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瓦屋根の立派な一戸建て。
庭にはこまめに手入れされているであろう綺麗な花々が咲き乱れている。
おばあさんの話によれば、ナデシコやゲウムという春の花だという。
この花壇の中で俺が唯一知っていたのはチューリップだけだった。

中邑さん宅は俺が住む地域から然程、離れていないがオシャレなカフェや洋菓子店が軒を連ねる地域に構えており、街の格差は歴然としてある。

「しかし、驚きましたな。そのような問題を抱えていたとは。」
そう言いながら紅茶の入ったティーカップを置いた。

茶色い丸テーブルの向かい側に、ご夫妻は座っている。
俺の隣には古いグランドピアノがあり、娘さんと思われる女性の写真が3枚、額縁に入って飾られていた。
小学生の頃に発表会で撮った思われる写真と自宅で撮った写真。
高校の制服姿でピアノを弾いている写真もある。

「私もびっくり。」

「血色も悪くなるはずだよ。心労を抱えると若くてもこたえるのさ。」

「佐山さん、その話を聞いた以上、私達も協力するわ。出来る事は限られてはいるけどもね。」

「ああ、そうとも。これも何かの縁だから。」

翔馬はポメラニアンのルルと丁寧に刈られた青い芝生の上で寝転がり遊んでいる。
いつもの俺なら、迷惑をかけてはいけないと思い丁重にお断りしていたはずだ。
なんせ、相手はトオルやらメデューサだ。
渦中の俺も先の展開がまったく読めないのだから。

そんな状況にあって、善良なご夫婦を危険な目に遭わせるわけにはいかない。

「佐山く、佐山さん。君は一人で抱えている。それでは解決はしないよ。君自身も翔馬くんも不幸になってしまわないか?」

俺は俯いてしまった。

「佐山く、佐山さん。私らは事の全てを引き受けるわけではない。ただ、さっきも妻が言ったように出来る事は限られてはいるが協力したいんだよ。」

「そうよ、今は遠慮なんかしている場合ではないわよ。」

お二人の優しさ、正義感が俺の心に染み渡って過去の長期に渡るゴタゴタで錆びついていた部分がボロボロ剥がれ落ちた感覚になった。

「ありがとうございます。他人の僕に、ここまでしてくださって…。」

「いいのよ。ただ翔馬君のお母さんを探すのも大変よね。」

「ん?でもどこで働いているか分かるんだから、探し出すのはそれほど苦ではないだろ?なあ、佐山く、佐山さん。」

「違うわよ、翔馬君はまだちっちゃいでしょ。そういったお店に連れていくのは、ちょっと、ねぇ。」

「ああ、そうかなるほど!そういう話か。確かにな。」

「佐山さんは他にどういう方法で翔馬君のお母さんを連れ戻すかわからないけれど、場合によっては修羅場もあるかもしれないし…。」

「うむ。子供は巻き込むわけにはいかんからね…。そうだな、もしよければ私らが一時的に翔馬くんを預かろうかね?どうだ?」

「それは良いわ!佐山さんそうしなさいよ。私達は本当に大丈夫なのよ。」

俺は中邑さんご夫婦に感謝しても仕切れない程の気持ちでいっぱいになっていた。











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