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金髪ツーブロック男はヤンキースの帽子を被った男をチラッと見た後、バカバカしくなったようでシートを倒してため息をついた。

一応、俺を発見出来たわけだがコイツらにしてみれば顔も名前も分からない人物を闇雲に探すという骨の折れる作業をトオルとナオに命令されていたわけだ。

どんな優秀な警察犬でも追跡したい人物の証拠となる匂いがなければ、その場でどうする事も出来ず立ち尽くしてしまう。


もちろん俺に危害を加えようと血眼になって探していたチンピラ達に同情する気は一切ないが。

「よぉ~、コイツじゃ無さそうだな。」
金髪ツーブロック男は今になって疲れがどっと出たらしく、やる気のない話し方でヤンキースの帽子を被った男に呟いた。

「隣人だから怪しいとは思うけど、やはり顔を見ていないし全く特徴を掴めてないからね…。彼は証拠不十分で釈放かな。」

ヤンキースの帽子を被った男の冷静な分析に、俺は一瞬ギョッとしつつ、猛烈に腹が立った。

証拠不十分だと!?
何を偉そうに!!
トオルとナオのパシリの三下がよくもほざきやがって!
ああ、そうだよ!お前の言う通り証拠はねえんだ!
ざまあみやがれー!


でも、これでようやく俺は解放される。

普段なら関わる事さえないであろう危険極まりない輩に追いかけ回されて、漫画に登場するような凶暴で卑劣なトオルにはぶっ殺してやるとまで言われた。

俺も心身共に疲労困憊だ。

運転席でぐったりしている金髪ツーブロック男の疲れなんぞ屁みたいなものだ。
俺の肉体的、精神的疲労とでは比べものにならないと思う。

早く安全な自宅に着いて眠りたい。
コイツらも俺ではないと思っているのだからここから解放されるまで、もうひと踏ん張りだ。

だが、油断をしてしまえば全てが台無しになる。

俺は失言をして輩が食いつくような"エサ"を与えないよう気をつけていた。
後は、タイミングを見計らってコイツらと別れればいい。

しかし、そのタイミングが非常に難しい。
自分から帰るとは口にしない方がいいかもしれない。
上手い事、会話の流れを掴んで動向を伺い奴らを怒らせたり怪しませる事なく逃げる道を模索しなければ。

金髪のツーブロック男は金ピカの高級腕時計ではなく、車の時計に目をやっていた。
「もう4時かよぉ!」

「うん…眠いよ。」
ヤンキースの帽子を被った男はスマホを弄りながら冷静に答えた。

奴らの会話で俺も気づいた。
いつの間にか空は少し明るくなっていた。

太陽が顔を出し始めている。

それに呼応するかのように草花や鳥たちが目覚めて、清々しい朝が始まろうとしている。

俺は燦々と照りつける太陽が昇れば、闇夜に紛れて暗躍する奴らを浄化してくれるような気がして気持ちが若干、強くなっていた。

太陽という存在を、これほどまでにありがたく思った事は過去に一度もないはずだ。

「いくらなんでも、ツラもわからねぇのに探せってのはどうかしてるよな!」
金髪ツーブロック男は吐き捨てるように言った。

「まあね。」

「必死こいて探したけど、逃げた奴を見つけられなかったと言うしかねえべ?ほんとの事だしよ!」

「…そうだけど、トオルさんを逆上させちゃまずいから納得するように話さなきゃダメだよ。」

ヤンキースの帽子を被った男のセリフで、いかにトオルが危険な奴なのか改めて思い知った。

「お前、俺とは違って弁が立つっていうの?こういうのは得意だろ?お前に任すわ~。」
ヘラヘラしながら金髪ツーブロック男が話した。

「仕方がない。分かったよ。」
ヤンキースの帽子を被った男は手のひらで口元を拭うような仕草をしながら答えた。

「あっ!それとよ、アンタにも迷惑かけたな。この件については悪りぃけど忘れてくれ。」
金髪ツーブロック男が俺を見つめながら話した。
今までのような威嚇したような鋭い目つきでも、俺が嘘をついているか見破ろうとしている目つきでもない。
とっとと帰りたいというような目つきだった。

「わ、分かりました…。」
そうは口にしたものの、心の中では許せるわけがない。

俺はお前らに追跡されて恐怖で震えたし、お前の仲間でリーダー格のトオルには、ぶっ殺すとまで言われている。
ましてや隣に住んでいるあのシングルマザーに対しての暴力だって警察に通報しなければならない。

あれは明らかに事件であり、絶対に知らぬふりはできない。

しかし、今ここでコイツらに怒りをぶつけたら全てが無駄になってしまう。

後で、しっかり警察に話せばいい。

怒りを晴らすのはそれからで、今はコイツらから解放される為に耐える時だ。


夜と違って怪しく黒光を放った海面は見る影もなく、ただの薄汚れた海に様変わりしていた。


間もなく朝を迎えようとしている。


























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