28 / 92
28
しおりを挟む
金髪ツーブロック男はヤンキースの帽子を被った男をチラッと見た後、バカバカしくなったようでシートを倒してため息をついた。
一応、俺を発見出来たわけだがコイツらにしてみれば顔も名前も分からない人物を闇雲に探すという骨の折れる作業をトオルとナオに命令されていたわけだ。
どんな優秀な警察犬でも追跡したい人物の証拠となる匂いがなければ、その場でどうする事も出来ず立ち尽くしてしまう。
もちろん俺に危害を加えようと血眼になって探していたチンピラ達に同情する気は一切ないが。
「よぉ~、コイツじゃ無さそうだな。」
金髪ツーブロック男は今になって疲れがどっと出たらしく、やる気のない話し方でヤンキースの帽子を被った男に呟いた。
「隣人だから怪しいとは思うけど、やはり顔を見ていないし全く特徴を掴めてないからね…。彼は証拠不十分で釈放かな。」
ヤンキースの帽子を被った男の冷静な分析に、俺は一瞬ギョッとしつつ、猛烈に腹が立った。
証拠不十分だと!?
何を偉そうに!!
トオルとナオのパシリの三下がよくもほざきやがって!
ああ、そうだよ!お前の言う通り証拠はねえんだ!
ざまあみやがれー!
でも、これでようやく俺は解放される。
普段なら関わる事さえないであろう危険極まりない輩に追いかけ回されて、漫画に登場するような凶暴で卑劣なトオルにはぶっ殺してやるとまで言われた。
俺も心身共に疲労困憊だ。
運転席でぐったりしている金髪ツーブロック男の疲れなんぞ屁みたいなものだ。
俺の肉体的、精神的疲労とでは比べものにならないと思う。
早く安全な自宅に着いて眠りたい。
コイツらも俺ではないと思っているのだからここから解放されるまで、もうひと踏ん張りだ。
だが、油断をしてしまえば全てが台無しになる。
俺は失言をして輩が食いつくような"エサ"を与えないよう気をつけていた。
後は、タイミングを見計らってコイツらと別れればいい。
しかし、そのタイミングが非常に難しい。
自分から帰るとは口にしない方がいいかもしれない。
上手い事、会話の流れを掴んで動向を伺い奴らを怒らせたり怪しませる事なく逃げる道を模索しなければ。
金髪のツーブロック男は金ピカの高級腕時計ではなく、車の時計に目をやっていた。
「もう4時かよぉ!」
「うん…眠いよ。」
ヤンキースの帽子を被った男はスマホを弄りながら冷静に答えた。
奴らの会話で俺も気づいた。
いつの間にか空は少し明るくなっていた。
太陽が顔を出し始めている。
それに呼応するかのように草花や鳥たちが目覚めて、清々しい朝が始まろうとしている。
俺は燦々と照りつける太陽が昇れば、闇夜に紛れて暗躍する奴らを浄化してくれるような気がして気持ちが若干、強くなっていた。
太陽という存在を、これほどまでにありがたく思った事は過去に一度もないはずだ。
「いくらなんでも、ツラもわからねぇのに探せってのはどうかしてるよな!」
金髪ツーブロック男は吐き捨てるように言った。
「まあね。」
「必死こいて探したけど、逃げた奴を見つけられなかったと言うしかねえべ?ほんとの事だしよ!」
「…そうだけど、トオルさんを逆上させちゃまずいから納得するように話さなきゃダメだよ。」
ヤンキースの帽子を被った男のセリフで、いかにトオルが危険な奴なのか改めて思い知った。
「お前、俺とは違って弁が立つっていうの?こういうのは得意だろ?お前に任すわ~。」
ヘラヘラしながら金髪ツーブロック男が話した。
「仕方がない。分かったよ。」
ヤンキースの帽子を被った男は手のひらで口元を拭うような仕草をしながら答えた。
「あっ!それとよ、アンタにも迷惑かけたな。この件については悪りぃけど忘れてくれ。」
金髪ツーブロック男が俺を見つめながら話した。
今までのような威嚇したような鋭い目つきでも、俺が嘘をついているか見破ろうとしている目つきでもない。
とっとと帰りたいというような目つきだった。
「わ、分かりました…。」
そうは口にしたものの、心の中では許せるわけがない。
俺はお前らに追跡されて恐怖で震えたし、お前の仲間でリーダー格のトオルには、ぶっ殺すとまで言われている。
ましてや隣に住んでいるあのシングルマザーに対しての暴力だって警察に通報しなければならない。
あれは明らかに事件であり、絶対に知らぬふりはできない。
しかし、今ここでコイツらに怒りをぶつけたら全てが無駄になってしまう。
後で、しっかり警察に話せばいい。
怒りを晴らすのはそれからで、今はコイツらから解放される為に耐える時だ。
夜と違って怪しく黒光を放った海面は見る影もなく、ただの薄汚れた海に様変わりしていた。
間もなく朝を迎えようとしている。
一応、俺を発見出来たわけだがコイツらにしてみれば顔も名前も分からない人物を闇雲に探すという骨の折れる作業をトオルとナオに命令されていたわけだ。
どんな優秀な警察犬でも追跡したい人物の証拠となる匂いがなければ、その場でどうする事も出来ず立ち尽くしてしまう。
もちろん俺に危害を加えようと血眼になって探していたチンピラ達に同情する気は一切ないが。
「よぉ~、コイツじゃ無さそうだな。」
金髪ツーブロック男は今になって疲れがどっと出たらしく、やる気のない話し方でヤンキースの帽子を被った男に呟いた。
「隣人だから怪しいとは思うけど、やはり顔を見ていないし全く特徴を掴めてないからね…。彼は証拠不十分で釈放かな。」
ヤンキースの帽子を被った男の冷静な分析に、俺は一瞬ギョッとしつつ、猛烈に腹が立った。
証拠不十分だと!?
何を偉そうに!!
トオルとナオのパシリの三下がよくもほざきやがって!
ああ、そうだよ!お前の言う通り証拠はねえんだ!
ざまあみやがれー!
でも、これでようやく俺は解放される。
普段なら関わる事さえないであろう危険極まりない輩に追いかけ回されて、漫画に登場するような凶暴で卑劣なトオルにはぶっ殺してやるとまで言われた。
俺も心身共に疲労困憊だ。
運転席でぐったりしている金髪ツーブロック男の疲れなんぞ屁みたいなものだ。
俺の肉体的、精神的疲労とでは比べものにならないと思う。
早く安全な自宅に着いて眠りたい。
コイツらも俺ではないと思っているのだからここから解放されるまで、もうひと踏ん張りだ。
だが、油断をしてしまえば全てが台無しになる。
俺は失言をして輩が食いつくような"エサ"を与えないよう気をつけていた。
後は、タイミングを見計らってコイツらと別れればいい。
しかし、そのタイミングが非常に難しい。
自分から帰るとは口にしない方がいいかもしれない。
上手い事、会話の流れを掴んで動向を伺い奴らを怒らせたり怪しませる事なく逃げる道を模索しなければ。
金髪のツーブロック男は金ピカの高級腕時計ではなく、車の時計に目をやっていた。
「もう4時かよぉ!」
「うん…眠いよ。」
ヤンキースの帽子を被った男はスマホを弄りながら冷静に答えた。
奴らの会話で俺も気づいた。
いつの間にか空は少し明るくなっていた。
太陽が顔を出し始めている。
それに呼応するかのように草花や鳥たちが目覚めて、清々しい朝が始まろうとしている。
俺は燦々と照りつける太陽が昇れば、闇夜に紛れて暗躍する奴らを浄化してくれるような気がして気持ちが若干、強くなっていた。
太陽という存在を、これほどまでにありがたく思った事は過去に一度もないはずだ。
「いくらなんでも、ツラもわからねぇのに探せってのはどうかしてるよな!」
金髪ツーブロック男は吐き捨てるように言った。
「まあね。」
「必死こいて探したけど、逃げた奴を見つけられなかったと言うしかねえべ?ほんとの事だしよ!」
「…そうだけど、トオルさんを逆上させちゃまずいから納得するように話さなきゃダメだよ。」
ヤンキースの帽子を被った男のセリフで、いかにトオルが危険な奴なのか改めて思い知った。
「お前、俺とは違って弁が立つっていうの?こういうのは得意だろ?お前に任すわ~。」
ヘラヘラしながら金髪ツーブロック男が話した。
「仕方がない。分かったよ。」
ヤンキースの帽子を被った男は手のひらで口元を拭うような仕草をしながら答えた。
「あっ!それとよ、アンタにも迷惑かけたな。この件については悪りぃけど忘れてくれ。」
金髪ツーブロック男が俺を見つめながら話した。
今までのような威嚇したような鋭い目つきでも、俺が嘘をついているか見破ろうとしている目つきでもない。
とっとと帰りたいというような目つきだった。
「わ、分かりました…。」
そうは口にしたものの、心の中では許せるわけがない。
俺はお前らに追跡されて恐怖で震えたし、お前の仲間でリーダー格のトオルには、ぶっ殺すとまで言われている。
ましてや隣に住んでいるあのシングルマザーに対しての暴力だって警察に通報しなければならない。
あれは明らかに事件であり、絶対に知らぬふりはできない。
しかし、今ここでコイツらに怒りをぶつけたら全てが無駄になってしまう。
後で、しっかり警察に話せばいい。
怒りを晴らすのはそれからで、今はコイツらから解放される為に耐える時だ。
夜と違って怪しく黒光を放った海面は見る影もなく、ただの薄汚れた海に様変わりしていた。
間もなく朝を迎えようとしている。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
アマツバメ
明野空
青春
「もし叶うなら、私は夜になりたいな」
お天道様とケンカし、日傘で陽をさえぎりながら歩き、
雨粒を降らせながら生きる少女の秘密――。
雨が降る日のみ登校する小山内乙鳥(おさないつばめ)、
謎の多い彼女の秘密に迫る物語。
縦読みオススメです。
※本小説は2014年に制作したものの改訂版となります。
イラスト:雨季朋美様
天ヶ崎高校二年男子バレーボール部員本田稔、幼馴染に告白する。
山法師
青春
四月も半ばの日の放課後のこと。
高校二年になったばかりの本田稔(ほんだみのる)は、幼馴染である中野晶(なかのあきら)を、空き教室に呼び出した。
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
夏休み、隣の席の可愛いオバケと恋をしました。
みっちゃん
青春
『俺の隣の席はいつも空いている。』
俺、九重大地の左隣の席は本格的に夏休みが始まる今日この日まで埋まることは無かった。
しかしある日、授業中に居眠りして目を覚ますと隣の席に女の子が座っていた。
「私、、オバケだもん!」
出会って直ぐにそんなことを言っている彼女の勢いに乗せられて友達となってしまった俺の夏休みは色濃いものとなっていく。
信じること、友達の大切さ、昔の事で出来なかったことが彼女の影響で出来るようになるのか。
ちょっぴり早い夏の思い出を一緒に作っていく。
窓を開くと
とさか
青春
17才の車椅子少女ー
『生と死の狭間で、彼女は何を思うのか。』
人間1度は訪れる道。
海辺の家から、
今の想いを手紙に書きます。
※小説家になろう、カクヨムと同時投稿しています。
☆イラスト(大空めとろ様)
○ブログ→ https://ozorametoronoblog.com/
○YouTube→ https://www.youtube.com/channel/UC6-9Cjmsy3wv04Iha0VkSWg
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる