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夜風が俺の髪を靡かせて、そのまま素通りしていく。
「ドーン」という音が聞こえてから、何ごともなかったかのように一定の間隔で海から波の音が聞こえてくるだけだ。
この静けさがかえって不気味に感じる。
俺は先程まで居た三毛猫の後を追って、ここから逃げようと考えていたが今になって何故か足が動かない。
肝心の俺の足は一向に駅へと向かわなかった。
星空を見上げていた時と違って、今ではまるで地図に載っていないのではないかと思うくらい負のエネルギーが充満している場所に感じた。
なぜこんな危うい場所から一目散に逃げ出さないのか?自分でもさっぱり分からない。
電車も復旧したはずだ。
背中越しに自販機から「ボー」と無機質な音が聞こえる。
俺は振り返って自販機を見た。
普段なら、どんなに喉が乾いていても買う事はないラインナップである飲み物に目をやる。
でも今回は別だ。さっきは買わなかったが喉を潤すために買うべきだと判断した。
財布から小銭を取り出して投入口に入れる。
俺はリンゴジュースのボタンを押そうとした。
しかし誰かがライターでボタンを焼いたような跡がある。
少し不吉に思い、仕方なくリンゴジュースを諦め麦茶のボタンを押そうとしたその時だった。
さっきのようなシャッターを蹴るような音ではなく、今度は大声で怒鳴る男の声が聞こえた。
喧嘩だ。
声だけで判断するのなら、中年の男の声だ。
ヤンキーというより、チンピラーーーーヤクザかもしれない。
もしヤクザなら組を辞めたがっている若い奴を、辞めさせまいと追い込んでいるのかもしれない。
或いは下っ端が下手を打って、アニキにブチギレられている現場にでくわしているのではと俺は考えた。
ただの喧嘩ではない。ヤクザの喧嘩だ。俺は確信した。
一刻も早くここから逃げ出そう。
巻き込まれてはまずいぞ!
さっきまで足が動かないと思っていたけれど、ちゃんと動くじゃないか。
現に自販機から離れているんだから。
自販機にお金を投入したままだったので一瞬だけ返却しようかと頭をよぎったが、ケチな心が命取りになると思った矢先に、また怒鳴り声が聞こえた。
「馬鹿女が!!」
さっきのドスで人を刺したことのあるような中年男の声ではない。
ガニ股で、日本の裏の世界を知り尽くしたような男が繁華街を我が物顔で歩くそれとは全く異なっている声だった。
「この、アバズレ!なんか言えよ!」
すぐに、また同じ人物であろう者から怒鳴る声が聞こえた。
明らかに最初に怒鳴った中年男の声ではない。
どう聞いても女の声だ。
俺はヤクザ関連ではなく、男女関係のもつれかも?と思い始めた。
さっきまで、ビビっていたが喧嘩の理由が分かればどうという事はない。
ヤクザの喧嘩だの、確信しただの最悪な事態ばかり想定してパニックになっていたけれど実際は違ったんだ。
ヘタレの自分が情けなくなってしまった。
お金を投入した自販機にゆっくり近づき、改めて麦茶を買おうと思ったが、気が変わり梅ジュースをチョイスした。
「なんか言えよ!ずっと黙ってんじゃねーよ!」
また若い女の声が漆黒の空に響き渡る。
対してさっきの中年男の声は聞こえてこない。
サバンナに生息する草食動物が天敵である凶暴な肉食動物の発する危険を察知したかのように自販機を離れた時とは違う。
今は堂々とした態度で俺は自販機から離れた。
マジックの種を明かされた後と同じで恐怖心なんかない。
寧ろ余裕さえある。
ペットボトルの梅ジュースを片手に持ち、俺は金切り声を上げる若い女の声に近づいていく。
野次馬心があったわけではないが、気になっていた。
恐怖心が失せれば自然と興味が湧くものだ。だから俺は近づいているんだ。
三毛猫が警戒して見つめていた場所をスタスタ歩く。
街灯がなくて真っ暗な為、足元が分からなくて少し怖かった。
もし急な段差や躓くような物があれば転んで怪我をしてしまう可能性だってあるのだから。
俺は埠頭にある建物にたどり着いた。暗くてイマイチ確認出来ないが倉庫のようだ。
ひと口飲んだものの不味い梅ジュースは、まだたっぷりペットボトルに残っている。
麦茶にしておくべきだった。
カラカラに渇いた喉が水分を欲しがっている。
ここまで来ると、中年男がライターでタバコに火をつける音や鼻をすする音が聞こえてくる。
だが誰の姿も見れない。
倉庫の横で息を潜めている俺が奴らを見ようと身を乗り出せば見つかるリスクが高まる。
俺が廃墟らしき倉庫に辿り着いた頃には、金切り声を出していた若い女は別人になったかのようにボソボソと話す口調になっていた。
ボソボソと話すかわりに、ノンストップで話している。
鼻をすする音まで聞こえる距離にいるとはいえ、これでは何を話しているか聞き取れない。
一通り話し終えると、見下したような不気味な笑い声が聞こえた。
さほど面白くもないが相手の恐怖を煽ろうと、わざとらしく笑っているようにも聞こえる。
金切り声の若い女がボソボソ口調からまた先程のように怒鳴りながら「さあどうする?」と何かの選択を迫り始めた。
きっとボソボソ口調の時に条件を突きつけたのだろう。
「お願いだからそれだけは止めてよ!」と悲壮な声が俺の耳にハッキリ聞こえた。
その弱々しい声の持ち主は金切り声を上げていた若い女の声ではもちろんない。
全く別人の女の声だ。
「ドーン」という音が聞こえてから、何ごともなかったかのように一定の間隔で海から波の音が聞こえてくるだけだ。
この静けさがかえって不気味に感じる。
俺は先程まで居た三毛猫の後を追って、ここから逃げようと考えていたが今になって何故か足が動かない。
肝心の俺の足は一向に駅へと向かわなかった。
星空を見上げていた時と違って、今ではまるで地図に載っていないのではないかと思うくらい負のエネルギーが充満している場所に感じた。
なぜこんな危うい場所から一目散に逃げ出さないのか?自分でもさっぱり分からない。
電車も復旧したはずだ。
背中越しに自販機から「ボー」と無機質な音が聞こえる。
俺は振り返って自販機を見た。
普段なら、どんなに喉が乾いていても買う事はないラインナップである飲み物に目をやる。
でも今回は別だ。さっきは買わなかったが喉を潤すために買うべきだと判断した。
財布から小銭を取り出して投入口に入れる。
俺はリンゴジュースのボタンを押そうとした。
しかし誰かがライターでボタンを焼いたような跡がある。
少し不吉に思い、仕方なくリンゴジュースを諦め麦茶のボタンを押そうとしたその時だった。
さっきのようなシャッターを蹴るような音ではなく、今度は大声で怒鳴る男の声が聞こえた。
喧嘩だ。
声だけで判断するのなら、中年の男の声だ。
ヤンキーというより、チンピラーーーーヤクザかもしれない。
もしヤクザなら組を辞めたがっている若い奴を、辞めさせまいと追い込んでいるのかもしれない。
或いは下っ端が下手を打って、アニキにブチギレられている現場にでくわしているのではと俺は考えた。
ただの喧嘩ではない。ヤクザの喧嘩だ。俺は確信した。
一刻も早くここから逃げ出そう。
巻き込まれてはまずいぞ!
さっきまで足が動かないと思っていたけれど、ちゃんと動くじゃないか。
現に自販機から離れているんだから。
自販機にお金を投入したままだったので一瞬だけ返却しようかと頭をよぎったが、ケチな心が命取りになると思った矢先に、また怒鳴り声が聞こえた。
「馬鹿女が!!」
さっきのドスで人を刺したことのあるような中年男の声ではない。
ガニ股で、日本の裏の世界を知り尽くしたような男が繁華街を我が物顔で歩くそれとは全く異なっている声だった。
「この、アバズレ!なんか言えよ!」
すぐに、また同じ人物であろう者から怒鳴る声が聞こえた。
明らかに最初に怒鳴った中年男の声ではない。
どう聞いても女の声だ。
俺はヤクザ関連ではなく、男女関係のもつれかも?と思い始めた。
さっきまで、ビビっていたが喧嘩の理由が分かればどうという事はない。
ヤクザの喧嘩だの、確信しただの最悪な事態ばかり想定してパニックになっていたけれど実際は違ったんだ。
ヘタレの自分が情けなくなってしまった。
お金を投入した自販機にゆっくり近づき、改めて麦茶を買おうと思ったが、気が変わり梅ジュースをチョイスした。
「なんか言えよ!ずっと黙ってんじゃねーよ!」
また若い女の声が漆黒の空に響き渡る。
対してさっきの中年男の声は聞こえてこない。
サバンナに生息する草食動物が天敵である凶暴な肉食動物の発する危険を察知したかのように自販機を離れた時とは違う。
今は堂々とした態度で俺は自販機から離れた。
マジックの種を明かされた後と同じで恐怖心なんかない。
寧ろ余裕さえある。
ペットボトルの梅ジュースを片手に持ち、俺は金切り声を上げる若い女の声に近づいていく。
野次馬心があったわけではないが、気になっていた。
恐怖心が失せれば自然と興味が湧くものだ。だから俺は近づいているんだ。
三毛猫が警戒して見つめていた場所をスタスタ歩く。
街灯がなくて真っ暗な為、足元が分からなくて少し怖かった。
もし急な段差や躓くような物があれば転んで怪我をしてしまう可能性だってあるのだから。
俺は埠頭にある建物にたどり着いた。暗くてイマイチ確認出来ないが倉庫のようだ。
ひと口飲んだものの不味い梅ジュースは、まだたっぷりペットボトルに残っている。
麦茶にしておくべきだった。
カラカラに渇いた喉が水分を欲しがっている。
ここまで来ると、中年男がライターでタバコに火をつける音や鼻をすする音が聞こえてくる。
だが誰の姿も見れない。
倉庫の横で息を潜めている俺が奴らを見ようと身を乗り出せば見つかるリスクが高まる。
俺が廃墟らしき倉庫に辿り着いた頃には、金切り声を出していた若い女は別人になったかのようにボソボソと話す口調になっていた。
ボソボソと話すかわりに、ノンストップで話している。
鼻をすする音まで聞こえる距離にいるとはいえ、これでは何を話しているか聞き取れない。
一通り話し終えると、見下したような不気味な笑い声が聞こえた。
さほど面白くもないが相手の恐怖を煽ろうと、わざとらしく笑っているようにも聞こえる。
金切り声の若い女がボソボソ口調からまた先程のように怒鳴りながら「さあどうする?」と何かの選択を迫り始めた。
きっとボソボソ口調の時に条件を突きつけたのだろう。
「お願いだからそれだけは止めてよ!」と悲壮な声が俺の耳にハッキリ聞こえた。
その弱々しい声の持ち主は金切り声を上げていた若い女の声ではもちろんない。
全く別人の女の声だ。
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