。

3度目でもやっぱりめちゃくちゃ楽しかった。
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