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第二部 宰相閣下の謹慎事情

444 お荷物届きました

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 朝。
 侍女さん達が何人もやって来て何事かと思ったら、朝食であれば、メダルド国王も時間がとれそうだから――と言う事で、急遽、関係者一同集まっての朝食の場がセッテングされたそうで「お仕度手伝います!」と、あれこれ服や髪、化粧を整えられた。

 どうやら、書記官衣装でない方が良いと言う事らしい。

 そのまま、侍女さん達に先導される形で、朝食の用意された部屋に案内される。

「お待たせしてしまい申し訳ございませんでした」

 部屋にはアンジェス組始め、メダルド国王、ミラン王太子がいた。
 慌てて〝カーテシー〟をとる私に、メダルド国王は鷹揚に片手を上げた。

「ああ、構わんよ。急に場を設けたのはこちらだ。ドレスにして貰ったのは、表向き、深刻な話ではなく友好の一環と周囲に知らしめる為なのだ、許せ」

 与えられた席に腰を下ろしながら、ざっと周囲を見回したものの、テオドル大公の姿はない。

 なるほど、その事をなるべく狭い範囲に留めたいと言う事なんだろう。
 蟄居謹慎を言い渡されている、宰相とジーノ青年の姿もない。

「すまない。アンジェスの方達からすれば、大公殿下を蔑ろにしている様に受け取られるかも知れないが、ベッカリーア公爵家に動かれたくないと言うのがあるんだ。どうか今少しの間堪えては貰えまいか」

 ミラン王太子が、メダルド国王の言葉を引き継ぐかの様に隣で口を開いた。

 何でもお茶会の件以降メダルド国王は、用件の緊急性の高さを無視する形で会議を詰め込んで、ベッカリーア公爵家関係者を王宮から外に出さないと言う地味な嫌がらせ…もとい、引き留め工作を行っていたらしい。

 配下に証拠を探させつつ、外部から公爵家関係者への連絡が届きにくくなるようにしていたとか。

「側室夫人にしろ、宰相令息グイドにしろ、例え夫人の実家ベッカリーアに入り浸っていたにせよ、表向きは『宰相家の人間』になる。正面からいけば、どうしたって『宰相家』を咎めざるを得ない。ならばと茶葉の取引先を探らせてはいるが、子飼い止まりの追及しか出来ていない。実は其方の商会の従業員がとの話が、こちらとしては渡りに船だった」

「……ソ、ソウデスカ」

 ――空となる宰相家に、自分が後見となる子息、息女を送り込む。先代陛下の御落胤オトシダネとの主張になるなら、さすがに下位貴族では対応が出来ない話だ。

 上手くいけば今日の内にも、議会の中で公爵家関係者を追い込めるかも知れないと、ミラン王太子は微かに口の端を歪めていた。

「それとここだけの話、ユレルミ族の族長が折れてくれた。先ほど連絡が来て、今回限りと言う事で〝転移扉〟の使用を認めてくれたそうだ。今、ジーノがノヴェッラ女伯爵に位置情報を伝えて〝転移扉〟の起動準備に勤しんでくれている」

 連絡を受けたユレルミ族、ハタラ族、ネーミ族にしても、イラクシ族の後継者争いなら勝手にすれば良いとのスタンスだったらしいけど、街道封鎖はさすがにマズいと思ったらしい。

 ユレルミ族の拠点で一度、イラクシ族を除いた状態で話をしようと言うところまで、まとまったそうだ。

「この後、ギルドの彼が来たら出発して貰おうと思っている。本来であれば当王家だけで解決すべき事であるのは承知の上だが、早期の事態解決の為と、どうか協力をお願いしたい」

 バリエンダール側を代表する形で、ミラン王太子が頭を下げている。
 メダルド国王は、立場上仕方がないと言うべきか、目礼に近い形でその意を示した。

 こちらは、ベルセリウス将軍とマトヴェイ外交部長が顔を見合わせた結果、代表する形をとったのはマトヴェイ外交部長だった。

「…殿下、それは我が国の王宮に対してもまだ口外するなと仰る?」

「いや。もちろん、それはこの後使者を立てる。それと、そもそもの貴国からの文書に対する返信は、やはり当初の使者であるテオドル大公に持ち帰って貰う事が筋と思い、この後の使者には持たせない事にしている。それをもって、我が国がテオドル大公の安否確認を決して蔑ろにしない事の証明になればと思っているのだ」

 ここを公式の場と想定し、ミラン王太子は「テオ殿」とは言わなかった。
 マトヴェイ外交部長は、微かに眉根を寄せている。

「確かに、本来の文書への返信が遅れると言う事は、それだけ貴国の印象が下がる事にも繋がる。なるべく早く解決をし、大公殿下や我々を帰国させる意志はあると、そう言う事ですか……」

「そう取って貰って結構だ」

「そちらからも護衛は出される?」

「王宮の護衛と言うよりは、ジーノ配下の〝ダーチャ〟の連中を動かすつもりだ。王宮護衛が動くと、ベッカリーア公爵家に動きを悟られる可能性もある。ジーノと〝ダーチャ〟は本来まとめて蟄居中の筈だが、そちらをもみ消す方が容易いのでね」

 殿下、ぶっちゃけて「もみ消す」とか言ってますね。

 この人多分、清濁しっかり併せ呑める手強い王様になるんじゃないだろうか……。

 ギーレンの突出を抑えると言う、周辺諸国のパワーバランスが理解出来れば、ミルテ王女の縁組に関しても話は聞いてくれるかも知れない。

 まあ、エドベリ王子の為人ひととなりをどう聞いていて、どう判断しているかにもよるだろうけど。

 話の水を向けてみるとしたら、サレステーデの自治領化に関して、アンジェスとバリエンダールとの合意が取れた頃くらいなのかも知れない。

 あんなお茶会もあった以上、今は未だ時期尚早かも知れない。

「陛下、王太子殿下」

 そこへメダルド国王付のリベラトーレ侍従長が、ナザリオギルド長とシレアンさんの到着を告げに近付いて来た。

「ああ、そうか。ならばこのまま〝転移扉〟のある部屋へ――」

「いえ、それが、ユングベリ商会に今日午前中に納品される予定だった品を、代わりに引き取って来たから、先に納めたいと――」

「うん?」

 まったくこの場に関係ないと言わんばかりの話に、メダルド国王が怪訝そうだ。

 私は「申し訳ございません!」と、慌てて立ち上がった。

「本来の予定ですと、今朝買い付けをして、アンジェスに持ち帰って商会の皆で試食や検討をする予定をしていたものですから。受け取りに行けずに困っていたところ、ギルド長が代わりに受け取って来て下さる……と」

「そ、そうか。では先にここで中身を確認した方が良いか」

「そうして頂けますと非常に助かります。その後、今ご用意頂いているお部屋に、しばし置かせて頂きたく」

 バルトリと双子が泊っている宿よりも、王宮内に置かせて貰っておく方が、同じ盗られるにしても補償が違うだろうし、そもそも警備も違う筈だ。

「うむ。まあよかろうよ」

 頷いたメダルド国王は、リベラトーレ侍従長に、ギルド長達を今いる部屋へと通すように言付けた。
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