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side ダイス⑥

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王位が決まり、やっと少し落ち着くことが出来ると思ったが、チーム戦最終日に控室で準備をしていると、外が急に騒がしくなる。
外に出て確認すると、魔物が迫ってきているという。

俺は控室に戻り、エルクとラクネにスタンピードが起きたことを伝えて、城に向かう。

「ルインダンジョンから魔物が溢れてきている。このままだと王都どころか、世界が滅ぶかもしれないな。王子様はどうするつもりだ?」
城に向かう途中でロックに話しかけられる。

「なんとかして国を守る方法を考えるしかない。何が起きているのか知っていることがあるなら教えてほしい」

「国王の第二夫人の協力者がルインダンジョンに施していた仕掛けを発動させた。ダンジョンは階層ごとに空間が分け隔てられている。それがなくなり、本来最下層にいるはずの魔物も外に出られる状態になっている。魔物は餌を求めて目下進行中だ」
またあのクソ女か!

「恥を忍んで頼む。力を貸してくれ。このとおりだ。頼む」
俺はロックに頭を下げる。

「力は貸してやる。このままだとエルクも死ぬからな。だが、あのダンジョンにはエルクでは倒せない魔物も多数存在している。……何かの拍子に俺が外に出られればなんとでも出来るが、俺の意思で表に出ることは出来ないからな。期待はするな」

「感謝する。ありがとう。この恩は必ず返す」
俺はロックを通してあの男にお礼を言ってから、城に向かい直す。

「今すぐ騎士団を集めろ!南門にて魔物の進行を少しでも食い止める。1人でも多くの民が逃げる時間を稼ぐんだ!」
俺は城に入り、目に入った者に指示を出す。

「順次向かわせております」

「そうか。親父はどこにいる?王座か?」

「はい。王座にいらっしゃるはずです」

「わかった。お前もやることを終えたら逃げろ!城仕えだからと死ななければならないことはない。職務を放棄することは許さないが、わざわざ死を選ぶ必要はない」

「ご配慮感謝致します」

王の間に入ると、親父が宰相達と話をしていた。

「状況はどうなっている?方針は決まっているのか?」

「まだだ。騎士達で対処しきれればいいのだが……」

「無理だ。王都は捨てるしかない。方向からして、魔物はルインダンジョンから溢れている可能性が高い。俺達にやれることは1人でも多くの民を逃すことだ」

「王都を捨てれば、この国は終わりを告げる」

「そんなことはわかっている。いいから動け。時間を稼ぐのと、殲滅を目標にするのでは戦い方も変わるだろう。騎士は順次向かわせていると聞いている。もし、殲滅するように指示を出していたなら、時間を稼ぐように指揮官に伝えさせろ。このままだと騎士達の死が無駄になる」
俺は宰相に言う。
優柔不断な親父よりも俺が指揮を取った方が良さそうだからだ。

「……かしこまりました」

「俺はクソ女の所に行ってくる。タイミングからして、あいつが何かやった可能性が高いからだ。もしかしたら対処出来るかもしれない」

「お供します」

俺は騎士を連れて地下牢へと行く。
王族を守る余裕なんてないはずなんだがな。

「魔物が襲ってきた。お前の仕業だな」

「ふふふふ……ふはーっははは。こんな国滅びればいいのよ」
高笑いする姿を見て殴りたくなるが、今は抑える。

「お前も死ぬことになるが、それでいいのか?」

「どうせ死ぬのだから関係ないわ。残念だったわね。王になる前にあなたも死ぬのよ」

「魔物を止める方法はないのか?」
挑発は無視する。

「そんなものないわ。私はダンジョンの核を共鳴させて、強制的に暴走させただけ。収める方法なんて知らないわよ」

「尋問官を連れてこい。嘘を吐いている可能性もある。何でもいいから情報を吐かせろ」
俺は付いてきていた騎士に指示を出す。


「あいつが犯人だった。どうせ死ぬのだからと隠しもしなかった。尋問官に情報を吐かせているが、魔物の侵攻を止める方法は知らなそうだ」
俺は王の間に戻り、宰相に報告する。

「……承知しました」

「勇者の装備はどこにある?」

「アレをどうするつもりだ!?」
宰相に聞いたのに、親父が割り込んでくる。

「俺達が取れる手段で可能性があるとすればアレくらいだ」

「アレを使えば、使用した者も耐えられず死ぬ」

「そんなことはわかっている。騎士達には悪いがここで死んでもらう。まずは俺が先陣をきるから、それで許してもらうしかない」

「お前は次の王だ。やらせるわけにはいかない」

「王ならリリスが務める」

「駄目だ。やはりアレを使うのは危険すぎる」

「宰相、装備はどこにある?」
親父は言う気がないようなので、宰相に聞く。

「存じておりません」
宰相が首を横に振り、答える。

「くそ!俺は現地に行く。お前らは親父を説得して勇者の装備を持ってこい。いいな」

「お待ち下さい!」
俺は静止を無視して城を出る。
あの様子だと勇者の装備を使うという判断はしないだろう。

城を出ると、既に王都内に魔物が大量に入り込んでおり、亡くなった者の姿が見える。

南門の方には見たことのない赤い龍が多数飛んでおり、その中に一体だけ異彩を放つ白い龍の姿がある。

「今から行っても意味がない。逃げるぞ」
何が出来るかわからないまま南門に向かっていると、ロックが俺の前に降りたつ。

「国のトップが民を置いて逃げるわけにはいかない」

「……面倒だな」
ロックがそう言った後、俺は意識を失った。

目を覚ますと、学院長がいた。
「目を覚ましましたか?」

「ここは……学院か。どうなったんだ?生きているようだが?」
俺は自分の手を見ながら確認する。

「ロック君……命令を出しているのはあの方だが、あなたをここに投げ込んでいきました。スタンピードは収まりましたよ。あの方がまた表に出てきて全て片付けたようです」

「そうか……。また大きな借りが出来てしまったな」

「あの方がいなければ王国どころか、世界が滅んでいたかもしれません。あの龍には私でも何も出来ずに殺されたでしょう」

「死者がどのくらい出たかわかるか?」

「かなりの数が犠牲になったのは確かですが、詳細は国王様が騎士団に指示を出して調べるでしょう。あの方から伝言があります」

「なんだ?」

「今回のことは許されない。罰は俺が与えるから、勝手に処刑するな。とのことです」
あの女は触れることさえも憚られる尾を無遠慮に踏みにじったようだ。

「わかった。やれる限りで善処する。それで、あの男はどこに行ったんだ?」

「今頃はいつものエルク君に戻っていると思いますよ」

「そうか。迷惑を掛けた。当分の間、学院を休むことになる。シリウス先生に伝えておいてくれ」

「わかりました。ダイス君だけでなく、ほとんどの生徒は登校出来ないでしょう。これでは対抗戦も中止するしかありません。残念です」

それから俺は、毎日城に篭り事後処理を進めていく。

「誰だ?」
急に目の前に現れた人物に冷静を装って聞く。
俺の部屋には誰もいなかったはずだ。

「ルフと申します。この姿で会うのは初めてですが、ロックとして幾度もお会いしています。現在、ロックの姿でやるべきことが他にありますので、矛盾が出ないようにこの姿で会いに来ました」

「まるで、ロックが別にいるような言い回しだな」

「ええ。ロックは現在、別の役割をこなしています」
ロック同様、何を考えているのか掴みにくい奴だ。

「それで、何の用だ?」

「帝国が宣戦布告致しましたね。正式に使者が来た以上、今回は止まらないでしょう。こんな時に争うなど本当に人間は愚かな生き物です」
ルフは呆れた顔をして言った。
まるで自分はその愚かな人間ではないかのような口振りだ。

「……そうだな。言う通り愚かかもしれない」

「何かお考えはおありですか?全ての可能性を考えるなら、帝国にも勝てそうではありますが……」
何か試されている気がする。

「帝国に甚大な被害を出す方法ならあるが、それをすれば今度は魔国を相手にすることになるだろう。魔王が黙っているとは思えない。無駄に兵士達の命を散らすくらいなら、帝国から王都までの領土を明け渡すのがいいだろう。王族として戦いもせずに領地を明け渡すことが正しいとは思わないが、被害を最小限にするにはこれが最善だと思う」

「賢明な判断ですね。魔物相手にあの装備を使うならまだしも、戦に用いれば、かの御人は黙っておられないでしょう。しかし、お父上が戦もせずに領地を明け渡す判断を致しますでしょうか?」

「しないだろうな。開戦する前から降伏すれば、今後ずっと下に見られるからな。残念だが、多くの兵達が犠牲になるだろう」

「この戦、私の方で止めましょうか?」

「何故協力する?前にロックには断られたが?」
実際に止めることが出来るのだろうが、なぜ協力する気になったのかがわからない。

「あの時はお断りしましたが、実際に戦になれば手を貸すつもりでした」

「何を考えている?王国を助けて何のメリットがある。エルクが王国に住んでいるから助けてくれるのか?」

「エルク様の為ではございません。エルク様含め、一部の方は変わらず守る予定でいますが、王国に拘る必要はございません。私の主人が戦で人が大勢死ぬのを良しとしないだけです」

「意味がわからないな」
あの男が他人の命を大切にして動くとは思えない。

「無理に知る必要はありません。それでどうされますか?」

「戦が無くなるならそれに越したことはない」

「かしこまりました。ただし、いくつか条件があります」

「なんだ?」

「まず、帝国は私が止めますので、それを機として王国が攻めるみたいな馬鹿な真似はしないこと」

「当然だ」

「次に、ダイス様がこの時点で国王になること。リリス様でも構いません。今の国王様では、似たことが起きた時に無駄な犠牲を出しそうだ」

「確約は出来ないが、最善を尽くす」

「いいでしょう。最後にですが、例の罪人の身柄を渡していただきたい。主人の手を煩わせたのです。処刑されるだけでは、許されません」

「王位が変われば問題ないだろう。少なくても勝手に処刑はさせないと約束する」

「契約成立ですね。では、結果をお楽しみにお待ち下さいませ」
ルフはそう言った後、姿を消した。
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