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第三部 宰相閣下の婚約者

【アンジェス王宮Side】護衛騎士サタノフの交宜

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いつも読んで頂いてありがとうございますm(_ _)m

本日連載丸二年となりました。
息抜き?の閑話をどうぞお楽しみ下さい(;'∀')


.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜



『なぁ』
「っ⁉」

 王宮内、護衛騎士用の居住区でひと息ついていると、突然後ろから話しかけられて、危うく腰に差してある短剣を抜きそうになった。

『あの面白いな、おまえの主』
『おま……っ、気配を消して突然現れるな! 危うく短剣を突き出すところだったぞ⁉』

 かつての同僚で、今は王都警備隊に所属しているキリーロヴ・ソゾンは、正直言って自分よりも実力が上だ。
 何せ諜報部隊ではなく、暗殺含めた実行部隊、より裏のドス黒い部分を見てきた男だ。

 ただ自分と同じく、ほぼ平民と変わらない貴族とも呼べない貴族層で、特殊部隊内部においてレイフ殿下の近くにも侍れなかった、要は世渡り下手だった。
 恐らくはコイツほど実力と現状が乖離している男もいないだろう。

『まあ、まあ。レヴなら実際に短剣を手にする前に気付くだろう?』

 ……たまたま部隊の中で、言葉の通じる人間が他にいなかったことも相まって、妙に懐かれたまま、今に至っているのだが。

『今はな、としか言えないがな』
『正直だなー。ま、そんなレヴだから特殊部隊の中でも信用出来たんだけどな』
『そりゃ、どうも』

 この時もいきなり現れた挙句に、こちらの間合いに入って来たことをまるで気にせず笑っている。

 真面目に相手などしていられないと、ツッコミを入れることは諦めた。

『バッカウ隊長への報告は済んだのか』
『済んだ。そっちもイデオン公爵への報告ねまわしは済んだんだろう?』
『おまえ、その言い方……』

 今のキーロの上司、王都警備隊の隊長であるコーク・バッカウは、イデオン公爵領防衛軍の副長と似ているところがある男だ。

 見た目ではなく、腕っぷしよりも頭の回転の速さが前に出ている点で、だ。

 キーロ含めあの隊長よりも強い隊員は何名かいるはずだが、特殊部隊から流れた隊員と、行くあてのない下位貴族の三男以下、要は腰掛け隊員とをまとめて抱えているあたり、並みの神経ではやっていけまい。

 この両者は、本来どうやってもまとまらないモノのはずだ。

 当のバッカウ隊長自身はクヴィスト公爵領内伯爵家の庶子らしいが、愛妾を認めていない妻側から本家への出入りは認められていない状態らしく、他にまともな身の置き所が見つけられなかったようだと、キーロからは聞いている。

 とは言え背後にバッカウ伯爵家の影がどうしても見えるために、不満の有無は横に置いて、その指揮下に皆が付き従っているのだと思われた。
 特に実家が貴族階級の連中は、肩書にどうしても弱くなる

 当のキーロは、特にそのことで不便を感じたり不利益を被ったりもしていないようなので、こちらとしてもそれ以上のことは深くは聞かない。

 王宮護衛騎士である今の自分には、さほど重要な話でもない。
 あとは情報として知っていれば良いだけの話だ。

『根回しとか言うな。あくまで受けた依頼を遂行しただけだ』

 部屋の隅で蹲って眠る〝手紙鳥ヘリファルテ〟に視線を向けながらそれだけを言うと、キーロも『そうだった』と、思い出したように笑った。

『いや、あの鳥が頭の上に乗ったがそうだ――とか、最初は何言ってんだと思ったが、ホントに一直線に飛んで行ったもんな。魔力仕込んでもいないのに。冗談抜きで驚いた。しかもその後は周囲がドン引きするくらいの可愛がりっぷり。いや、今までにいないタイプのだな。その後の交渉とか指示とか見てると、それまでとの乖離も凄い』

 興味湧くの分かるわー、と真顔で言われ迂闊に反論も出来ない。
 そもそもが、潜入を見破られて捕まったと言う出だしをあまり語りたくない。

 そして今はドン引き程度で済んでいるかも知れないが、そのうち某宰相閣下の沸点を越えるんじゃなかろうか……なんてことは、己の身の安全のためにも内心で思うに留める。

 いや、既に越えかかっているのかも知れない。
 裏で〝鷹の眼〟連中が「キヴェカス領の氷窟が……」などと怯えていた片鱗を、今日初めて目の当たりにしたからだ。

 思わずぶるりと身を震わせてしまっていたことに、気付いたキーロが首を傾げている。

『うん、風邪か? まだ本格的に寒くなるには早いだろう』
『……気にするな。おまえがもし今より宰相閣下と接点が深まるようになったら分かる』
『ふうん……?』

 一瞬怪訝そうにはなったものの、深く追求してこないのは元特殊部隊にいた互いの立場がなせる業だろう。

 必要なら話す。だから話したことに注意深く耳を傾ければ良い。
 暗黙の了解みたいなものだ。

 キーロもやはり根掘り葉掘り聞いては来ず、むしろ蹲って眠るヘリファルテの方をまじまじと覗き込んでいた。

『リファ、だっけ? 名前つけるほど可愛がっていたのかと思ってたら、名付けたのあのなんだな』

『最初からそう言ってたろうが』

 最初の頃は「来い」「行け」だけで良かったはずが段々と反応が鈍くなり、しまいには「リファ」と呼ばないと見向きもしなくなった時の羞恥心ときたら。

 その上「可愛いは正義!」で全てを片付けられた。

 今となっては周囲がそれに馴染んでしまった。

 無意識の内に眉根が寄っていたのかも知れない。
 おまえのそんな表情かおを見られる日が来るとは、とキーロが爆笑した。

『まあ、でも〝手紙鳥コイツ〟も楽しそうだし、イイんじゃないか? 群れからこぼれ落ちた時点でどうあっても元の生態系には戻れなかっただろうし』

『それはまあ……そうなんだが……』

 人間の手垢が付いた野生動物の子には、何であれ親も群れも二度と見向きもしないとは、通説の如く語られている話だ。

 それでも手紙を運ぶことを覚えるまでは、何とかして野生に戻してやれないものかと悩んだ時期もあったのだが。

 いつの間にやら荒んだ日常を送っていた特殊部隊内での和みになり、挙げ句の果てには「聖女の姉」の溺愛を受けるに至った。

つがいとか後継者……じゃなくて、鳥か? 探さないのか?』
『ああ……それな……』
『王宮管理部が魔道具の改良進めてるんだろ?』

 手のひらサイズのヘリファルテ種が手紙を運べるのは、ひとえに管理部の知人が気まぐれに作り出した縮小する手紙の魔道具のおかげもある。

 安定して生産出来るようになれば、他にもヘリファルテに手紙を運ばせられるのではと密かに研究されているのもまた確かだ。

『それはそうなんだが、他人の魔力に反応して、手紙を運んで戻って来るとなると明らかに個体差も出て来るだろうしな……なかなかに手探りの研究になるだろう』

 今、地方の森に生息しているであろう野生を仕込むのと、リファにそれこそ番をあてがって子どもにそれを仕込んでいくのと、それすらもどちらに可能性があるのか未知の世界の話になる。

『まあそれ以前に、番だ子どもだとなれば、レイナ様が喰いつかないわけがない』

 四六時中愛でられる個体ヘリファルテをレイナ様にと〝鷹の眼〟の連中は考えているようだが、こちらから見ていると、果たしてレイナ様はヘリファルテ種なら何でも良いのか、最近は疑問に思わざるを得ない。

 どう見ても可愛がっているのではないかと思うのだ。

 かと言って、今更リファをと言われるのも――困る。

 一番いいのは、リファと番との間に子どもが生まれて、そのうちの一羽でも二羽でも良いが、レイナ様が育てることなんじゃないかと最近では思い始めている。

『番――探してみるか? リファ……』


 自分とキーロ、二人の視線を受けたリファは、自分が話題になっているなどとは露知らず、小さな寝床ですやすやと眠っていた。








.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜


最初「リファちゃんの日常」で書こうとした閑話ですが、リファちゃんの一人称語りに行き詰り、ちょっとした変化球で飼い主レヴ友だちキーロの男子会(笑)、お題はリファちゃん――にしてみました。

皆さまからの励ましのコメントにつきましては、全て目を通させていただいています。
本当に嬉しく思っています。

年末年始の間に少しずつ返信させていただけたらと思っているところです。

ぱきっと折れた創作意欲を今チャージしています。
年始1/5(木)からの再開を目標にしています。

今年もたくさんの方に読んでいただいて感謝申し上げます。
来年は続刊の発売を目標にしています。
どうか応援宜しくお願いします……! m(_ _)m
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