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「雨風が強いなあ~。」
中邑さんの旦那さんが愛車であるレクサスを駐車場に停めてエンジンをきった。
雨粒がフロントガラスを叩きつけている。

「さぁ行こうか。」
旦那さんの掛け声で5人一斉に車から飛び出した。
「うわぁ!」
翔馬のさしていたキッズ用のビニール傘が突風で煽られて裏っ返しになり、そのまま吹っ飛んでいってしまった。
俺はあたふたしているメデューサから翔馬を抱き抱えて病院の入り口まで全力で走った。

なんとか自動ドアをくぐり病院に着くと、俺とメデューサがさしていた安物のビニール傘はぶっ壊れていた。

「びしょ濡れだわ。」
中邑さんの奥さんがハンカチで顔を拭っている。

院内はとても広く今日、ICUから一般病棟に移ったアキトの病室を探すのに手間取ってしまったが親切なナースさんに教えてもらったおかげで部屋の目の前まで来れた。

俺はドアを3回ノックした。

「はい。どうぞ。」

アキトの声が聞こえてくる。

引き戸をスライドさせて部屋に入った。

アキトは病院でレンタルしたパジャマを着た状態でベッドで横になっている。
全員が部屋に入ると目を細めて微笑を浮かべてくれた。

「アキト君、大丈夫なの?すごく心配したのよ。」
ドアを開けると開口一番、とても心配そうに中邑さんの奥さんがハンカチを両手で握りながら話しかけた。

「まだ痛みはありますが、日に日に良くなっていますよ。それより、こんな事に巻き込んでしまって申し訳ありません。どうやって償えばいいのやら…。」
「何を言っているの!?あなたが謝る必要なんかないの。」

「そうだよ、アキトくん。君は狂った男に刺された被害者なのだからね…。謝る必要なんかあるわけないのだよ。
それより、君のように未来ある若者が命を落とさずにすんで良かったよ。」
旦那さんは深く息を吐いた。

「ええ、自分でもそう思います。
あの時、否が応でも死を覚悟しました。
出血のせいか意識がどんどん遠くなってましたからね。
実はサヤマさんの声がまるで水中で聞いているようになったりサヤマさんの顔が霞んで見えづらくなっていました。」

それを聞いて一堂、声を失った。

その中でも殺害されかけた当事者であるアキトを抜かせば、このメンバーのなかで唯一、俺だけが凄惨な事件を目撃している。

あの場ではアキトを救う事で精一杯だったのである意味、恐怖さえ超越していたが重症とはいえアキトの命に別状がないとわかり落ち着きを取り戻した今だからこそ、恐怖心が永遠に消える事のない燃え盛る炎のようにトラウマと化している。

「恵子もいるんだね。俺が緊急入院している間、トオル達はどうだった?」

それまで、俯いてずっと黙っていた恵子は突然、泣き出した。

「その前に謝らせて…ほんとにごめんね。あたしのせいだよ。こんな事になっちゃって。あたしのせいでアキトが死ぬ思いをしちゃったんだからさ。」

「もう気にすんな。わかってくれたのなら嬉しいよ。」

「えっと、それでトオル達なんだけど、今回の事件で相当ビックリしたみたい。もうあたしに関わるのは辞めるって。」
翔馬は泣きじゃくるメデューサを見て、動揺している。
隣にいた奥さんが翔馬の手を強く握ってあげていた。

「そうか。」
アキトはベッドを挟んでメデューサの反対側にいる俺に首を少し傾けて視線を合わせた。
「サヤマさんにも、大変ご迷惑をおかけしちゃいましたね。サヤマさんだって刺されてしまう可能性があったんですから。
とても反省しています。」

「いやいや俺はあの場では110番通報する事と、この事件の証拠となる動画を警察に提出しただけです。」

「俺が死なずにすんだのはサヤマさんがいてくれたおかげです。
はっ、そうだ!俺を刺したあの男はどうなったんでしょうか?」

「渡辺太郎なら逮捕されましたよ。証拠の動画を撮っておいて正解でした。
おかげで事がスムーズ行ったと思います。
刑法に関しては俺は詳しくないですがアキトさんに刃物を用いて"死ね"と叫んでいたんです。
おそらく初犯でも殺人未遂罪で実刑かもしれません。」

「あのヤロー!思い出すと腹がたってくる。死刑になればいい!イテテッ。」
アキトは刺された患部を撫でながら俺から目線を外して眉間に皺を寄せ天井を見つめた。

「アキトさん大丈夫ですか?あんな奴、ずっと刑務所に入ってればいいんですよ!」
俺は感情的になった。

「わるいことしたひとはね、おまわりさんにね、おこられるんだよ!」
翔馬も渡辺太郎が警察に逮捕されたのは知っている。
元々、渡辺太郎が嫌いな翔馬だ。
尚更、感情がこもっているように俺には思えた。


























































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