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渡辺太郎は後ろを振り返り翔馬を見た後、2度ほど小さく頷いて話し始めた。

「私が興信所の調査員を通じて調べてもらった事は、恵子の居場所…それは先程もお伝えした通りです。
もう一つ、勤務先も調べてもらったのですが足取りを掴む事は出来なかったと担当してくれた調査員に言われました。」

渡辺は少し申し訳なそうに上目遣いで俺を見て言った。
俺は気味が悪かったが表情に表さないように努めて聞き返した。

「では山田恵子は働いていないという事でしょうか?」

「…少なくとも私が依頼した期間の間は勤めに行ったような形跡はなかったようです。
私は恵子を調査した期間は7日間でした。
たぶんご存知だと思いますが興信所を利用すると高額な調査料がかかります。
さすがに費用が嵩んでしまいましてね。
職場を見つけ出す事は諦めましたよ。
でも恵子が住むこのアパートを調べ上げることが出来たので、それだけでも高額な費用を払う価値はあったと思ったのですが…蓋を開けてみれば彼女はいなかった。」

またしても渡辺は声をあげて泣き出さんばかりの顔になったので、俺は間髪入れず矢継ぎ早に質問した。

「山田恵子は一歩も外出せず、このアパートに引き篭もっていたのですか?」

「あっ、もちろんスーパーやらコンビニやらファミレスに行っていた話は写真付きで教えてもらいました…後は私が調べてもらった7日の内、3日ほどSMクラブに出入りしていたようです。」

俺は恵子がSMクラブで勤務していたのではないかと聞こうとした矢先に渡辺はすぐ遮って否定した。

「いや、先程も話しましたがSMクラブに出入りしているだけで少なくとも私が調査していた期間中は働いてはいなかったそうです。
調査員が現場で待機していた時間は3日間とも15分程度だったとも聞いています。
それと、最終日に恵子と女性が店の出入り口まで出てきて恵子と激しく口論していたとか。
恵子は青ざめた顔で走り去り偶然居合わせたタクシーに乗り込みにげるように去って行ったとの事でした。」

恵子はSMクラブの関係者である女と繋がりがあるようだな。
そう思うのは至極当然の事だ。
話を聞いている最中、落ち着きなく顎髭を無意識に引っ張っていた。
俺は金曜日から目まぐるしいほどにトラブルが舞い込んできて髭など剃るひとまがなかった。

「なるほど。山田恵子が話していた女性の特徴はご存知ですか?」

「詳しくはわかりませんが、調査員の話だと大きなサングラスとマスクをしていたそうです。
女性の怒りが凄まじく聞くに堪えない暴言を吐き、恵子に対してビンタをしたり蹴っ飛ばしていたそうです。」

「えっ!?」
俺は思わず声を発した。

「どうかされました?」
渡辺はきょとんとしている。
若干、目が充血しているものの涙は乾き落ち着きを取り戻したようだ。

「い、いえなんでもないです。気になさらずに。」
俺が渡辺にそう言うと納得したかどうかはわからないが、はぁと言いながらコクリと頷いていた。

たぶん、トオルと一緒に居たナオではないか?
トオルとナオが埠頭でメデューサを激しく暴行した翌朝、金のハマーの助手席で居眠りしていた時、ナオはサングラスとマスクを着用していたはず…。
うん、間違いない。ちゃんと憶えている。

確定こそ出来ないがSMクラブでメデューサに暴力を振るった人物はナオの可能性がある。

他者に対する攻撃性もそっくりじゃないか!

俺はそのSMクラブの住所を聞き出そうと思い、くどい言い方はせずシンプルに問いただした。

「山田恵子が行ったとされるSMクラブの住所を教えていただけませんか?」


























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