上 下
66 / 92

66

しおりを挟む
「あれ?随分部屋が明るくなりましたねぇ!」
昨晩、ぶっ壊れた電球を交換しておいて正解だった。
電球代はメデューサから手渡された金で購入した。
「ただでさえ工事中で雨戸は閉めっぱなしじゃないですか。それなのに電球が故障したままでは真っ暗で危ないですからね。」

煌々とした明かりの下、俺達はサーモンピンクの小さなテーブルに向かい合わせになって胡座をかいた。

翔馬は無言で天井からぶら下がった電気を見た後、玩具の「おしゃべりニャン助」を持ったまま寝室へ向かった。
ニャン助はチラッと俺を見て翔馬の後を追う。

「…良かった。翔馬君には聞かせたくない内容でしたからね。」

「山田恵子さんの件ですか?」

「もちろんです。あの後、金銭的な理由で躊躇っていましたが、やはり興信所を使って引き続き調べることにしたのです。」

「なるほど。今あの人はどちらに?」

「以前もお伝えしたSMクラブで働き出したようです。出勤日や働く時間帯も把握できましたよ。」

ハゲのおかげだ!これでメデューサとコンタクトがとれる。

「ただ一つ気になる事がございましてね。」

「と、申しますと?」

「はい。恵子はSMクラブで働くようになってから、男ができたようでして…。」

けっ!そんな事かよ。
尻軽なメデューサの事だ、さもありなんと思うところだ。

「興信所から頂いた情報によるとホストのような若い男に肩を抱かれて歩いていたようです。私は意気消沈しました。」

「はぁ。」
またこの部屋に転がり込んだ時のように、欲望にまみれたおっさんがドス黒い涙を流すのを見る羽目になるのか。
そう思っていた矢先、ハゲは俺に目頭を押さえつつ強い口調で話しかけてきた。

「私は学習しました。人前で前回のように泣いたり喚いたりは致しません。そんな事をしたってなんの意味もありませんからね。
ただ、恵子を諦めたわけではないですよ。必ずその男から恵子を奪還したいと思います!」

メデューサに執着するハゲの決意表明を聞かされて頭がぼーっとしてきた。

ん?ちょっと待てよ…。メデューサに男ができたという点でひとつ気がかりな事が浮上した。

「山田さんが男達と出て行ってから、今日で8日目。あと6日後にはこのアパートへ戻って来て翔馬を引き取る約束になっていますが、彼女は戻ってくると思いますか。」

「…自分の事ばかり考えてその辺の事には気が回りませんでした。確かに男と親密交際をしているのであれば翔馬君を引き取りにこないかもしれないです…ね。」



俺とハゲは同時にため息をついた。
その際、ハゲは俺を見て同情を誘うような目つきだったが、ため息はハゲと同じ憂いからくるものではない。
ハゲは翔馬の事なんて気にもしていないだろう。
きっと駅前のヘンテコなオブジェや公園やスーパーにある、どこかのお偉いさんの銅像と同じ感覚だ。
多くの人に見られる場所に設置されてあっても誰もその存在に関して気にもしない。

こいつなんかとは背負ったものが違うんだ。

俺はトオル達や金ピカのハマーについても聞いたが、これといった有力な情報は得られなかった。

























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

紅井すぐりと桑野はぐみ

桜樹璃音
青春
「私が死なないように、見張って」 「アンタの全部は、俺のものだって言わなかったっけ」 これは歪愛じゃない――……純愛、だ。 死にたがり少女と恋愛依存少年の歪な愛のお話。

風船ガール 〜気球で目指す、宇宙の渚〜

嶌田あき
青春
 高校生の澪は、天文部の唯一の部員。廃部が決まった矢先、亡き姉から暗号めいたメールを受け取る。その謎を解く中で、姉が6年前に飛ばした高高度気球が見つかった。卒業式に風船を飛ばすと、1番高く上がった生徒の願いが叶うというジンクスがあり、姉はその風船で何かを願ったらしい。  完璧な姉への憧れと、自分へのコンプレックスを抱える澪。澪が想いを寄せる羽合先生は、姉の恋人でもあったのだ。仲間との絆に支えられ、トラブルに立ち向かいながら、澪は前へ進む。父から知らされる姉の死因。澪は姉の叶えられなかった「宇宙の渚」に挑むことをついに決意した。  そして卒業式当日、亡き姉への想いを胸に『風船ガール』は、宇宙の渚を目指して気球を打ち上げたーー。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良
青春
とある県の平凡な県立高校「東総倉高等学校」に通う、名前以外は平凡な少年が、個性的な人間たちに翻弄され、振り回され続ける学園コメディ! 彼は、ごくごく平凡な男子高校生である。…名前を除けば。 田中天狼と書いてタナカシリウス、それが彼の名前。 この奇妙な名前のせいで、今までの人生に余計な気苦労が耐えなかった彼は、せめて、高校生になったら、平凡で平和な日常を送りたいとするのだが、高校入学後の初動に失敗。 ぼっちとなってしまった彼に話しかけてきたのは、春夏秋冬水と名乗る、一人の少女だった。 そして彼らは、二年生の矢的杏途龍、そして撫子という変人……もとい、独特な先輩達に、珍しい名を持つ者たちが集まる「奇名部」という部活への起ち上げを誘われるのだった……。 ・表紙画像は、紅蓮のたまり醤油様から頂きました! ・小説家になろうにて投稿したものと同じです。

不撓導舟の独善

縞田
青春
志操学園高等学校――生徒会。その生徒会は様々な役割を担っている。学校行事の運営、部活の手伝い、生徒の悩み相談まで、多岐にわたる。 現生徒会長の不撓導舟はあることに悩まされていた。 その悩みとは、生徒会役員が一向に増えないこと。 放課後の生徒会室で、頼まれた仕事をしている不撓のもとに、一人の女子生徒が現れる。 学校からの頼み事、生徒たちの悩み相談を解決していくラブコメです。 『なろう』にも掲載。

神様自学

天ノ谷 霙
青春
ここは霜月神社。そこの神様からとある役職を授かる夕音(ゆうね)。 それは恋心を感じることができる、不思議な力を使う役職だった。 自分の恋心を中心に様々な人の心の変化、思春期特有の感情が溢れていく。 果たして、神様の裏側にある悲しい過去とは。 人の恋心は、どうなるのだろうか。

処理中です...