上 下
325 / 798
第二部 宰相閣下の謹慎事情

【ハルヴァラSide】ミカと家令の追憶(前)

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 そもそもは、レイナ様とシャルリーヌ様と、イデオン公爵邸で〝てんぷらパーティー〟と言う名の昼食会をする予定だったから、僕は楽しみにしていたんだけど、なんでも「一言で語れないアレコレ」があったとかで、結果的にその昼食会は、イデオン公爵様どころかフォルシアン公爵様にコンティオラ公爵様、スヴェンテ老公爵様までが加わっての、僕には主旨の良く分からない昼食会になっていた。

 ああ、でも、スヴェンテ老公爵様は、以前の定例報告の時に父上と会ったり、そのまた父上――こちらはちゃんと「お祖父さま」で良いかな――と王都学園で一緒に勉強した、なんて言う話も聞けたから、これは帰ったら母上に話をしてあげなくちゃ!と、内心で喜んでいたんだ。

 そのままスヴェンテ老公爵様の邸宅おやしきで、もっと話を聞かせて貰える…なんて聞いちゃったら、とてもじゃないけれど「行かない」なんて言えなかった。

「僕、レイナ様と行きたい!スヴェンテ老公爵様も、今日のお料理の話とか、レイナ様とももう少し話をしてみたいって仰ってたよ?」

 そろそろ、僕はハルヴァラ領に帰らないといけない。
 そんな空気は、僕にも読み取れる。

 だけど、だからこそ、なるべくレイナ様と過ごしたい!
 イデオン公爵様は毎日一緒なんだから、こんな時くらい、ワガママ言っても良いよね⁉︎

 元々、王都中心街の洋菓子店でのお店番をしていた子が戻って来ていて、それも、僕が引き上げる良い機会だと思われたみたいだった。

 最初は、レイナ様の事を探りにギーレンから来ていたって聞いて、僕はあんまり良い気がしなかったんだけど、があって、当面は敵対しないと言う事になったらしいと、ウルリック副長が説明してくれた。

 ――お店は辞めるらしい。

 思ったよりケガの回復が進まなくて、いつまでも休んでいたら迷惑をかける…と言う事にしたみたいだった。

 洋菓子店の店長には、一緒に来ていた双子の兄が、この日は妹になりすまして来ていて、実際には〝鷹の眼〟からつけられたらしい傷を、それらしく見せながら、そんな風に退職理由を説明していた。

 いつでも戻って来て良いからね…と、裏のない笑顔で言える〝イクスゴード〟の店長は、本当にイイ人だと思う。

 そして、まるでそれを待っていたかの様に、僕が領に戻る日も決まった。

 スヴェンテ老公爵様の邸宅おやしきに行って、その足で帰るって!…って、さすがにビックリしたけど、ウルリック副長は、何だか乾いた笑い声を洩らしていた。

「まぁ…今、お館様も余裕がない状態ですからね……」

 ウルリック副長が更に遠い目になった意味は良く分からなかったけど、こればかりは、あと10年くらいしないと、僕には分からないだろうと言う事らしい。

 確かに僕は未だ、イデオン公爵様やレイナ様の話す事に耳を傾けても、一度では理解出来ない事の方が多い。
 少し簡単な言葉で言い換えて貰って、何とか分かるかどうか…と言ったところだ。

 まだ6歳で、何も出来ないこの身体がホントに悔しい!

 でも今は、帰ったらチャペックにいっぱいいっぱい聞いて、勉強しなきゃと思う事しか出来ない。

 ウルリック副長も「それが一番の近道です」と、微笑わらって保証してくれたくらいだから、頑張らないとね!

「携帯用の簡易型とは言え、転移装置の使用を許可されるなどと、異例中の異例ですよ。恐らくは二度とない事でしょうね」

 ただでさえ、帰国日が延び延びになっていたから、その装置を使わせて貰う事で、何とか、最初に予定していた帰郷日と、1日2日の誤差で戻る事が出来ると言う事らしかった。

 イデオン公爵様に余裕がない、ウルリック副長も僕を送ったらその足ですぐさま装置を使って王都に戻る――サレステーデ国から困った王族が来ているのはチラッと見たけど、そんなに大変なコトになっているのに、僕は領に戻らなくちゃいけないのは、やっぱりちょっと悔しい。

 だけど、学園に入学あるいは王宮行事で呼ばれた時以外に、必要以上に領を離れるのは、次期領主として領民の信頼を落とす行為に繋がると言われれば、残りたいなんてワガママは言える筈もない。

 せめて勉強の進捗状況をこまめにレイナ様に知らせて、僕の存在を忘れないで!って主張しよう。

 そう言い聞かせて、ようやくちょっとだけ自分の中で折り合いをつけた。

 それから何日かたって訪れたスヴェンテ老公爵様の邸宅おやしきは、広さも使用人の数も、ほぼ同じくらいに見えた。
 何にしても、ハルヴァラ領の邸宅おやしきとは規模が違った。

「こ…こんにちは……リオル・スヴェンテ…です……」

 チャペックからは、僕は13歳になったら5年間、王都学園に入学をする、それは爵位のある貴族家の男子に例外なく課せられている義務なんだと聞いている。

 ウルリック副長からは、8歳から13歳までの間は、子爵男爵と言った下位貴族限定で、王都学園への入学準備としての教育を地元で受けるように義務付けられているのだとも聞いた。

 なんでも、王都学園は表面上は生徒間の平等を謳っていても、そこには働いている職員もいれば教師もいる訳で、そんな彼らに下手に無礼を働かないように、高位貴族間の力関係を予め学んでおくためと言う事らしい。

 それと高位貴族家は大抵、早くから家に家庭教師を招いている場合はほとんどで、財政力の差で学力に大幅な差が出ないよう、下位貴族には国が学びの場を提供した上で、王都学園入学時には、本人の才覚以外の差をなるべく少なくしておく――そんな仕組みになっているんだそうだ。

 確かに、僕はもうチャペックから少しずつ勉強を教わり始めているし、ちょっとオドオドとした挨拶をしている彼も、4歳と聞いたけど、老公爵様からもう手ほどきを受け始めているっぽい。

 僕が伯爵家、彼が公爵家と言う事は、彼が13歳になったところで、また学園で会うと言う事なんだろうけど、何となく周りの空気は、それまでに仲良く出来ればそれに越した事はないって言う感じだった。

 きっとお祖父様同士がそうだったみたいに、同い年じゃないけど、それでも仲良くして欲しいんだろうな。

「イデオン公とご令嬢は庭園の方へ案内させよう」

 何でもこの邸宅にはすごく有名な庭園があって、中にあるガゼボでは、季節ごとに収穫出来る果実で作ったお菓子なんかも食べられるんだって!

 レイナ様と公爵様は先にそこに行くけど、僕も老公爵様や老公爵夫人から父上やお祖父様の話を聞いたら、そこで一緒にお菓子を食べられるって事だから、しょうがないから二人で行かせてあげるよ!

 だけど僕の分のお菓子は残しておいてね、レイナ様!
しおりを挟む
感想 1,383

あなたにおすすめの小説

白い結婚はそちらが言い出したことですわ

来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。