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ハチワレはドアの隙間からこちらを覗く女に気づくと急足で階段を2段ほど降りて注意深く様子を伺っている。

女はドアチェーンを外すと、そぉっとドアを開けてキョロキョロ辺りを見渡した。

ドアを開けてはいるものの顔だけ出している姿がまるで亀のようで、いつでも硬い甲羅に身を引っ込められるよう警戒している。

「お隣さんですよね?」
覇気のない小さな声で訪ねてきた。

なぜだが分からないが自分に話しかけられた実感がわかず返答できずにいた。

「あの、お隣…」
女が再度、俺に問いかけている時に俺は我に返ったかのようにそうですと早口で答えた。

それを聞いて少しホッとした表情を見せたかと思えば女はまた辺りを見回すと、俺の目を見ながら無言で手招きをしている。
女の目が先程よりも、カッと見開いている。

まさかの展開に俺は状況を飲み込めず、また黙り込んでしまった。

女は小声で早く早くと、せっつきながら指先だけの手招きから今度は手首を捻って手招きしている。
もっと近くにいれば、その手招きから発せられる風を感じ取る事が出来るだろう。

いったいなんだってこの女は俺を部屋に招こうとするんだ?

まさか中にトオル達が潜んでいるのか?

俺の心臓は数時間前のように激しく鼓動し始めた。

埠頭から追いかけられた時や、金のハマーに乗ったトオルに尋問された時と同じ緊張だ。

更に手招きが強くなり腕を上下に振りはじめた。
女は下唇を噛み締めながら俺の目を凝視してくる。

野球のサードコーチャーが、セカンドからサード、そしてホームまで全力で走るランナーを生還させようと腕をブルブル振っているのと似ている。

女もサードコーチャーのように何としてでも俺を部屋に呼び込もうと必死だ。

このまま黙っているわけにもいかない。
俺は咽喉から声を絞り出して女に聞いた。

「あの、どうしたんですか?」

「部屋に入って。」

「なぜ部屋に入らなきゃならないのですか?」

「いいから。」

「だから、理由を聞かせてください!」
俺は理由を述べない女に恐怖と怒りが入り混じった強い口調で女にそう言った。

「大事な事なの!外では話せないからとにかく部屋に入ってよ!」
女も俺と同じで恐怖と怒りが入り混じっていた。

そんなメチャクチャな理屈が、いやいや、理屈もへったくれもない!
こちらの問いを無視したそのゴリ押しのやり方に圧倒されてしまいそうになる。

しかし理由を一切、告げない女の言われるがままーーーー凶悪なトオル達と関わりのある女の部屋に入るわけにはいかない。

どんなトラップがあるか分からないし、これ以上巻き込まれたくない。

トオル達に虐待された被害者とはいえ、全く信用しちゃいないのだから。

俺がまた言い返そうとした矢先に「お願いだから!」と言い、こちらの反論を封じてきた。

女は俺と同じで怒りと恐怖を混ぜ合わせた感情を確かに持っていたが、それだけではなかった。
"悲しみや哀れさ"も持ち合わせていた。

間違っても同情したわけではない。

ただ、この状況がイタチごっこのようで終わりがないように思えてしまい根負けしてしまったんだ。

俺は女の部屋に上がる前に階段で身を隠しながらも、ずっとこちらを注意深く見つめるハチワレを見た。

ハチワレの不安げな顔を見たのは初めてだったよ。



































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