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俺は振り返りたくない今までの出来事を、小さなサーモンピンクのテーブルの向かい側で座っているバーコードハゲに話した。
「…なるほど。大変な思いをされていたのですね。それなのに…何も知らなかったとはいえ大変申し訳ございませんでした。
念の為、お伝えしますが私もその反社会的なグループとは無関係であり恵子がそのような連中と接点があった事を露ほども知りませんでした…。」
先ほどの威勢は鳴りを顰め、バーコードハゲはバツが悪そうに小さな声で話した。
俺はチラッと翔馬がいる寝室へ目を配る。
翔馬はスイーツニャンコのイベントで購入した玩具を満面の笑みで、いじくり回している。
涙も乾き、夢の世界へ没頭している。
とはいってもバーコードハゲとの話を翔馬に聞かれないよう注意が必要だ。
メデューサはとんでもない女だが幼い翔馬にとっては、代わりのいない大切なママなのだから…。
「俺の方からも質問していいですか?」
「ええ。ど、どうぞ。」
俺に目を合わせず俯いて答えた。
「ワタナベさんは俺に対して恵子のセフレと言いましたが、あれはどういう意味ですか?」
「あぁ、それにつきましては本当にすみませんでした…。
冷静さを失い頭に血が昇っていました。
あれはその、まあなんて申しますか、私自身が恵子とそういう関係でして…。
そういう関係と申しましても、まだセックスするまでに至っていません。
ただレストランで食事をご馳走するだけで…。」
バーコードハゲは何度も上唇を舐めながら話を続けた。
「こないだ恵子とフレンチ料理を食べ終えて、いつも通りなんの進展もなく別れの時間が迫っている時でした。
このままでは私は恵子にとって、ただご飯を奢るだけの都合の良い男になってしまう…。
私にはそんな関係は耐えられません。
抑えられない性欲を満たす為、思い切ってホテルに誘いましたがキッパリ断られてしまったんです…。
とても不快な顔をしていたのが大変ショックでした。
でも、いつも美味しい物を食べさせてくれるからお礼にと胸の"谷間"を見せてくれたんです。
とても大きくて白くて柔らかそうな乳房でしたよ!私は感動しました!
もしかしたら、この次会ったら乳首を拝む事はおろかセックスもできるんじゃないかって!」
始め意気消沈して小さな声で話していたバーコードハゲだったが、メデューサの色気を思い出して興奮したのだろう。
声が大きくなっていった。
「あの、声が大きいですよ。子どももいるんで静かに話してください。」
俺はバーコードハゲを睨みつけた。
「あ、すみません。」
寝室にいる翔馬を振り返って見た後、臆病な目線を俺に合わせて謝ってきた。
「…恵子がタクシーに乗り込んだのを見届けていたら、美しい谷間を見た気持ちが萎えてしまったのです…。
離れていく恵子を見ていると、決して掴むことの出来ない高嶺の花…。
薄々気づいてはいましたが所詮は"食事を奢ってくれる都合の良い男"ってだけ。
いや、男としてさえ見てもらえてないでしょう。
そう思うと途端にやりきれない気持ちになってしまったんですよね…。」
俺は黙って聞いていた。
相槌はせず無表情で。
「ど、どうしても恵子を自分のモノにしたい…。
セックスをしたい。
舐めてもらいたい。
自慢の乳房で挟んでもらいたい。
妊娠させたい。
今後、私なしで生きられないように激しく調教したい。
愛しているからこそ、時には暴力だって必要だと思っていますから…。
愛に突き動かされた私は衝動を抑えられず興信所に頼んで、恵子の居場所を突き止めたのです…。
そして日曜日の今日ここで、私は…うぅ、自分が。」
バーコードハゲは小さなサーモンピンクのテーブルに顔を伏せて、シクシク泣き始めた。
なぜ泣いているか聞きたくもなかったが、赤子のように泣くバーコードハゲのせいで、また翔馬の心を不安定にさせるわけにはいかない。
俺はゆっくり深呼吸してから宥めた。
「ワタナベさん、どうしました?ワタナベさんが泣いているのを見たら翔馬がまた驚いてしまいます。どうか落ち着いてください。」
「自分が惨めで仕方ありません。私ではなくあなたを…それも私よりだいぶ歳下であろう、あなたを恵子は頼ったのですからね…大切な翔馬君を預けたのですよ!
あぁぁ。私は人生を懸けて恵子を愛しているのにぃ。なぜ、なぜ私ではないんだ。
やはりあの時、手錠をはめて拘束してしまえば良かった!」
俺の手にはワタナベから貰った名刺がある。
名前は渡辺太郎。
人材派遣会社で営業をやっているようだ。
コイツの…太郎の頭もまともではないな。
トオル達とタイプは違えど異常者である事は間違いない。
俺は改めて自分の住む部屋ではなく山田"メデューサ"恵子が住む殺風景な部屋で話合いをする事にして正解だと思った。
太郎のような怪しく気持ち悪い奴に敷居を跨がせたくないからさ。
「…なるほど。大変な思いをされていたのですね。それなのに…何も知らなかったとはいえ大変申し訳ございませんでした。
念の為、お伝えしますが私もその反社会的なグループとは無関係であり恵子がそのような連中と接点があった事を露ほども知りませんでした…。」
先ほどの威勢は鳴りを顰め、バーコードハゲはバツが悪そうに小さな声で話した。
俺はチラッと翔馬がいる寝室へ目を配る。
翔馬はスイーツニャンコのイベントで購入した玩具を満面の笑みで、いじくり回している。
涙も乾き、夢の世界へ没頭している。
とはいってもバーコードハゲとの話を翔馬に聞かれないよう注意が必要だ。
メデューサはとんでもない女だが幼い翔馬にとっては、代わりのいない大切なママなのだから…。
「俺の方からも質問していいですか?」
「ええ。ど、どうぞ。」
俺に目を合わせず俯いて答えた。
「ワタナベさんは俺に対して恵子のセフレと言いましたが、あれはどういう意味ですか?」
「あぁ、それにつきましては本当にすみませんでした…。
冷静さを失い頭に血が昇っていました。
あれはその、まあなんて申しますか、私自身が恵子とそういう関係でして…。
そういう関係と申しましても、まだセックスするまでに至っていません。
ただレストランで食事をご馳走するだけで…。」
バーコードハゲは何度も上唇を舐めながら話を続けた。
「こないだ恵子とフレンチ料理を食べ終えて、いつも通りなんの進展もなく別れの時間が迫っている時でした。
このままでは私は恵子にとって、ただご飯を奢るだけの都合の良い男になってしまう…。
私にはそんな関係は耐えられません。
抑えられない性欲を満たす為、思い切ってホテルに誘いましたがキッパリ断られてしまったんです…。
とても不快な顔をしていたのが大変ショックでした。
でも、いつも美味しい物を食べさせてくれるからお礼にと胸の"谷間"を見せてくれたんです。
とても大きくて白くて柔らかそうな乳房でしたよ!私は感動しました!
もしかしたら、この次会ったら乳首を拝む事はおろかセックスもできるんじゃないかって!」
始め意気消沈して小さな声で話していたバーコードハゲだったが、メデューサの色気を思い出して興奮したのだろう。
声が大きくなっていった。
「あの、声が大きいですよ。子どももいるんで静かに話してください。」
俺はバーコードハゲを睨みつけた。
「あ、すみません。」
寝室にいる翔馬を振り返って見た後、臆病な目線を俺に合わせて謝ってきた。
「…恵子がタクシーに乗り込んだのを見届けていたら、美しい谷間を見た気持ちが萎えてしまったのです…。
離れていく恵子を見ていると、決して掴むことの出来ない高嶺の花…。
薄々気づいてはいましたが所詮は"食事を奢ってくれる都合の良い男"ってだけ。
いや、男としてさえ見てもらえてないでしょう。
そう思うと途端にやりきれない気持ちになってしまったんですよね…。」
俺は黙って聞いていた。
相槌はせず無表情で。
「ど、どうしても恵子を自分のモノにしたい…。
セックスをしたい。
舐めてもらいたい。
自慢の乳房で挟んでもらいたい。
妊娠させたい。
今後、私なしで生きられないように激しく調教したい。
愛しているからこそ、時には暴力だって必要だと思っていますから…。
愛に突き動かされた私は衝動を抑えられず興信所に頼んで、恵子の居場所を突き止めたのです…。
そして日曜日の今日ここで、私は…うぅ、自分が。」
バーコードハゲは小さなサーモンピンクのテーブルに顔を伏せて、シクシク泣き始めた。
なぜ泣いているか聞きたくもなかったが、赤子のように泣くバーコードハゲのせいで、また翔馬の心を不安定にさせるわけにはいかない。
俺はゆっくり深呼吸してから宥めた。
「ワタナベさん、どうしました?ワタナベさんが泣いているのを見たら翔馬がまた驚いてしまいます。どうか落ち着いてください。」
「自分が惨めで仕方ありません。私ではなくあなたを…それも私よりだいぶ歳下であろう、あなたを恵子は頼ったのですからね…大切な翔馬君を預けたのですよ!
あぁぁ。私は人生を懸けて恵子を愛しているのにぃ。なぜ、なぜ私ではないんだ。
やはりあの時、手錠をはめて拘束してしまえば良かった!」
俺の手にはワタナベから貰った名刺がある。
名前は渡辺太郎。
人材派遣会社で営業をやっているようだ。
コイツの…太郎の頭もまともではないな。
トオル達とタイプは違えど異常者である事は間違いない。
俺は改めて自分の住む部屋ではなく山田"メデューサ"恵子が住む殺風景な部屋で話合いをする事にして正解だと思った。
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